歴代最強フラグ建築士!?
美智さんの隣にいる少年は、見たことがない人だった。
Tシャツにデニムというラフな格好だが、身に纏っているものは私でもわかるハイブランドのもの。
匠君も背が高いけど匠くんよりも高めで、彫りが深い整った顔立ちをしている。
洋画で王子様が出てくるならば、似合いそうなタイプだ。
「カ、カノン!?」
匠君は知っている人だったのか、目を大きく見開きながら彼を見つめている。
まるで幽霊でも目撃しているように……
私は匠君の口から出た人名は聞き覚えがあった。
以前、匠君に聞いたことがあるレオン君のお兄さんの名だったから。
カノンさんの瞳は、レオン君の瞳と同じグリーンベース。
髪色はレオン君達と違って、カノンさんは濃いブラウンをしている。
「お兄様、申し訳ありません。まさか、後をつけられるとは。私の不徳の致すところ。護衛は気づいていたようでしたが、従兄だから害は無いと私に知らせずに」
「駄目って言われると気持ちって高まっちゃうよねっ! ほら、押すなよ押すなよって日本では押せって意味でしょう?」
「後半違う」
匠君は深い溜息を吐き出すと、頭を抱えてしまう。
「初めまして、朱音ちゃん。匠と美智のいとこで、カノンだよ。弟のレオンがお世話になりました」
深く頭を下げられたので、私も頭を下げる。
「初めまして。露木朱音です。こちらこそレオン君には海で一緒に遊んで貰って……レオン君、とてもいい子で妹さん思いで可愛いです」
「本当にレオン可愛いよね。あのツンツンさが特に」
目尻を下げているカノンさんを見て、レオン君のことが大好きなんだなぁと感じた。
カノンさんとレオン君は年が離れているから、余計に可愛いのかも。
私もレオン君のような弟がいたらきっと可愛がってしまうと思うし。
「あっ」
カノンさんはテーブルの上へと視線を落とすと、声を上げた。
「お菓子だね。すごく美味しそう! 僕、クッキーが大好きなんだ。もしかして、朱音ちゃんが作ったお菓子かな」
「はい」
「食べてもいい?」
「どうぞ。お口に合うといいんですが……」
ちょっとだけびっくりした。
手作りのお菓子を食べてくれるのが意外だったから。
私の勝手な想像だけれども、海外セレブって避暑地とかでクルージング等のイメージなため、いつも食べているのは豪華な料理やお菓子かなと思っていたので。
「ウェットティッシュありますよ」
私は鞄からウェットティッシュを取り出すと、カノンさんへと渡した。
彼は「ありがとう」と言って受け取り、取り出すと手を拭いた。
「んー、どっちから食べようかなぁ。やっぱり、大好きなクッキーかな」
「ちょっと待って! 朱音との初対面で朱音の手作り菓子が食えるって幸運すぎるだろ!? 俺なんて朱音の手作りは数か月かかったのに。なんだよ、そのフラグ持ち」
「尊様よりも強い天然フラグ建築士ですわね」
「フラグ? なにそれ」
と、言いながらカノンさんは手を伸ばしてクッキーを取ると食べ始める。
人に食べて貰うのはいつも緊張する上に、今日は初めて会った人だから余計にそう感じてしまうのかも。
味、どうかな? と、カノンさんを見れば、彼は満面の笑みを浮かべている。
「すっごく美味しいよ! 朱音すごい!」
「あり」
彼が私の方を見たので、お礼を言おうとすれば、急に彼の腕が伸びて私を抱きしめてしまったため、頭が真っ白になってしまった。
そのため、言葉も途切れてしまう。
「「ちょっと待って!」」
匠君達の言葉と共に彼らの腕が伸ばされ、私を抱き締めているカノンさんを掴むと一気に剥がすように引っ張った。
「早い。早い。初対面で抱きつくのは早すぎる。というか、朱音にはやめろ」
「そもそもむやみやたらに女性に抱きつくのはいかがなものでしょうか?」
匠君と美智さんに左右から挟まれているカノンさんは、両手を高く上げ白旗を掲げる。
眉を下げながら「ごめんねー。つい癖で」と言った。
「だって、朱音ちゃんが僕のイメージしたままの子だったんだもん。レオンや匠達だけじゃなくて、ぜひ僕とも友達になって欲しいなぁ。アメリカに住んでいるけど二週間は日本にいるし、帰国してもプライベートジェットで会いにくるよ。あっ、そうだ。海好き? 今度一緒にクルージング行こうよ」
「プライベートジェット……」
さらりとカノンさんは言っているけど、プライベートジェットってすごいと思う。一般家庭にはない。当然、うちにもない。
六条院の生徒なら、持っている人も多いかもしれないけど。
「朱音、プライベートジェットに惹かれたっ!? うちにもあるよ。行きたいところがあるなら、どこでも連れて行くよ」
匠君が私の両肩を掴みながら、慌てている様子で唇を動かしている。
「ううん。特には」
私は首を左右に振った。
匠君達と出会って一年と少しが経過し、彼らと一緒にいるのが日常になってきたため忘れてしまいがちになる。
彼らが五王の人間で本来ならば雲の上の人間だということを。
匠君達ならプライベートジェットやクルーザーを所有していても不思議ではない。
「朱音は小さくて可愛いね。この中で僕と身長差が一番釣り合うと思わない?」
「カノン、180は余裕で超えているだろ。高すぎる。俺との方が釣り合う。俺は178だ!」
「えー。そうかなぁ。ねぇ、朱音ちゃん。僕と匠の真ん中に立って」
「はい」
私はよくわからないまま、匠君とカノンさんの間に立った。
身長が156の私にとっては二人共身長が高めなので、見上げる形になってしまう。
匠君や佐伯さんは身長が高い方だと思っていたけど、カノンさんはもっと大きい。
レオン君も大人になったら、カノンさんみたいになるのかも。
今はぎゅっと抱きしめられるくらいに小さいけど。
……なんか、レオン君にあっという間に抜かされそう。
「朱音さんと一番身長が釣り合うのは、お兄様でもカノンお兄様でもありませんわ」
「じゃあ、誰?」
「この中でしたら、勿論決まっております」
美智さんはそう言うと私へ向かって腕を伸ばして抱き付くと、満面の笑みを浮かべる。
「当然、私ですわ。165ですもの。ちょうどぴったりの身長差」
「「あっ」」
匠君とカノンさんが同時に声を上げる。
「美智のドヤ顔初めてみたー。確かに、この中で一番は美智だね。高くもなく低くもない」
「身長が近ければ良いというものでもないだろ。そもそも、なんで身長が関係あるんだよ!?」
「えっ? すっぽり抱きしめられるから」
カノンさんは言いながら私を後ろから抱き締めたので、また匠君と美智さんに引き剥がされた。
「「油断も隙もないっ!!」」
「半年くらい二人と会ってなかったけど、いつの間にか息がぴったりの兄妹になったんだね」
「「誰のせいっ!?」」
匠君達は再び言葉が綺麗に重なる。
「疲れた……」
「匠、疲れたの? なら、癒される画像を見せてあげるよ。さっき、伯父さんから届いたんだー。朱音ちゃんも見て見てー」
カノンさんはズボンのポケットからスマホを取り出し操作すると、私へと差し出してくれた。
ディスプレイに映し出されていたのは、とある有名な遊園地で撮影されたもの。遊園地のマスコットキャラクター宅前を背景にし、レオン君ともう一人レオン君に似ている女の子が。
二人の後ろには、匠君のお父さんがいてレオン君達の肩を抱いている。
三人ともキラキラとした笑顔を浮かべていて、頭にキャラクターの大きな黒い耳を付けていた。
「レオン君とレオン君の妹かな? 可愛い!」
「……レオン達の後ろに一人ノリノリで耳を付けている人物がいるんだが。社員や取引会社の人と遭遇したら気まずくならないか?」
「お父様、ノリが良すぎて毎回全力で楽しみますものね」
匠君と美智さんは引き攣った顔をし、スマホのディスプレイを見詰めている。
匠君のお父さんは本当に理想のお父さんだ。
きっと、レオン君達と一緒に楽しんでいるはず。
写真からすごく伝わってくる。
「伯父さんが付けても大丈夫だよー。人が多いから会社関係の人と会う確率も少ないだろうし。それに、ここは遊園地だもん。大人も子供も関係なく楽しまなきゃ! ほら、お祖父さんと叔母さんも付けているよ!」
「「えっ!?」」
次に映し出されたのは、耳を付けた匠君のお祖父さんと匠君のお母さんだった。
二人共、顔を真っ赤にして両手で顔を覆っている。
「きっとレオン達にせがまれたんだな、恥ずかしさが全面に出ている」
「私、お祖父様とお母様が付けているのをはじめて見ましたわ。きっと葛藤があったのでしょうね」
「カノンさんは一緒に行かなかったんですか?」
「僕は朱音ちゃんに会いたかったから、こっちにしたの。遊園地はアメリカにもあるし。あっ、こっちの来たことある? 良かったら一緒に行こうよ」
「カノンお兄様は、ほんとうにさらりといとも簡単に女性を誘いますよね」
「だって、次に会えるのがいつになるかわからないじゃん」
カノンさんはあっさりと言っていたけど、確かにカノンさんの言う通りだなぁって思う。
レオン君ともう一度会いたいけど、レオン君はアメリカだし。
日本にいる間に、会いたいなぁ。
「ねぇ、僕喉乾いちゃった。飲み物を買って来ようよー。そんで、朱音ちゃんの手作りお菓子を食べながらおしゃべりしよう!」
「飲み物買って来ます」
立ち上がって鞄を開いて財布を出せば、匠君に止められてしまう。
「朱音、俺が行って来るからいいよ」
「でも……」
「なら、飲み物を持つのを少し手伝って貰ってもいいか?」
「うん」
「僕、炭酸なら何でも良いよー」
「美智は?」
「緑茶でお願いします」
「じゃあ、行こうか。朱音」
「うん」
私が頷くと、匠君が背に軽く触れ促してくれた。
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飲み物を買って来た私達は、飲みながらお菓子を食べている。
匠君も美智さんも美味しそうに食べてくれるので、とても嬉しい。
カノンさんを見ていたら、レオン君がいたらクッキーを食べてくれるかな? と、ちょっとレオン君の反応が気になった。
「朱音ちゃんが作るお菓子ってほんと美味しいねー」
「ありがとうございます」
「ねぇ、朱音ちゃん。良かったら、夕食はうちで食べない? レオンも会いたがっていたしさ」
「レオン君がですか……?」
ここでレオン君の名前が出ることに、私はびっくりしてしまう。
レオン君が私に会いたがってくれたなんてすごく驚いていると同時に、心が温かくなった。
嬉しさのあまり顔が緩んでいく。
「うん。随分懐いているようだね。今日、僕だけ朱音ちゃんに会った事がレオンにバレたら、きっとすごく怒られると思うんだよね。レオンのやつ、朱音ちゃんと遊ぶって匠にせがんでいたけど、受験勉強だから駄目って言われて我慢していたから。それに、ミレイも朱音ちゃんに会いたいって」
ミレイちゃんというのは、レオン君の隣に写っていた女の子だろう。
お人形さんのようで、すごく可愛かった。
「両親に聞いてみます」
「うん。聞いてみてー。なんなら、お泊りで。五王家に宿泊するのが不安なら、僕が添い寝するよ。レオンがホラー見た時とか、添い寝するんだ」
「「ちょっと、待って!」」
「あっ、また綺麗に重なった。本当に仲が良いね」
「一体、誰のせいだと……」
匠君は口元を引き攣らせている。
「浴衣を着て一緒に花火やろう。僕、浴衣と着物って見るのも着るのも好きなんだ。日本の文化だよね。好きなんだけど、僕はあっちでは全然着ないんだ。着方がわからなくてさ。いつも浴衣とか着物きるとき、匠にやって貰っているんだよ。今度、自分で生地を選んで浴衣を買いたいんだ。去年着たのはお祖父様が選んでくれた生地で作ってくれたものだからさ。浴衣いっぱい欲しい」
「今度ではなく今でもよろしいのでは?」
「え、浴衣ってそんなに簡単に作れるのかい?」
「カノンお兄様。浴衣には既製品もあるんです。オーダーではありませんので、ぴったりではありませんけど。ご希望でしたら、羽里に連れて行きましょうか? 下駄や巾着などの小物もありますよ。子供用もありますから、レオンとミレイにもお土産になりますし」
カノンさんは一瞬きょとんとしたけど、すぐに我に返って早口の英語で何かしゃべると両手を上げる。
そして顔を輝かせながら、「なんて素晴らしい誘いなんだ!」と、美智さんへと抱き付いた。




