37、再び恋人になるときの3日ルール
私をジッと見つめるシエルさんの目は、熱を帯びていて、彼が本気なんだということがわかる。
条件の話ばかりするのは、シエルさんが恋愛慣れしていないことの証のようにも思えた。周りからずっと、言われ続けてきた言葉なのかもしれない。彼の不器用さが、逆に誠実さの表れだとも感じる。
でも、やっぱり違うと思う。こんな簡単に結婚を決めようとするのは、何か別の意図があるのかと疑いたくなる。
「私はまだシエルさんのことをよく知らないですし、それに結婚って、条件で決めるものではないと思うんです。もちろん、必要最低限の条件が整わないと結婚なんて出来ないでしょうけど……」
「オモチは、断るの?」
「断るか否かも、今の私には判断できないです。それに、ゲーム舞台にいるからではないけど、やっぱり好きな人と結婚したいです」
「僕は、オモチのことが好きだよ? オモチはそうじゃないの?」
「あー、えーっと、好きにもたくさんの種類がありますよね? 私も友達としてのシエルさんは好きですけど、昨日会ったばかりだから、まだその先は考えられないです」
あっ、マズかったかな。シエルさんは、すごく頑張って恋人を演じてくれていたのに。
でも、こういうことは、ごまかさない方がいいはず。モテるシエルさんは、選び放題なんだもの。
「そっか。短時間では主人公は攻略できないか」
ん? 攻略? 何かの遊びだったの?
「主人公を攻略するミッションですか?」
私は、自分でも驚くほど、冷たい言い方をしてしまった。シエルさんが少し驚いたように、目を見開いた。
「ミッションじゃないよ。オモチに警戒させてしまったみたいだね。振られるなんて予想もしてなくて、ショックだったから」
私はどう返答すればいいか、わからない。まるで別れ話をしているような気になる。本当の恋人じゃないのに。
紅茶のおかわりを注ぐシエルさんは、少し落ち込んでいるように見えた。だけど、それを飲み干した頃には、もう気持ちを切り替えたようだ。
「オモチ、とりあえずフレンド登録しないか? 僕はフレンドは少ないんだよ」
「はい。私も、シエルさんがフレンドじゃないことに気づいて、登録してもらえたらなと思ってました」
私が携帯機を出すと、フレンドの未承認の数が一つ増えた。一番上にシエルさんの名前がある。すぐに承認した。
「ありがとう。友好値はゼロからかぁ」
「本当ですね。フレンド登録してない間は、友好値は増えないみたいですね」
「まぁ、僕達の場合は、ちょっと特殊だったな。確かに、オモチの言う通りだ。よく知らない相手に結婚しないかと言われても、承諾するわけがないか」
「なんだか、すみません」
「いや、僕の方が理解が浅かったんだ。周りは断られたことないらしいから、こっち側に選択権があると傲慢になっていた。でも条件だけで結婚しても、楽しくないかもしれないよな」
私は、またどう返答すべきか、わからない。シエルさんのプライドを傷つけたことは確かだろうけど、謝りすぎるのも、逆効果だよね。
「オモチ、そろそろ次のミッションをやるか。えーっと、僕は、看板通りだ。さっき行ったのにな」
「看板通りは、たくさんあるから、別の通りでもいいかもしれませんね。私は……」
話しながら、ミッションを開いた私は、言葉が続かなくなってしまった。また?
【ミッション15】未達成
恋人を作ろう!
(残り11日8時間20分)
【ミッション4】宿屋にチェックインしよう!
【ミッション5】酒場に行こう!
【ミッション6】宿屋で宿泊予約をしよう!
【ミッション7】友達と話そう!
【ミッション8】ファン会館に行こう!
【ミッション9】ゲームキャラの舞台を見よう!
【ミッション10】恋人を作ろう!
【ミッション11】夕焼けに染まる湖を見に行こう!
【ミッション12】酒場に行こう!
【ミッション13】ショー劇場に行こう!
【ミッション14】看板通りに行こう!
「オモチ、どうしたんだ?」
シエルさんにそう尋ねられて、私は携帯機を見せた。彼の表情が険しくなる。このミッションは、30番目に出るか出ないかだと聞いたよね。悪意しかない。
するとシエルさんは、何かを始めた。あっ、チャット機能かも。サリィさんに報告しているのかな。
「オモチ、24時間の恋人は、終わってから丸3日以上が経たないと、同じ人とは恋人になれないみたいだ。残り日数が結構あるけど、このミッションがもし連続すると、僕だけでは無理だ。他にも、あと2人いや3人は、安全な協力者が必要だよ」
3日? もしかしてセルさんが、3日ほど街を離れるって言ってたのは、そういうこと? でも、セルさんが協力してくれても、このミッションが連続すると、どんどん時間が厳しくなっていく。
「そうですね。協力者を探してみます。ありがとうございます。とりあえず、シエルさんのミッションを進めましょう」
「うん、そうだね。あっ、ここは僕が払うから、オモチは気にしないで。ほとんど僕が食べたからね」
「あ、はい。ごちそうさまでした」
私の性格がわかっていて、先に言われちゃったな。
◇◇◇
「この看板通りは、空いてるね」
シエルさんと行った別の看板通りには、私の知らない乙女ゲームのポスターが貼ってあった。
「そうですね。ポスター自体は他でも見ましたけど、私がやってないゲームばかりです」
「なるほど、有料配信ばかりみたいだ。ちょっと刺激の強いポスターもあるね。えーっと次は、またコンセプトカフェか。今日は、ここまでかな」
看板通りを抜けた先は、花畑のある公園になっていた。すごく綺麗! 『青に染まるキミの春』のいくつかのストーリーに登場したっけ。
「オモチ、友好値は大事だよな?」
ん? 友好値?




