06-3.【帰還待ち】── 認識崩壊
《異常存在記録報告書:A-E/No.006-3》
識別仮称:《帰還待ち》
通称:“殺戮人形”
分類:認識劣化型異常
収容状況:収容不安定
危険等級:第一等級
管轄:中央監査部
閲覧制限:第一閲覧指定
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■第三記録:認識崩壊
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■長期維持の成功
第二記録以降、
中央監査部は《主人認識状態》の長期観察を継続した。
その結果、
* 対象を恐れない
* 拒絶しない
* 離脱しない
という条件を維持した場合、
主人認識状態は長期間維持可能であることが判明。
複数事例において、
保護対象は数日から十数日の生存を確認している。
中央監査部は当時、
対象行動原理の解明に成功した
と判断した。
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■収容計画立案
対象は極めて危険である。
しかし同時に、
* 旧王国最高水準の自律人格機構
* 数百年以上の稼働実績
* 現代技術を大幅に超過する魔導技術
を有していた。
技術局は、
「完全破壊は重大な技術損失である」
との見解を提出。
中央監査部は、
討伐ではなく収容を選択した。
最大の問題は移送であった。
対象は主人認識状態にある個体へ追従する。
逆に言えば、
主人を維持できるなら移送可能
ということである。
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██年██月██日。
収容作戦が承認された。
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■収容作戦開始
第一誘導担当隊員K-1が対象へ接近。
対象は即座に反応。
「お帰りなさいませ」
隊員K-1は事前指示通り応答。
「……ただいま」
対象は戦闘態勢を解除。
主人認識状態へ移行した。
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移送は順調に進行した。
対象は常にK-1の後方二歩を維持。
周辺警戒行動を継続。
敵対行動は確認されなかった。
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作戦開始から三日後。
異常が発生した。
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■認識崩壊事案
対象は移送途中の野営時、
突如として停止。
K-1を凝視した。
約三十秒間。
対象は一切動かなかった。
K-1は収容手順を遵守していた。
* 拒絶なし
* 離脱なし
* 攻撃なし
認識解除条件は一切確認されていない。
それにもかかわらず。
対象は発声した。
「……違う」
「主人ではない」
次の瞬間。
K-1の首が落ちた。
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■作戦崩壊
対象は周辺部隊へ攻撃を開始。
死亡。
* 先導隊員一名
* 後衛隊員二名
* 封印術師一名
計四名。
戦闘中、
対象は繰り返し発声している。
「応答してください」
「どちらへ行かれたのですか」
「外敵は排除しました」
中央監査部はこの時点で、
既知の法則が崩壊した
と判断した。
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■再認識現象
しかし異常はそれだけではなかった。
対象はK-1の遺体へ接近。
数分間、
直立状態を維持。
その後。
外套を遺体へ掛けた。
さらに周辺の血液を拭き取り。
倒れた椅子を起こし。
灯火を点灯した。
対象発声。
「お疲れ様でした」
「本日もご無事で」
長時間の沈黙。
そして。
「……本日もご無事で」
応答なし。
対象は頭部を傾けた。
「……違う」
直後、
K-1の遺体頭部を破壊。
その後、
周辺部隊へ接近した。
中央監査部は後に、
対象が一時的に遺体を主人として再認識した可能性
を指摘している。
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■収容プロトコル006-B
作戦指揮官は即座に代替計画へ移行。
第二誘導担当隊員K-2が接近。
「ただいま」
対象は停止。
「……お帰りなさいませ」
主人認識状態へ再移行。
以降、
収容部隊は誘導担当を順次交代。
移送期間中、
複数回の認識異常が発生。
その都度、
主人交代が実施された。
結果として。
追加犠牲者を出しながらも、
対象は収容施設へ到達した。
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■封印完了
最終誘導担当隊員K-5を先頭に、
対象は封印区画前へ到達。
しかし対象は入室を拒否。
K-5から離れようとしなかった。
中央監査部は協議の結果、
“主人同伴による封印”
を決定した。
封印直前。
K-5は対象へ向き直った。
「帰るぞ」
対象は数秒間静止。
「お帰りなさいませ」
対象はK-5の後方へ移動。
共に封印区画へ進入した。
通路両側では、
封印機動部隊が整列。
発声記録は存在しない。
ただし映像記録によれば、
全隊員がK-5へ敬礼していた。
封印扉閉鎖。
高位封印術式起動。
対象A-E/No.006
ならびに収容維持担当隊員K-5の封印を完了。
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■暫定結論(転)
《帰還待ち》は、
既に正常な護衛機構ではない。
我々は法則を発見した。
しかし対象は、
その法則の内側で壊れ続けていた。
現在の対象内部では、
* 主人認識
* 保護
* 排除
* 待機
* 帰還確認
が相互矛盾状態で同時稼働している可能性が高い。
対象は主人を守ろうとする。
だが長く守ることができない。
認識する。
疑う。
失う。
そして再び探す。
それは護衛ではない。
終わらない帰還確認である。
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■監査官付記
収容作戦中、
私は映像記録を何度も確認した。
K-1を殺害した直後。
対象は確かに遺体へ外套を掛けていた。
まるで。
本当に守れなかったことを悔やむように。
もちろん、
そんな感情が存在する証拠はない。
ただの故障だ。
報告書としては、
そう結論するしかない。
だがもし違うのなら。
あれは何を失い続けているのだろうか。
あれは何度主人を見つけても、
最後には失ってしまう。
だから今も、
探し続けているのかもしれない。
――中央監査部
第七監査官《ラルク》
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※本報告は「転」段階の記録である。
次段階(結)では、
封印後の収容状態、
収容維持担当隊員K-5の最終記録、
ならびに現在も継続する《主帰還待機命令》について報告する。
次回投稿 明日20:00
06-4.【帰還待ち】── 待機命令




