第3話
使者がもたらしたのは、一通の手紙だった。そこには、ギルバート・レイヴン侯爵がエカテリーナを妻に迎えたいという旨が記されていた。
手紙を見たエカテリーナは驚愕のあまり、目を見張る。
「なぜ、レイヴン侯爵が……?」
前回の結婚でこりごりだった彼女は、すぐさま使者に「お断りします」と突っぱねた。自分のようなバツイチの出戻りに、大貴族の侯爵から声がかかるなど何か裏があるに違いないと思ったからだ。
だが――その数日後。
エカテリーナが森の小さな家で静かに過ごしていると、不意に、トントン、と控えめながらも力強いノックの音が響いた。
(こんな森の奥まで、いったい誰かしら?)
不思議に思いながらエカテリーナが扉を開けると――そこには、手紙の差出人である本人が立っていた。
圧倒的な気高さをまとった美青年。月色の銀髪を肩までなびかせ、その蒼い瞳は氷のようにどこまでも澄んでいる。馬を近くの木に繋ぎ、わざわざ自ら足を運んできたギルバート・レイヴンその人だった。
彼はその冷徹な瞳で、じっとエカテリーナを見つめた。何を考えているのか、感情が一切読めない。
ただ射すくめるような視線に晒され、エカテリーナは思わず気恥ずかしくなり、頬を赤らめて視線を逸らした。その恥ずかしさをごまかすように、彼女はぎこちなく挨拶をする。
「レイヴン侯爵閣下、はじめまして。……エカテリーナ・ヴェルツと申します」
すると、ギルバートはほんの一瞬だけ、驚いたように目を見張った。だが、すぐに元の氷のような冷たい瞳に戻り、淡々と告げたのだ。
「エカテリーナ嬢。私の妻になってほしい」
「え……?」
ふたりの間に、静かな沈黙が流れる。
驚きを隠せないエカテリーナは、ぎこちなく口を開いた。
「あの、お気持ちはありがたいのですが……私、もう結婚はこりごりでして……」
すると、ギルバートはふいと静かに視線を逸らし、冷徹なトーンで語り始めた。
「これはあくまで政略結婚だ。だから、ただの形だけの契約にすぎない。そこに愛の類いなど一切ないから安心してくれ。……ただ、どうしても私は今、妻を迎える必要がある」
――政略結婚としての協力?
エカテリーナは思わず息を呑んだ。
更に、男は絞り出すように言葉を重ねる。
「あなたは先日までハワード家のジュリアスと婚姻関係にあったが、離縁したと聞いている。私にとって、あなたのような……過去の事情を抱えた女性なら、お互いのプライベートに踏み込まず、利害が一致すると思った。だから、あなたに協力してもらえると……一番都合がいい」
さらに続ける。
「あなたの私生活に干渉するつもりはない。私に構わず、あなたの好きなように過ごしてくれて構わない。だから……私に力を貸してくれないか」




