第4片 真相審理
登場人物のセリフに倫理に反する行動を示唆するものが含まれる可能性があります。
まずいことになった。アッキーがどこにも見つからない。それに高槻さんもだ。
1階の大広間で合流することになっていたのに。1階から3階の廊下を含め人目につく場所を隈なく探した。でも、二人の姿はどこにも無かった。
急がば回れだ。今は人手が欲しい。そう考え、訪れた使用人室には瑞葵さんと流山君が居た。
「すいませんっ。協力をお願いします」
「どっ、どうしましたか? 探偵さん」
「何やらただならぬ様子ですねー。何がありました?」
全国の母親のごとく、形式上のノックだけして即座にドアを開いたからだろうか、僕の鬼気迫る表情を見たからだろうか、二人とも緊張感のある顔になっている。
「アッキーと高槻さんがどこにも見当たらない」
「それは心配ですね!でも二人でいるなら大丈夫じゃないですか?」
「僕の中で高槻さんは容疑者の第一候補なんだ」
「はあー………。そういうことはもっと早く言ってください」
うわっ。瑞葵さん切れてる。
「えっえっえっ、そ、それじゃあ、やばいじゃないですか!」
流山君は顔面蒼白だった。
「聡君は平塚さんを見つけ次第、早急に捜索に乗り出してください。こっちはこの報連相ができてない男と一緒に二人を探しに行きます」
「了解です!」
高槻さんならまだしも瑞葵さんにも辛辣な態度を取られると辛かった。
客室。
物置。
クソッ。見つからない。
「落ち着いてください。暁人様なら大丈夫です」
瑞葵さん妙に落ち着いている?さっき怒ってなかった?
流山君が向かった方向的に僕たちが探すべき場所はアッキーの部屋だ。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
鍵がかかっている!どうしよう。考えろ。こういうときは———
「ああもう、じれったいですね」
その言葉が僕の耳に届くやいなやドアが吹き飛んでいた。後で僕。殺されるかも。
「アッキー!」「暁人様!」
僕たちが急いで部屋へ押し入ると磔にされた人影があった。部屋が暗くて良く見えない。そう思うと即座に電気が付く。瑞葵さん頼もし。
光に目が慣れるとそこに浮かび上がったのは目を疑う光景だった。
呆然として壁に磔にされる高槻さんと、余裕そうにあくびをするアッキー、そして2mはありそうな大男だった。大男は背中に丸太ほどの巨大な杭状の物体(よく見ると槍。だろうか?)を背負いそれとは対照的にか細い槍(こちらが槍だからやはりもう一本も槍だろう)で高槻さんのメイド服を貫き壁に固定していた。さながら昆虫標本の有様だった。
「よっ。何やら心配してくれたみたいだけど俺はこの通り平気だぜ」
「ナニコレ?」
「強いて言うなら正当防衛?」
本当になにこれ。これ僕がわざわざ事件を解決しようとしなくてもどうとでもなったんじゃない?
「私がこの場に誰も立ち入れないように致します」
「おう。ありがとな瑞葵。さっすが気が利くぜ」
「それではごゆっくりとー」
そういうと瑞葵さんは部屋をあとにした。
心配したのがバカみたい。
「で、それ誰?新キャラ?ここに来て?」
「お前からすれば、新キャラと言えば新キャラかな。こいつは『双槍』俺の『能無し』のうちの一体だ」
「能無しってなんだっけ?」
「俺らが操る死体のこと。ケッコー苦労したんだぜ?こいつ手に入れるの。まあまあ自慢は後にして」
「志木。見損なったぜ。俺の妹を殺そうとするなんてな」
普段のアッキーからは想像できない程冷たい声だった。
やはり。そうか。
高槻さんは先ほどまで固く閉じていた口を開く。
「私はもう。誰かに危害を加えるつもりはありません」
「私に一つ申し開きをさせていただけるなら。あれは事故だったのです。
「私は私の主君の為千旭ちゃんを殺そうとしておりました。
他の3家のどこかというのはきっと死んでも口を割らないだろうし、もしも判明してしまったらとんでもない争いの火種になるだろう。だからそれは僕が深堀りしていい内容じゃないだろう。
「佐波蘭さんにそれを看破され、廊下側の窓から突き落とそうとしました。
佐波蘭さんに説得され、拘束を解こうとしたとき、窓が開いたのです。確かに閉めたはずの窓が。
「そして落下しました。
「そのまま佐波蘭さんは体のあちこちに鋭い枝が突き刺さって死にました。即死はしなかったのでしょう。大広間までは自力で這って移動したようですが……。私が下におりる頃には既に脈が停止していました」
そうか……。てっきり大広間めがけ二階から落とされたと思っていた。血を引きづった跡が無かったから。でも大広間には赤いカーペットが敷かれていたのだ。血の跡なんてあるか分かるはずがなかった。
(因みに刺殺については僕は一言もナイフやアイスピックなんて凶器は言っていないよ。)
だから屋敷の内部での怪しい目撃情報が無かったのか。決定的瞬間は外で起こっていたのだから。
「探偵さん約束しましたよね」
嗚呼。
そんな目で見ないでくれ。審判を心待ちにするように。罪を贖おうとするかのように。
身を委ねないでくれ。僕にはそれは重過ぎる。
覚えているさ。当然。
嫌なんだから、約束なんて。
この僕の言葉に。責任が生じてしまうから。
僕も本来はそちら側なのだから…………。
肩に何かが触れた。
これは手だ。アッキーの手。
それが僕を地獄に引きずり込んでくれる手だったらどれほど。どれほど良かったことだろう。
人肌のぬくもりが伝わってくる。掴もうとするのではない。ただ接触している。人が一人ではないと確かに感じ取れるだけの心地の良い安心感。
やめてくれ。人間関係は僕には過ぎたもので。
やめないでくれ。だからこそ、それすら罰に感じられて。
だから。だから………。
「別に。勘違いすんじゃねぇよ」
「お前の為じゃない」
「ただ、お前には別に高槻を裁く必要は無いってだけだよ」
「それはオヤジが決めることだ」
「それに許さないってんなら、可愛い妹を狙われた俺が許さねぇよ」
気が付くと大男と槍は消えていて、瑞葵さんと平塚さん、それに流山くんが入って来ていた。そして、床にへたり込む高槻さんをどこかへと連れて行ってしまった。
高槻さんはもはや糸の切れた操り人形のように無抵抗だった。
高槻さんはどこか遠くの地へ左遷になるらしい。起こした事件にしてはなかなか軽い罰で済んだようで何よりだ。(まさか、遠い地とやらが南極や宇宙空間なんてことはあるまい)
———結局。佐波蘭さんの助手として来ていた僕は千旭ちゃんのカラフルピースは解明できなかったため、お役御免で帰ることとなった。そうなのだ。追加のタスクをクリアしただけで別に当初の目的は達成できてないのだった。
えっ?瑞葵さんとの入浴がどうなったかって?
そこは想像にお任せしよう。と、言いたいところだがここでは憚られる内容なので後日話すとしよう。
「というわけで今日が最後のお話だよ千旭ちゃん」
正直、もうほとんどネタ切れだけどね。
「千旭ちゃん?」
千旭ちゃんがうつむいて、どこか虚ろな目をしている。
「あなたに正しい選択を授けましょう」
これは『宣託師』状態なのか?
「あなたは東花家を去るでしょうが、お兄ちゃんを始め我が家の人たちとは仲良くするという選択をしなさい」
ごくり。と思わず緊張から唾を飲み込んでしまう。
口調も語彙も全く違う。これが千旭ちゃんのカラフルピースか。
「なんちゃって」
「ふぇっ?」
「アハハ!すげー馬鹿みたいな面してんな兄ちゃん」
なんだ口調がいきなりアッキーみたいになったぞ。
「同じ罪悪感のカラフルピースのよしみとして、あんたには真相を教えてやろう」
「今回の事件で黒幕がいるとしたら俺様さ。まさか、こんな上手くいくとは思わなかったぜ。
冷汗が首のあたりを伝う。誰が、何だって?
「お前は一体誰だ?」
「まあまあ聞けって、全部話してやるから。まずは俺様のカラフルピースから話そう。
「さっきもいったが俺様のカラフルピースは罪悪感。
「どういう罪悪感か。それは、この体さ。
「俺様はうだつの上がらない成人男性だった。
「?」
「ずっと考えていたんだ。将来どうなりたいかって。
「人に誇れる長所も趣味も無い。友人もいない。当然恋人もいない。家族とは音信不通。
「ずっと、ずっと。考えていたんだ。来世は美少女になりたいって。成績優秀。スポーツ万能。品行方正。そんな全てを持った完璧な美少女に。
「笑っちまうだろ、将来の夢として来世になりたいものを願ってるんだぜ。
「ただ祈ってるんだ。今よりもマシになることを。
「何故か信じているんだ。来世も記憶があると。何故か望んでいるんだ美少女になることを。
「気持ち悪い。気持ち悪い。自分自身が気持ち悪いって心底思うぜ。
「でも、本当は分かっていたんだ。既に俺様は何でも持っていたって。
「実家の財政状況は良かった。大学まで何も苦労することなく。奨学金なんて無縁の学生生活を送れた。
「家庭環境は良かった。親も兄弟もいつでも親身に相談に乗ってくれた。俺様のやりたいことはいつも否定せずに応援してくれた。
「頭も悪くなかった。ちょっと勉強すれば、学年で上位の成績が取れた。他人が分からないという感情が良く分からなかった。
「それでも俺様はどうしようもなく怠惰だった。人間関係が面倒だから誰も友達を作らなかった。何もしたくないから、無為にネットにこもり一日中時間を潰した。努力する振りするだけして受験は限界まで勉強しなかった。
「そんなある日。気がつくと俺は赤ん坊になっていた。
「でもな、いざなってみるとふと考えちまったんだ。本来生まれるはずだった「東花千旭」はどこへ行ったんだ?その魂は?
「俺様は一人の人間の人生を乗っ取ったんだ。殺すよりもタチが悪い。そもそもの生まれる権利さえ奪ったんだから。「東花千旭」はこの世に生を受けることすらできなかった。
「だから。だからさ。俺様は作ったんだ。ほとんど無意識に。「東花千旭」の人格を。
「俺様が宣託師になったのはたまたまだった。
「普段は「千旭」の人生をまるで質の良い4Ⅾ映画を第三者的に見てる感じなんだが、たまに俺様の人格が浮かびあがってきちまうんだ。
「そいでそれを平塚のばあさんに見られてな。
「誤魔化すために適当言ってたら、宣託師になっちまった。
「これが俺様のカラフルピース。宣託師の正体さ。
「ここまでは俺様の話。
「高槻が俺の部屋の前で話し声を聞いていたって言ったらしいな。
「あれは俺様と話していたのさ。
「疑問に思わなかったか?
「死亡時刻に目撃情報が無いのがそもそもの犯行場所が異なっていたとしてもその数時間前から目撃情報が無いことがおかしいってことに。
「嘘をついていたのは俺様の方さ。まあ「千旭」の方には記憶が無いのは本当だがな。
「何を話していたか、だが。俺様はかねてより、高槻に狙われていることは知っていた。
「俺様は死ぬわけにはいかないのさ。本来の「東花千旭」の分も生きるために。偽物でも「千旭」を殺させないために。
「だから俺様は宣託師の立場を利用して、常にあいつが犯行に及べないよう賓客を招かせていたのさ。
「たまたま今回は、死に場所を探していた爺さんでな。だから、お前が死ねば、誰も罪を犯さずに済むんだぜってことを教えてやった。
「あれは自殺だったのさ。自分で窓を開けて自分から落ちた。丁度瑞葵さんが柔らかい若枝を剪定していたから。
「よーく、刺さったろうぜ。
「だから高槻は誰も殺さなかったし、俺様も命の危険がなくなって、爺さんは少しでも罪悪感を減らして逝けて皆ハッピーな結末になったってことさ。」
———————何だよ。。。。それ
こうして、僕の頭にまた一つ嫌な記憶が残ることとなったのだった。
カラフルピースシリーズ 第一話 『東花の一族』 収集完了
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「探偵」は信用できない語り手だという話でした。
2話にいく前に短編というか単片が差し込まれますが最悪見なくても本編は追えるはずです。
未回収の伏線が複数ありますのでもしも少しでも興味を持ってくださいましたらこの先も読んでいただけると作者は快楽を感じます。




