最終話
今日、私はウォルフ殿下に嘘を吐きました。
目的は仕返し。私に魅了魔法とやらをかけようとしたこと、というよりも今まで散々意地悪な態度を取ってきたことへの。
「実は私は呪術アレルギーでして、呪術にかかると命に関わると医者にも言われているのです。聞けば王都では魅了魔法と呼ばれる呪術が流行っているとか」
呪術アレルギーというワードを思いついた私は、ウォルフ様にこのような嘘八百を述べました。
彼の顔色がみるみる悪くなります。
うふふ、魅了魔法をかけようとしたことを後悔するがいいです。
しかし、プライドの高いウォルフ様のこと。そう簡単には魅了魔法を使ったことをお認めにならないでしょう。
「シャルロット、僕はあなたに魅了魔法を使った……」
――意外です。すぐに認めましたね。
思ったよりもショックだったのでしょうか。なんだか、こちらが性格が悪いみたいになっています。
魅了魔法をかけたことも本気で後悔しているみたいですし、私としてもかなり溜飲は下っているのですが。
その上、大切な人にこれ以上嘘を吐かないって、まるで私のことをこの人は……。
くっ、何で騙して仕返しをする側の私がこんなに恥ずかしくなっているのですか。
本当に分かりません。そもそも魅了魔法を私に使ったワケが。
もういいです。それをさっさと聞いてしまって終わりにしましょう。
「シャルロットの心が欲しかったからだ。あなたに初めて会ったときに一目惚れした。あなたほど美しい女性を見たことが無かったから――」
ひ、一目惚れって。
まさか、ハンスが言ってた通りってことですか?
そんなのおかしいです。だって、婚約者になったのですよ。
あんなに突き放すような態度――どう考えても変じゃないですか。
なんか、段々腹が立ってきました。
どうして、はっきり態度に出さないどころかその逆の態度になってしまったのか。
魅了魔法なんて使わなくったって私は、私は――
「……って下さい!」
「えっ……?」
「謝って下さい! わ、私に意地悪なことを言ったこと全部謝って下さい! 好きなら好きだって言ってくれれば良いじゃないですか! どう考えても、まどろっこしいのですよ、魅了魔法なんて!」
感情を全部言葉に込めて吐き出しました。
家のことを考えると我慢した方が正解だったのかもしれません。
でも、どう頑張っても飲み込むことが出来なかったのです。
「しゃ、シャルロット? い、いや、確かに悪いとは思っているが……。謝るのは魅了魔法を使ったことではないのか……?」
「魅了魔法なんて効くはずないじゃないですか! あんなの使わなくったっていくらでも好きになりますよ! 私はウォルフ様の良いところもいっぱい知ってますから! あの真珠のブローチが母の形見だと知っているから、きちんと誰の指紋もつかないようにキレイに保存してくれるような几帳面なところとか! 私はずっと貴方のことを見ていたのですよ!」
止まらなかった。
蓋をしようと努力してみましたが、言葉がずーっと止まりませんでした。
思えば、私も悪かったのかもしれません。
ウォルフ殿下から婚約破棄される事が怖くて感情を表に出さないように努めていましたから。
彼にとっては、顔色ばかり見ている嫌な女になっていたのかもしれません。
と、取り敢えず謝った方が良いですよね? 許されないかもしれませんが……。
「う、ウォルフ様、そうは申しましたが、私は――」
「では、シャルロットは魅了魔法にはかかっておらず、呪術アレルギーでもないのだな?」
「は、はい、そうですが……、そのう……」
「良かった……! シャルロット、私が悪かった! どうしても怖かったのだ。親同士が決めた婚約であなたの気持ちが私に無いだろうと思い込んでいたから――好意を伝えることにこれ以上ないくらい臆病になっていた! このとおりだ! 許してくれ!」
ウォルフ殿下が頭を下げました。
プライドが高くて、絶対に自分の非を認めるような方ではないと思っていましたのに。
そうですか。この方も私と同じでただ臆病になっていただけだったのですね。
「ウォルフ様、私こそ申し訳ありません。私もウォルフ様に嫌われることが怖くて我慢していた部分が多かったですから、可愛げがなく見えていたかもしれません」
私もウォルフ殿下に頭を下げました。
二人とも好意を伝えることに、あるいは嫌悪感を抱かれないために見えない何かを恐れていただけ。
それが拗れてしまって、おかしなことが起こってしまったのです。
「シャルロットを嫌いになるはずがない……! そ、それに可愛げないなんて、とんでもない。君はいつも可憐過ぎて僕を悩ませていた……!」
「……そ、それは何とも、照れくさい話ですね」
このあと私たちは時間を忘れてお互いのことを話しました。
不思議なもので、何度も顔を合わせていますのに、今日初めて出会ったかのように新鮮な気持ちでお話しすることが出来ました。
ウォルフ殿下、こういう表情もされるのですね。もっと早く知っておけば良かったです。
「おっと、もうこんな時間か。エリーシャ、どうして教えてくれなかった」
「何度もお伝えしましたよ。ねぇ、ハンスさん」
「えっ? いや、まぁ。シャルロットお嬢様もウォルフ殿下も自分たちの世界に入って気付かなかったのでしょうね。あはは……」
気付けば夜も更けて、外は真っ暗になっていました。
ハンス、私たちが人の話を聞かないほど話に没頭していたとでも? まったく、生意気な子です。
「では、シャルロット。名残惜しいが、また会える日を楽しみにしている」
「ええ、私も寂しいですが……。いつの日かずっと共に居られる日を待ち望みながら、今を楽しみますわ」
こうして、私とウォルフ殿下を悩ませた魅了魔法を巡る騒動は終わりを告げました。
魅了魔法なんて都合の良いものはないのかもしれませんが、だからこそ人と人が分かり合うことは尊いのだと、私は思います。
人と繋がることは難しい。
拒絶されることが怖くない人間など居ないのですから当たり前です。
それでも、それを恐れずに一歩進む勇気こそ、或いは人はそれを“愛”だと呼ぶのかもしれません。
私とウォルフ殿下はそんな愛の道をようやく一歩進むことが出来ました――。
小さな幸せを胸に抱きながら――。
私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました
~完~
最終話まで読んで頂いてありがとうございます。
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