春:終わり
君がいた頃のことを考える。季節はうつって、その面影もないような、穏やかな日の元をゆく。僕は思った。このままずっと幸せになれないのなら、あの時の僕はきっと美しいことをしたのだろう。まだ望みもないとはいえない、熟した果実の落ちるまでの短い時間。落ちてしまえばパタッと、元には戻らず、僕はそっと掬うだろうに。いまはまだ、梢について、的歴たるそのやわらかさを見る。美しいのかい?美しいんだろう。
黄緑の公園を、幼少の者がかけてゆく。若干の彩りと、遠目をゆく僕の黒いシルエット。なんて若々しいのだろう。しかし、君を思ってならない。星のめぐりがもう一度だけ、僕と君とを同期させたら……それが多分僕の一生の望みになるだろうと。
青春の実は熟した。そう思っているけれど。それからできた記憶の美酒を飲むまでは、僕は謙虚に祈ろうと思う。まだ君と会えないとも限らない。もちろん、飲んでしまっても、僕はそっと祈ろうと思う。君は僕の天使のような子だ。
空港前、閑静な光の海を眺める。冷たい風に乗って、潮の香りは生々しく、僕の頭を呼び起こす。キラキラと、また、現実に戻る……