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53、変装したウィルと恋人ごっこ

 しばらく待っていると、着替えたウィルが戻ってきた。だけど、私がイメージしていたのとは、真逆な服。


 ダサイとは言わないけど、暗いグレーのフードつきのパーカーに、黒ぶちのメガネをかけている。こういう学生っているよね。


 シャルルさんは、目立つ場所で恋人を演じれば、変な噂は打ち消されるし、私も狙われなくなるって言っていたのに、とても地味な服だ。メガネのせいか、ウィルの王子様っぽいキラキラオーラが隠れている。



「へぇ、誰だかわからないわね」


 シャルルさんも不満げだった。


「あぁ、俺の私服だ。ルナシティでは顔バレしてるからな。とりあえず、酒場に行けばいいんだよな? オモチ」


 キャッ! オモチさんじゃなくて、オモチって言った!


「私の次のミッションは、酒場へ行こう、ですけど。ウィルさんが一緒に行ってくれるんですか?」


「その敬語はやめろ。それから、俺のことはウィルと呼べ。俺はあの噂を打ち消すために、そしてオモチは変な奴らに狙われないために、恋人ごっこをするぞ」


「あ、はい、ウィルさん……じゃなくて、ウィル」



「ウィルさん、そんな服で目立つのかしら?」


 シャルルさんがそう尋ねると、バトラーが口を開く。


「お嬢さん、一般の人に対してではなく、オモチさんを狙う人達に知らせるには、ウィルさんがお忍びで行動する方が目立つはずですよ」


「そういうものかしら?」


「ゴシップ系のグループチャットを閲覧すれば、効果がわかります。私も注意して見ておきますよ」


「あぁ、そういう手があったわね。オモチさん、何かあれば、すぐに私にチャットしてきてちょうだい」


「はい、シャルルさん、ありがとうございます」



「それから、他には何かなかったかしら? 除外エリアは、窓際の席だけよね?」


 シャルルさんは、何の話をしているの?


「悪役令嬢なら、どこでも絡むことができるんだろ?」


「フレンドには絡めるけど、ウィルさんとはフレンドじゃないもの」


「へぇ、良いことを聞いた。オモチ、行くよ。窓際の席にいると、悪役にグダグダ言われる」


「えっ? あっ、個室扱いだったんですか?」


 窓際の席は、携帯機が音声を記録しない場所なのかも。


「酒場なら、そうね。監視のないエリアよ」


 だから、こんな話ができたのね。


「もう、行くよ、オモチ」


 ウィルは、パーカーのフードを被ると、私の腕を掴んで立ち上がらせた。シャルルさんに挨拶する暇もなく、転移魔法の光に包まれていた。




 ◇◇◇




「ここは、魚料理のパブ?」


 ウィルの転移魔法で移動した場所は、ゲームにも出てくるオシャレな店だった。ウィル攻略ルートは、一番最後にプレイしたから、鮮明に覚えている。ゲームではウィルが、この店で主人公に身分を明かすのよね。


「あぁ、ゲームに登場する場所巡りをしてるんだろ? 初めて会ったときも、クレープ屋の前の店で、パンを食ってたし」


「ひゃー、恥ずかしいから言わないでください」


「こら! 敬語は禁止だ」


 あれ? ウィルの表情がさっきまでとは違う。優しい笑み。しかも、私の魅了魔法にかかった人みたいに、私に惹かれているように見える。


 だけど、ウィルは、男の人が好き。


 あっ、それも隠したいんだよね。だから、演じているのかもしれない。



「いででで、何?」


 なぜか、ほっぺを引っ張られた。


「ふっ、なんか変なことを考えてる顔してたからな。次に敬語を使ったら、デコピンするからな」


 なんですと? 私が変な顔をしたのか、ウィルはクスッと笑って、店の扉を開けた。




「いらっしゃいませ〜」


「個室は空いてる?」


「すみません。今日は個室は予約でいっぱいで……」


「じゃあ、目立たないカウンター席にしようかな」


 ウィルは小声で、店員さんにコソコソ話してる。店員さんは、私をチラッと見ると、軽く頷いた。


「ホールに背を向ける席の方がいいですよね?」


「あぁ、その方がいいな」


「ご案内します!」


 店に入っても、店員さん達には、すんごく見られてる。ウィルは、メガネをかけているし、パーカーのフードを被っているから、大勢いる女性客には気づかれてないみたい。




 カウンター席に座ると、ウィルは、メニュー表も見ないで注文してる。まるで私の好みを熟知しているかのような振る舞いに見えた。


「オモチ、ここでは酒は飲まないからな」


「ん? そうなの?」


 ウィルが手でデコピンの用意をしているから、私は必死に言葉を選ぶ。ウィルは、ニヤッと笑ったけど、人差し指と親指で、まだ丸を作ってる。


「あぁ、酒は静かな店に行こうよ」


「わかった。ってか、いつまで輪っかを作ってるの? それ、デコピンの準備でしょ」


「ククッ、そうだよ」


「もうっ!」


 ウィルが指の輪っかを私のおでこに近づけてくるから、私は、思わず、両手で彼の手をつかんでしまった。


「捕まってしまったな。だが、俺には左手もある!」


「ちょっと、もうっ!」


 私の声が少し大きくなり、ウィルが、人差し指を口の前に立てた。失敗した!?


 スーッとウィルの顔が耳元に近寄ってきた。


「オモチ、いい感じだよ。イチャイチャする演技、上手いじゃないか」


 あっ、そうだ。演技だったんだ。思わず、忘れそうになっていた。


 ウィルは、私の髪を耳にかけると、スッと離れた。その直後、料理が運ばれてきた。



「わっ! 美味しそう!」


「ゲームの中でも登場したはずだよ。俺は生魚は苦手だけど、これは食べられる」


 次々と運ばれてくる料理の説明を、ウィルが全部してくれる。ゲームの中のウィル王子とは違う。もっと、親しみやすい雰囲気。


 私は今、ウィルと喋って、ウィルと食事をしている。そう考えると、畏れ多い気がして、ビビる自分もいる。


 ウィルの笑顔は自然だな。本当に演技が上手いのね。私は、夢の中にいるような、ふわふわした気分に包まれた。



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