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カノン、襲来

 レオンが五王家にやって来てから数日後。カノンやミレイもうちにやって来た。


 玄関前まで出迎えれば、ミレイが「匠お兄ちゃんっ!」と抱き付いてくれたので、顔を緩めて彼女を抱き上げれば、レオンが焼きもちを焼いて足にしがみ付いて「俺も抱っこしろ!」せがみまくる。

 そこにカノンが「俺も会いたかったよーっ!」と言って俺に抱き付いてきたので、玄関前はさぞ混沌とした図だったと思う。


 俺の次は美智、祖父など順に熱烈な挨拶をされ、今はみんなリビングでまったりしている。


 いとこ達がやってきたので、リビングは賑やかだ。

 長旅で疲れただろうとお茶とケーキの準備が出来ていたので、ケーキを食べながら久しぶりの再会に花を咲かせていた。


 祖父の膝の上にはミレイが座り、祖父に頭をなでられて目を細めている。

 大きな瞳にふっくらとした頬はレオンと似ているが、髪の色がレオンと違って黒に近い茶だ。

 ミレイはふわふわのウェーブかかった肩下まで伸ばしていて、愛らしい人形のような顔立ちをしていた。


 ミレイやレオン達とは年に数回しか会えないため、祖父にとっては貴重な癒しの時間だろう。


 そして彼女と共に日本を訪問中のもう一人の従兄へと視線を向ける。

 俺と同じ年のカノンは、スマホでレオンやミレイの写真を撮りまくっていた。


 パーティーなどをして盛り上がることが大好きなカノンだが、実は弟妹を溺愛していた。

 年が離れているので余計可愛いんだろう。


 カノンは叔父さんの血を引いているため、端正な顔立ちをしている。

 レオン達は色素が薄めの髪だが叔母さんの血が濃いのか濃い茶色の髪。

 髪は耳がギリギリ見えるくらいまでの長さで、シルバーアクセの代名詞といわれているブランドのピアスが輝いていた。

 すっきりとした輪郭にはレオンと同じ色をしている瞳を持ち、高めの鼻に常に上がっている薄い唇が窺える。

 身長も高く、王子様と呼ばれても違和感がない。


 スマホを構えている指先にはホワイトとブラックのネイルが施されていた。

 カノンが纏っているのは、上はハイブランドのTシャツで下はデニムというラフな格好だ。


 俺の傍に座っているレオンは、写真を撮られていることを気にする事無く俺のケーキを食べていた。

 勿論、レオンの分のケーキもちゃんと準備されているが、レオンは自分が選んだ苺のショートケーキを半分まで食べると、今度は俺のフルーツが山盛りのタルトを食べ始めたのだ。


「レオン。色々な味が食べたければ美智のも食べろよ」

「美智ねーちゃんのはチョコなんだもん。俺、チョコも好きだけどケーキはフルーツが好き」

「カノンもフルーツ系食べているから、カノンの貰ってこいよ」

「カノンにーちゃん、あーんって言って食べさせようとするから行きたくない。俺とミレイと一緒に寝ようとするし」

 年が離れているから可愛くて仕方がないと思っていたが、構いまくって嫌がられているのか。


「酷いなぁ、レオン。この間、僕のベッドに潜り込んでくれたのにー」

「潜り込んでないっ!」

「ツンツンして可愛いなぁ。あの時もホラー見ると怖くなって眠れなくなるよ? って注意したら子供扱いするなってキレたのに、怖くなっちゃって結局僕の布団に潜りこんだよね。もう、可愛いのなんのって。ぎゅっとしがみ付いてくるんだよ」

「してないっ!」

「もうやめろよ、カノン。レオンいじるのは」

「僕にとっては年の離れた可愛い弟と妹なんだ。だから、弟の新しい日本の友達も気になっちゃって仕方ないんだよね」

 急に出て来た日本の友達発言に、ビクッと俺と美智の両肩が大きく跳ね上がってしまう。


 ――まさか!


「僕、会えるのを楽しみにしていたんだけどー。朱音ちゃんに」

 カノンは町でその微笑みを見せたら、落ちない女の子はいないだろうと断言できる笑みを浮かべている。


「朱音が来るのか!?」

 レオンがぱあっと顔を輝かせると、俺の腕にしがみついた。


「朱音ちゃん……? レオンお兄ちゃんが日本で友達になった女の子だよね? ミレイもお友達になりたい」

「僕もお友達になりたいなぁ」

「カノンはいい」

「カノンお兄様は遠慮して下さい」

 俺と美智はほぼ同時に口を開く。


「えっ!? なんで僕だけ駄目なのー?」

「大事な時だから」

「そうですわ。お兄様、いま朱音さんといい感じの距離なんです。一年少しでやっとここまで来たんです。邪魔されるわけには参りません」

「邪魔なんてしないよ。料理とお菓子作りが上手でレオンの面倒も見てくれたんでしょ? 写真見たけど、落ち着いた子みたいだし。僕、かなりの高確率で好みだと思う」

「「それっ!!」」

 俺と美智の声が綺麗に重なった。


「僕だっていとこの好きな子を取らないよ。ただ純粋に見たいだけ! レオンの友達で匠の好きな子なんでしょう?」

 カノンは立ち上がると俺の元へと移動。右側に座り、俺にしがみ付き口を開く。


「朱音ちゃんに会いたい! 会わせてー」

「俺も朱音と会いたい」

 右からカノンが左からレオンが俺の首もとにしがみついて暑い。

 こういうところはさすが兄弟だ。似ている。

 息が合っているようで右から揺さぶられたと思えば、今度は左から揺さぶられる。


「朱音は受験生だから遊べないんだ」

「昨日、匠が電話で朱音と会うって言っていたじゃん。俺も朱音と会う!!」

「起きていたのか」

 レオンは五王家に滞在している間は、俺と一緒に寝ている。

 朱音と電話するのは十時前後なので、レオンはとっくに夢の中だと思っていたんだが。


「トイレに行った。俺も朱音と会う。朱音と遊びたい」

「俺と朱音は遊ぶんじゃなくて、勉強会なんだってば。明日、レオンとミレイはお祖父様と父さん、母さんと遊園地に行くって言っていただろ。パレードを楽しみにしていたじゃないか」

 俺と美智は朱音と勉強会で、カノンは浅草観光に行くらしい。

 美智は習い事があるから、勉強会は途中からの参加になるが……


「朱音も一緒に遊園地行く。パレード見る」

「朱音は受験生なんだよ」

「受験生ってなんだ?」

「行きたい学校に通うために、難しいテストがあるってこと。受験終わったら遊んで貰え」

「……」

 レオンはむすっとしているけど、納得はしているようで頷き同意してくれた。




 +

 +

 +




 翌日。俺は朱音との勉強会をするために五王の図書館にやって来ていた。

 美智はお稽古が終わってからの合流となっている。

 そのため、二人きりだ!


 俺達は受付で個室を借りて、冷房の効いている部屋に。


「レオン君のお兄さんと妹さんが来たんだ。匠君のお祖父さん、きっと喜んでいるよね」

 朱音はテーブルの上に荷物を置きながら唇を開く。


「喜んでいる。今日はレオンとミレイと遊園地に行っているよ。レオンが昨夜興奮して煩くてさ。パレードが楽しみみたいだ」

「可愛いね、レオン君」

「チュロスが好きだから今頃買って貰って食べているかも」

「行ったら食べたくなるよね」

 朱音はレオンのことを考えているのか、顔を緩めている。


「あのさ、朱音」

「ん?」

 教科書を手に持ちながら、朱音が俺の方へと顔を向けた。


「朱音の受験が終わったら、二人で一緒に行かないか?」

「うん」

 朱音がはにかんで了承してくれたため、俺は心の中でガッツポーズを取る。


 ――デートの約束! 


 美智や他の人も一緒なら何度かあるけど、二人きりでの遊園地はまだ行ったことがないため初だ。


「あっ、甘いもので思い出した。あのね、匠君。おやつにクッキーとパウンドケーキを焼いてきたの。美智さん来たら、みんなで良かったらって……」

「手作りお菓子!!」

 予想もしていなかった久しぶりの朱音の手作り菓子に、テンションがあがった。

 デートの約束もしたし、今日はなんて素晴らしい日なのだろうか。

 良いことばかり起こっている。


「ありがとう。すっげぇ嬉しいよ。今すぐ食べたいけど、美智が来るまで我慢する。わからないところがあったら言ってくれ。教えるから」

「うん。ありがとう」

 朱音が微笑んだので、俺もたまらずに顔を緩めた。




 +

 +

 +


 勉強している間は集中しているせいか、あっという間に過ぎた。

 腕時計を見れば、そろそろ美智も来る頃なので休憩するには良い頃合いだ。


「朱音、休憩しようか」

「うん」

 朱音がノートにシャープペンを走らせるのをやめ、教科書や参考書などを片付け、トートバッグからラッピングボックスを二つ取り出しテーブルの上へ乗せる。

 彼女がゆっくりとボックスの蓋を開ければ、中にはクッキーが入っていた。

 もう片方はパウンドケーキだろう。


「美味しそうだ! 朱音は本当にお菓子作りが得意なんだな」

「得意かはわからないけど、美智さんや匠君が美味しそうに食べてくれるは好き」

「俺、飲み物買って来るよ。美智もそろそろ来るだろうから、美智の分も」

「私も一緒に――」

 朱音の言葉は、部屋をノック音に寄って途絶えてしまう。


 美智だろうか? と、首を傾げながら返事を促せば、扉が開かれ俺の想像通り妹の姿が現れた。

 だが、なんだかいつもと様子がおかしい。


 視線をこっちに絶対に合せようとしないし、顔を引き攣らせている。







「……お兄様、申し訳ありません。尾行されました」



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