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花火と繋いだ手

 美智さんとカノンさんは、お菓子を食べると二人で羽里に浴衣を選ぶために向かった。

 私と匠君は残ってそのまま勉強を続け、夕刻に迎えに来てくれた五王家の車で一度私の家に。


 家に戻るとお母さんが仕事から戻って来ていたので、匠君の家にお泊りの件をお願いしたら少し渋られてしまった。

 最近、五王家のお世話になり過ぎではないか? って。

 駄目そうだったので家の外で待っている匠君に断ろうとしたら、今度は匠君が私の代わりに事情を説明してくれたお蔭であっさり許可は下りた。

 やっぱり両親にとって五王の名は強い。

 両親だけじゃなく、六条院はそうかもしれないけど……


 宿泊許可を貰った私は、匠君と共にレオン君達が待つ五王家へ向かえることになった。

 移動中の車内の窓から見える風景は、オレンジ色の夕日が沈み、うっすらと空が黒く染まりかけている。

 時間の経過は本当に早くてあっという間だ。


「朱音、カノンの事をどう思う?」

 隣に座っている匠君が不安そうな表情を浮かべて訊ねてきたため、私は首を傾げてしまう。

 どういう意図があるのだろうか?

 よくわからないけど、私は思ったまま素直に告げた。


「レオン君が大きくなったら、カノンさんみたいになるのかなって思ったよ」

「それだけ? かっこいいと思ったとか……男らしいとか……アメリカ行きたくなったとか……」

「んー。かっこいいとは思ったかな」

「やっぱりっ!?」

 匠君は、がくりと肩を大きく落とす。


「匠君もかっこいいよ。二人して並んでいるとモデルさんみたい」

「あ、ありがとう」

「カノンさんが身長大きいから、レオン君も大きくなりそうだよね。私、レオン君にあっという間に身長を抜かれちゃうかも。レオン君、五王家に滞在している時は一人で寝ているの? この間は、私と一緒に寝てくれたけど」

「自宅では一人で寝ているよ。五王家では、俺の部屋で寝ている。この間、レオンのやつ、夜中トイレに行った時に間違えて俺の布団に潜り込んで寝ちゃってさ。シロとレオンに挟まれてぎゅうぎゅうで夜中に暑くて起きちゃったんだ。暑いから冷房の温度を下げたいのに、しがみ付かれて身動き取れないし」

 その風景が頭の中に映像として浮かんでしまって、ついクスクスと笑ってしまう。

 想像するだけでもう可愛い。本当に匠君は愛されキャラだ。


 匠君とおしゃべりをしていたら、あっという間に五王家に到着。

 彼と一緒に玄関に入れば、ダダダッと廊下を駆けてくる音が届き、私は靴を脱ぐのを止めた。

 顔を上げれば、「朱音―っ!」という可愛い声と「わふっ」という楽しそうな二つの声が届く。


「レオン君、シロちゃん!」

 レオン君はカノンさんに見せて貰ったスマホの画像の時と同じ格好をしている。

 耳のカチューシャと遊園地のTシャツがとっても可愛らしい。

 シロちゃんはいつものとおり、ふわふわだ。


「さっきカノンにーちゃんに聞いた。朱音が俺に会いにくるって。俺に会いたかったんだろ?」

「うん。レオン君に会いたかったんだ」

 私は屈み込んでレオン君を抱きしめれば、「そうだろー」とレオン君もぎゅっとしてくれて嬉しい。

 シロちゃんは匠君にじゃれついている。


「なんだ、匠。羨ましそうにして。仕方ない。匠にも特別にハグを許してやるぞ!」

「……いや、そうじゃない」

 レオン君は私から身を離すと匠君に向かって腕を広げたので、匠君が屈み込んで軽く抱きしめれば、レオン君が満足した表情を浮かべている。


「わふっ」

「シロちゃん、こんにちは」

 私は腕を伸ばしてシロちゃんを撫でれば、しっぽをぶんぶんと振っている。


「二人とも、お帰りー」

 廊下の先から声が聞こえてきたので、私が視線を向ければ匠君のお父さんの姿が。


「今日は、お世話になります」

「朱音ちゃんならいつでも大歓迎だよ。自分のうちと思って寛いでね」

 匠君のお父さんは、腕に女の子を抱っこしながら言った。


 匠君のお父さんが抱っこしているのは、カノンさんが見せてくれたスマホの画面に写っていた女の子。

 彼女は私と視線が交わるとふわりと微笑んだ。

 そして、匠君のお父さんに「おじさま、下ろして下さい」と告げる。


「初めまして。朱音お姉ちゃん。私、ミレイです。レオンお兄ちゃんにお友達になったと聞きました。ミレイともお友達になってください」

「勿論です!」

 私は即答だった。


「是非、お友達になって下さい。私、露木朱音といいます。よろしくお願いします」

 私が屈み込んでミレイちゃんと視線を合わせれば、彼女は嬉しそうに私に抱き付いてくれた。

 もう可愛い。弟と妹がいたら、こんな感じなのだろうか。

 妹はいるけど、あまり仲がよくないから……


「ミレイ、良かったねー。朱音ちゃんがお友達になってくれて」

「うん」

 にこにことしているミレイちゃんを匠君のお父さんが頭を撫でた。





 +

 +

 +




 夜の帳が降りた頃。

 みんなで楽しく夕食を食べた私達は、全員で五王家の庭にやって来ていた。


 どこかで虫の鳴き声が聞こえる中、ひっそりとした庭はどこまでも続いていそうに感じる。

 日中でも広く感じるけど、夜であまり視界がよくないから余計にそう感じるのかも。


 カノンさんが浴衣で花火! と宣言したとおり、全員浴衣に着替えての集合だ。

 私は浴衣を持って来ていなかったため、美智さんの浴衣を貸して貰っている。


「レオン君もミレイちゃんも浴衣姿がとても可愛いね」

「だろ! 俺は何でも似合うんだ!」

「浴衣だいすきなの」

 ミレイちゃんは白地に花火の柄の浴衣を着て、長い髪は丸い花が付けられたゴムで片方に纏めて結っている。

 レオン君はあまり見かけないトランプ柄の浴衣で元気いっぱいのレオン君に似合う。

 二人の浴衣はカノンさんが羽里で購入してきたものだ。


「ねぇ、美智。この角度どう?」

 ふと、傍で声が届いてきたので、私はそちらに意識と視線を奪われてしまう。

 そこにいたのは、美智さんとカノンさん。

 美智さんは毬柄の浴衣姿で、首から下げている一眼レフを構えてカノンさんを撮影している。

 カノンさんは市松模様の浴衣を纏ながら、美智さんの前でポージング中だ。


「……カノンお兄様。あと何枚撮影すればよろしいのですか? 結構な枚数を撮影しているのですが」

「浴衣チェンジして撮影したいなぁ。せっかくいっぱいお気に入りの浴衣を買ったんだし」

「花火の時間が無くなってもよろしいのでしたら構いませんわよ」

「えー、それ困る」

 浴衣が好きと公言していた通り、カノンさんはにこにこと笑顔。

 彼は一枚一枚ポーズを変えて撮影して貰っているんだけどすごく幸せそう。

 美智さんはちょっと疲れているみたいだ。


「六条院の女王にカメラマンをさせる男なんてカノンぐらいだな。美智ってどちらかといえば、撮られる側だし」

 私の隣に立っている匠君が呟く。


 勿論、彼も浴衣姿だ。グレーに近い生地で作られた浴衣なんだけど、すごく似合っている。

 美智さんは着物が多いけれども、匠君はほとんど洋服だから新鮮だ。


「朱音、浴衣すごく似合っているよ」

「ありがとう。でも、ちょっと落ち着かないかも。着慣れてなくて……」

 私が着ているのは美智さんに借りた浴衣。

 淡い水色の浴衣でウサギと月が描かれているものだ。

 髪は一つに纏めてかんざしで纏めている。


「おじさん、花火やってもいいか!?」

「そうだね。そろそろ始めようか」

 レオン君の声に対して、匠君のお父さんは穏やかな笑みを浮かべると地面へ蝋燭を立てライターで火を灯す。

 傍には水の入ったバケツがあり、消火の準備も完璧だ。


「花火だ―っ!」

「花火!」

 カノンさんとレオン君がテンションを上げながら早速手に持っていた花火へと火を灯す。

 闇夜に浮かぶ花火はオレンジやグリーンなど色を変え、レオン君やミレイちゃんの笑顔を浮かび上がらせてくれている。


 私と匠君達もレオン君達に続き花火を楽しんだ。

 だんだんと用意していた花火の本数がなくなりかけ、いよいよ終盤に差し掛かかれば、カノンさんに声を掛けられてしまう。


「朱音ちゃん。線香花火をやろうよ。あっちでちょっと二人きりでお話をしながらさ!」

「「え」」

 話ってなんだろう? と首を傾げていると、匠君と美智さんの重なった声が届く。

 二人とも花火が終わってしまっているのに、未だに手に持ったまま目を大きく見開きカノンさんを見詰めている。


「なんで、朱音と二人で線香花火!?」

「朱音ちゃんと二人きりでお話したいし、線香花火もやりたいから。ちゃんと匠の目の届くところでやるよー。ね、朱音ちゃん良いかな?」

「はい」

 私はカノンさんに促され、足を進める。


 匠君達からは少し離れた場所にやってくると、「花火をやりながら話そうか」とカノンさんが屈み込んでしまう。

 私も彼に続き屈み込めば、「どうぞ」と火のついた線香花火を渡されたのでお礼を言って受け取る。


「僕、線香花火って一番好きなんだよね。綺麗で儚い」

「私も好きです」

「ほんと? 一緒だね!」

 カノンさんが笑みを浮かべた。


「ねぇ、朱音ちゃん。誘っておいてなんだけど、見ず知らずの男の人と二人きりになっちゃ駄目だよ? 暗闇だし。男は狼だからね。朱音ちゃんの警戒心のないところも凄く好みだけど、同時に心配になっちゃう」

「警戒心ですが……?」

 カノンさんは匠君の従兄というカテゴリ内にあるし、警戒するところがないと思っている。


「僕も男だからねー。あっ、でも大丈夫。朱音ちゃんの嫌がることというか、女の子を傷つけるようなことはしないから。まず、匠を敵に回したくないし。僕、匠の事も大好きだから」

「匠君はみんなに愛されていますね」

「愛されキャラだよね。特にレオンは匠に懐いていて、家でも匠の話をするから嫉妬しちゃう。僕がお兄ちゃんなのに。だから、いっぱいレオンをぎゅってするんだ。子供扱いするな! って、頬を膨らませて怒るんだけど、それもまた可愛い」

 どうやらカノンさんはレオン君に構いまくっているようだ。

 でも、頬を膨らませているレオン君を想像するだけでかわいいので同意する。


「匠は朱音ちゃんを傷つけることを絶対にしない。それは誓える。でも、匠以外の人はわからない。高校卒業して大学に進学したらもっと交友関係が広くなっていくと思う。出会う人が全員善人ではない。朱音ちゃんはちょっと警戒するくらいがちょうど良いのかも」

「警戒……」

「そう。今の現状もそうだよ。僕達は匠のいる位置から目視できる距離だけど、結構離れている。ここで朱音ちゃんにキスする時間くらいあるよ」

「えっ!?」

 突然出て来た言葉に対して、私は裏返った声を上げてしまう。

 想像もしていなかった台詞だったため、私は急激に頬が熱くなってしまった。


「隙あらば……という男もいるってことを頭の片隅に覚えておいて。匠や美智が必ず助けに行けるということは言えないし」

「気を付けます」

「うん。気を付けてね。そんな朱音ちゃんに、いいこいいこしてあげる! レオンにやると怒られるけど、ミレイなら喜ぶんだ」

 カノンさんが腕を伸ばして私の頭に触れた瞬間、「カノン!」という匠君の絶叫が飛んできた。

 すると、カノンさんが「あっ、つい癖で」と言葉を漏らす。


「花火も終わっちゃったし、もう戻ろうか」

「はい」

 カノンさんが立ち上がると私へと手を差し伸べてくれたので、私は手を借りて立ち上がる。


 ――なんだろう? 


 触れた掌から伝わる体温などに違和感を覚えてしまった。

 修学旅行の時も感じて匠君に言ったけど、どうしても匠君を浮かべて比較してしまう。

 匠君と手を繋ぐと落ち着くというか、心地よいし温かくなる。


「手-っ! 油断も隙も無い」

 匠君が眉を吊り上げてこちらに向かって来た。


「あー、ごめん。僕ってほら、アメリカ育ちだからスキンシップがどうしても日本では過剰に感じられるみたいだね。エスコート役は匠と交換で。じゃあ、先に戻るよ」

 レオンさんが手を離すと匠君の肩を叩き、レオン君達がいる方へと向かって行く。

 匠君はカノンさんを複雑そうな表情で見送ると、私へと手を差し出した。


「暗くて危ないから」

「ありがとう」

 私が匠君の手に触れれば、やっぱりしっくりくる。

 触れた指先から感じる体温もなにもかもが……


「私ね、匠君と手を繋ぐと落ち着くの。手を繋ぐ恥ずかしさもあるけど、それ以上に心地良いの」

「えっ!?」

「修学旅行から戻った時に小岩井君の件を話したと思うけど、カノンさんでも思ったの。匠君はどうして他の人と違うんだろう?」

「そこ突き詰めて考えてみ――」

 匠君の言葉は途中で途切れてしまった。

 それは、レオン君の声が彼の台詞に覆いかぶさってしまったせいだ。


「あっ、匠と朱音ねーちゃんが手を繋いでいる! 俺とも繋げ!」

「ミレイも手を繋ぎたい!」

 レオン君とミレイちゃんが私達の方に向かって駆け寄ってくると、ミレイちゃんが私と手を繋ぎ、レオン君が匠君と手を繋ぐ。

 少しふっくらとした子供らしい手は、小さくて可愛い。


「朱音お姉ちゃん、今日はミレイと美智お姉ちゃんと一緒に寝ましょう」

「はい!」

「ミレイばかりずるいぞ。俺も一緒に寝る! 匠も一緒に寝ようぜ」

「……無理だ。一緒に寝たいけど、大人には事情があるんだよ」

「なんでだよ。俺が一緒じゃないと匠は寂しがるくせに。もしかして、カノンにーちゃんと一緒に寝るからか?」

「寝ないよ。部屋いっぱい空いているだろうし」

「カノンにーちゃん、匠と一緒に寝るって言っていたぞ。男同士でお話をするんだって。きっかけとか聞きたいって言っていたんだけど、なんのきっかけを聞きたいんだろうな」

「……俺に安眠はないのか」

 匠君の呟きが闇に広がった。





本編で匠が語っていた夜に中シロとレオンにぎゅっとされて起きた話は、

来月の拍手のSSで掲載予定です。

拍手は完結後、他の作品と共にこちらに移動予定です。

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