33、心に響く演劇
昨夜の後書きにも書きましたが、本日より、毎日1話更新に変更します。よろしくお願いします。
ショーが始まった。
ここは、イービー星セルフィア王国の直営レストランだから、王女サリィさんの国のショーだよね。
小さな舞台には、椅子に座る女性がいた。次第に店内の照明が暗くなっていく。椅子が淡く光って見えたけど、照明が落ちると、それ全体が大きな楽器だとわかってきた。
ポロン
ハープのような音色。ゆったりとした演奏が始まった。楽器の弦は、淡く輝いている。奏者の手が触れると、キラキラとした光と共に音が奏でられるみたい。
知らない曲だけど、サリィさんもオルフルさんも、穏やかな表情で、聴き惚れているようだった。シエルさんは、携帯機を持った姿勢で突っ伏したまま、スースーと寝息を立てている。
美しい演奏の途中で、新たな人が舞台に姿を見せ、光る両手を広げて挨拶をした。中性的に見えるけど、たぶん男性だと思う。
曲調が、軽快なものに変わった。すると、新たに登場した人が、天井にパッと魔力を放つ。天井がキラキラとした星空に変わった。すっごく綺麗!
演奏に合わせて、魔法を使うショーみたい。最初は、プロジェクションマッピングのようだと思っていたけど、投影機も何もない。店内の空間を自由に使った芝居が始まった。
セリフはなくて、奏でられる音楽に合わせ、魔法で作られた人が、まるで生きているかのように動いている。
あれ? もしかすると、四大精霊なのかな? ドラゴンのような魔物が起こした大災害を、火と水と地と風の精霊が力を合わせて、制圧する物語みたい。セリフがないのに、音楽だけで心に響いてくる演劇だ。
大きな拍手が起こった。私は世界観に引き込まれていたから、終わりだと気づくのが遅れた。すごいな。
「素敵なショーだったわねー。今夜は精霊物語だから、絶対に観にこなきゃと思ったのよー。やっぱり、ウンディーネを美しく描ける魔導士は、貴重よねー」
拍手をするサリィさんのテンションは高かった。私は驚きの連続だったけど、サリィさんの視点は少し違うみたいだ。
「はい、驚きました。セリフがないのに音楽ですべてが伝わってくるから、芸術性が高いですね」
「オモチさんの世界では、ショーにセリフがあるの?」
「演劇は、多くのセリフで物語が綴られます。もちろん魔法は存在しないから、人が演じますし、照明や音楽を使って、さらに演出が加えられます」
「まぁっ! 人がセリフを喋るの? あっ、乙女ゲームみたいな感じ?」
「そうですね。乙女ゲームよりも、演劇の舞台は動作が大きくて、遠くからでも映えるような衣装や化粧をしています」
「へぇ、アース星の担当者に、映像を送らせようかなー。オススメってあるー?」
「歌や踊りがメインのミュージカルが、馴染みやすいと思います。私もあまり詳しくないですが、歌劇団とかもありますし」
サリィさんとこんな話をしていると、店内は大移動が始まった。お客さんの多くが、ショーを見るために来ていたのか、もう店内はガラガラだ。
「うっ……終わっちゃいまひた?」
寝ぼけ顔のシエルさんが、テーブルから起き上がった。
「シエルさん、仮眠できました?」
「ふわぁ? あ、あれぇ?」
私の顔を見て、首を傾げている。忘れちゃったの?
「オモチさん、彼は、寝起きはこんな感じよ。レストランでも、たまに寝てるのよ。忙しすぎるのかもね。オトメンのテスト要員を引き受けても、通常の仕事はやってるからねー」
「それは、大変そうですね。もう一人の人は、ミッションが最後まで到達してたけど……」
すると、オルフルさんが口を開く。
「ファン会館の上の階のレストランでは、テスト要員をするのは、基本的に2人ずつなんですよ。あの店には、3人いるので、一番後から始めた彼には、負担がかかっていますね」
「なぜ、一人多いんですか?」
「今日は居なかったテスト要員が、ポンコツなんですよ。通常なら、20日程度で終えて、報告書を出すのですが、全然ミッションを進めてなかったせいで、今はレストランを休んでいます」
先に終えるはずの人が、手間取ってるのね。
「それは、大変ですね」
「ええ。シエルさんは、アイル村という王宮の料理番をしている村の人ですから、そもそもテスト要員になるべきではなかったのですがね。彼は、乙女ゲームの世界観が好きらしくて……」
村人が、王宮の料理番?
「いいじゃないのー。みんなキュンキュンする物語は、好きでしょー? そんなことより、『レモネードはキスの味』は、いつファン会館でイベントするのー? ラックルって、どこの街にいるんだろう。隠れキャラだからって、居場所まで隠すことないのにねー」
サリィさんがそう言うと、オルフルさんは口を閉じた。私はシエルさんから、サリィさんが推しているラックルさんがオルフルさんだと聞いたけど、彼女は、それを知らないのよね。
「そろそろ、帰る方がよろしいのではありませんか。もう夜3時ですよ」
オルフルさんは、自然に話を逸らした。私が知っているとわかると、きっとソワソワするだろうな。
「そうですね。オモチ、宿屋ノームに帰ろう」
シエルさんは、私が暴露するんじゃないかと、少しヒヤヒヤしてるみたい。眠気が吹っ飛んだように見える。
「はい、さすがに私も眠いです」
「そかそか。じゃあ、オモチさん、また会いましょう。シエルさん、明日寝坊しないようにねー」
私達が立ち上がっても、サリィさん達は座ったままだ。まだ居るつもりみたい。
◇◇◇
来たときと同じように、転移屋を使って、宿屋に帰った。シエルさんも宿屋ノームに宿を取ったのは、このためだったのね。
「オモチ、明日はギリギリまで寝てるから、昼12時にロビーで待ち合わせしようよ」
「わかりました。では、昼12時にロビーで」




