第1片 決戦前――性性家の場合
至る所がハネていて寝ぐせなのか癖っ毛なのか分からないようなボサボサのショートヘアと対照的に綺麗に櫛でとかされたボブカットが視界の大半を埋め尽くしていた。いつからかつけているお揃いの何かしらの葉を模した髪留め以外は正反対と言えるような二人組。
元気溌剌というキャッチフレーズが大変よく似合う、大変活気のある多感のカラフルピースの最中とその陰に隠れるように引っ込み思案な共感のカラフルピースの笹は家の娘達なのだ。
「絶対に助けに行くから!!「なのです!」」
「絶対に絶対に駄目だ!」
頭を抱えたくなる。というか既に抱えている。何ならため息まで出ている。
もう何回このやりとりをしたのか思い出せない。こうなるといつもこちらが折れるまで終わらないのだ。
ぼくが普段から甘いのがいけないのだけれど。でも、二人の置かれた境遇を考えると、どうしても最後の最後で本人の意思を尊重したくなってしまうのだ。
甘さと優しさの区別はついているつもりだけれども、良心の呵責に苛まれて厳しく線引きをしなければいけない場面から逃げ出してしまう。
その度に自分の弱さに自己嫌悪に陥りそうになる。
柏最中と今川笹は天涯孤独なのだ
14年前。存在を抹消されたとある街があった。
その隣、粒餡町に住んでいた二人の両親達はエックスデーに居合わせてしまったのだ。
何が起こったのかは知る由もない。遺族は「土砂災害に巻き込まれて町民が全員死亡した。」なんて馬鹿げた話を聞かされることとなる。後に調査をしても、地盤も脆く無ければ天候や地震といった外的要因も少なくとも粒餡町からは観測出来なかったというのに。何より数百人居る町民と外部からやってきた者からただの一人も生存者が出ていない。そして、それらの情報ですら微塵もニュースで報道されなかったのだ。
明らかに何かしらの情報統制がなされている。
遺族には莫大な補償金と支援がなされることとなる。本来なら未成年は孤児院に入れられることになるところなのだけれども保母さんを雇ってまで母さんがコネで家に引き取ったのだ。
普段から何をしているか分からない人なのでどんなコネなのかも分からなければ何を考えていたのかも分からない。普段は家にいないし。父さんもデザイナーの仕事で海外に行っている。
そもそも性性なんて珍妙な苗字にダメ押しとばかりに性性なんてふざけた名前をつけるような人達なのだ。未だに両親のことをあまり理解できているとは言えないのかもしれない。
「おにぃ!「兄者!」 お願いだよ……。いずくさんを一緒に助けに行かせてよ……」
今にも泣き出しそうな笹と既にぽとぽとと涙を流している最中の顔を見ると思わず自己嫌悪に陥りたくなってしまう。
時たま家に遊びに来る賊烏に二人はよく懐いているのだ。
だけど、今回ばかりは折れるわけには行かない。
「駄目だ」
「じゃあなんで最中達に伝えたりしたの!「そうだよ!」」
「今回はぼくも生きて帰れるかは正直分からないから……。お前らに後のことは頼みたかったんだよ」
「なおさらじゃん! 「だよ!」、最中達がそれを分かった上で行かせると思ってんの?」
「二人なら理解して引き受けてくれると思ってたんだけどな」
「分っかんないよ!! そんなの!」
「お前らじゃぼくよりも何倍も危ない目に遭うかもしれないの!」
「おにぃはいつもそうだよね。そうやって最中達を大人扱いするくせに肝心の責任だけは自分がおっ被って守ろうとするんだから!「その通りなのですよ。私達は半人前だけど私達なら一人前だって言ったのは兄者なのです。リスクを背負うだけの能力は充分あるのですよ」」
「……いいか。これはただの戦争じゃないんだよ。この世界を裏で牛耳ってるような奴らとやり会うってことはただの勝ち負けで終わるようなモノでは絶対に無い」
名前も残っていない町のことを考える。
——ここで二人の境遇のことを思い出すのは決して、的外れでは無いはずだ。
「……兄者が何を考えているかは分かります。私の本当の母上と父上を失ったことはとても悲しいことです。ときどき、寝る前に漠然とした恐怖を感じることがあります。それでも、隣で寝ているモカちゃんの顔を見て、兄者のことを考えると不思議と胸の奥が温かな気持ちになって、ぐっすりと眠れるのです。」
「最中の本当のパパとママが死んじゃったときは悲しかった――と思うよ。でも、それってさ、物心がつくかどうかぐらいのことでさ。こんなこと言っちゃいけないのは分かってるけど……もう、そこまで悲しく無いんだ。……だってさ、ずっと笹とおにぃが居たから。ずっと、今日まで家族だったじゃん。だから……! だから、これからも一緒に居てよ……」
自然とぼくらは抱き合っていて、しばらく泣いた。
「いいよ。ついて来い」
「おにぃ! 「兄者!」」
「ただし、全力で保護させてもらうけどね」
「足手まといにはならないよ! 「というか、兄者は誰かを守っているときの方が強いのです」」
ははっ。結局いつもぼくが折れることになるんだから。
例の件はアンジーならきっと上手くやってくれるはず。
だから、ぼくはただ、全身全霊で、敵を打ち取る。




