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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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03-2.【還郷村】── 帰りたがる者達

《異常存在記録報告書:A-E/No.003-2》


識別仮称:《還郷村グレイホーム

通称:“灰の帰郷” “休息村” “帰り村” “冒険者の終着点”


分類:帰属誘導型共同体異常

収容状況:侵入制限指定

危険等級:第二等級指定

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)/聖教会共同管理

閲覧制限:第三閲覧指定



■第二記録:帰郷定着現象(承)



■長期滞在者消失事案


《還郷村》発見以降、

中央監査部は、

重度疲弊者に対する限定滞在を許可していた。


当初、

当該領域は極めて高い回復効果を示していたためである。


しかし運用開始から約四ヶ月後、

複数の滞在者が帰還予定日を過ぎても戻らない事例が発生した。


初期段階では、


* 雪山環境による移動遅延

* 自主的長期休養

* 遠征後の精神疲弊


などが原因と判断されていた。


だが、

失踪者数は徐々に増加。


さらに、

帰還した者達にも、

共通異常が確認され始める。



■帰還者精神変質


帰還者に共通して確認された変化は以下の通りである。


* 冒険意欲低下

* 名誉欲消失

* 執着対象への無関心化

* 外界への関心低下


特に顕著だったのは、


「もう戦いたくない」


という極端な安堵志向であった。


対象者の多くは、

かつて強く執着していた目的──


* 深層迷宮踏破

* 仲間の仇討ち

* 家名再興

* 聖地巡礼


などへの関心を失っていた。



■帰還者面談記録(抜粋)


対象:元深層探索者 レオニード・ヴァルカ



「向こうは暖かいんだ」


「眠れるんだよ。

 誰も死なない」


「剣を持たなくていい」


「……もう充分だろう?」



対象は終始穏やかであり、

恐慌や洗脳反応は確認されなかった。


しかし、


* 死亡した仲間

* 未達成任務

* 故郷の家族


などへの反応は極めて薄かった。


特に問題視されたのは、

面談終了直前、

対象が小声で以下発言を行っていた点である。



「また帰りたいな……」




■定着性進行


症状は、

滞在期間に比例して進行する傾向を示した。


短期滞在者:


* 強い睡眠欲求

* 一時的無気力

* 再訪希望


長期滞在者:


* 外界への拒絶感

* 帰還拒否

* 社会関係断絶

* 人生目的喪失


特に滞在三十日を超えた対象では、


「外へ戻る意味が分からない」


という発言頻度が急増した。


《還郷村》は、

単なる休息場所ではない。


疲れた人間を、

“ここへ留まらせる”性質を持つ可能性が高い。


中央監査部は本件を、

“精神定着型異常領域”

として再分類した。


深淵監察騎士団および高位探索者ギルドへ正式調査要請を実施した。



■村人構成調査


第二次調査隊は、

村人達への直接聞き取りを実施。


その結果、

極めて重大な事実が判明する。


村人の大半が、


* 過去失踪した冒険者

* 雪山未帰還者

* 消息不明騎士

* 巡礼失踪者


と一致したのである。


確認時点で一致者は十九名。


中には、

数十年前の失踪者も含まれていた。



■記憶欠落


しかし、

該当者本人達は、

過去経歴をほとんど記憶していなかった。


面談記録抜粋:



「昔?

 覚えていませんね」


「ここへ来る前は……

 寒かった気がします」


「でも、

 もう帰ってきたので」



対象達は皆、

穏やかな口調で、


「ここが帰る場所です」


と繰り返した。


強制連行も試みられたが、

多くは激しい混乱状態に陥った。


一部対象は泣きながら抵抗し、


「置いていかないでください」


と調査員へ懇願している。



■人口固定現象


追加調査により、

《還郷村》内部に異常な矛盾が確認される。


複数日観測の結果、

村人総数は常に同数で推移していた。


後の再集計により、

その人数は例外なく47人で一致している。


重要なのは、

来訪者数とは無関係に、

“47人の住民”だけは常に存在していた点である。



■構成員変動


さらに不可解なことに、

村人達の顔ぶれは一定ではなかった。


数日単位で、

老人や子供、

宿屋主人など、

村人達の顔ぶれは入れ替わっていた。


にもかかわらず、

村は何事もなかったかのように機能し続けていた。


村人達自身も、

この変化を当然のように受け入れていた。


調査員が、

入れ替わりについて質問した際、

複数の村人は同一回答を行っている。



「皆、

 ちゃんと帰ってきただけですよ」



■記録汚染事案


以後、

中央監査部は記録画による長期観測を開始。


その過程で、

重大な異常が発生した。


撮影時点では存在していなかった人物が、

後日確認時に、

映像内部へ出現していたのである。


当初は記録魔術の誤作動と判断された。


しかし第三観測記録において、

既に死亡確認済みの人物が映り込む事例が発生。


確認対象:


“竜断ち”アレス・グランツ

(二十三年前戦死確認済)


映像内の対象は、

暖炉前で穏やかに談笑していた。



■調査員精神影響


記録分析担当者の一部においても、

軽度異常が確認される。


主症状:


* 長時間観測希望

* 村への親近感

* 帰郷願望増加

* 業務意欲低下


特に問題視されたのは、

観測後の調査員達が、

共通して以下発言を行っていた点である。



「少し休みたくなった」



中には、

暖炉の匂いを感じたと証言する者も存在した。



■中間結論(承)


《還郷村》は、

単なる保護領域ではない。


当該領域には、


* 精神定着性

* 軽度認識汚染性

* 人格摩耗傾向

* 帰属欲求増幅


が存在する可能性が高い。


また、

“47人固定”現象については、

現時点で合理的説明は得られていない。


中央監査部は本件危険度を再評価。


危険等級を第二等級へ変更。


閲覧制限を第三閲覧指定へ移行した。



■監査官付記


深淵監察騎士団提出の内部報告書には、

以下記述が存在する。



「この村は、

 人を癒しているのではない」


「“帰りたい”という感情そのものを、

 少しずつ喰っている可能性がある」



報告提出者は、

長期滞在者達に共通していた違和感として、


“帰る場所そのものが、

 村へ置き換わっていく感覚”


を挙げている。


現時点では、

あくまで仮説段階に留まる。


だが私は、

この報告を軽視すべきではないと考えている。


最近、

帰還者への面談記録を読んでいると、

時折、

奇妙な感覚を覚えることがある。


暖炉の前で眠る光景を、

少し羨ましいと思ってしまうのだ。


――中央監査部

第五監査官《エドラム》



※本報告は「承」段階記録であり、

長期滞在者の最終的行方については現在も調査継続中である。

次回投稿 本日21:00

03-3.【還郷村】── 還り穴

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