24、中継で見た三次元の推し
「ん? ウィル? 『月の世界の王子様』の攻略対象かな? オモチさんは、ウィル推しなの? シャール推しって言ってなかった?」
サリィさんの話し方が、少し変わったと感じた。さっきまでのキャピッとした雰囲気が消えてる。
「私がこの世界に来るキッカケになったのが、ウィル攻略ルートのエンディングなんです。『月の世界の王子様』ならウィル推しですけど、『青に染まるキミの春』ならシャール推しです」
「ふぅん、どっちが好きなのー?」
よかった。サリィさんの話し方が、元に戻ったみたい。あっ、私が嘘をついたと感じたのかな。初めて会ったとき、この世界は嘘だらけだと言って、携帯機を見せてくれたし。
「どちらかといえば、ウィルかぁ? でも、なんだか実物のウィルは評判が悪いみたいだから、あまりウィル推しだとは言えなくなってきました」
「そっかぁ。ウィル推しかぁ。私は『月の世界の王子様』は、ウィル攻略ルートは、やってないのよねー。あっ! 始まるよー」
大きなモニターにスイッチが入った。こんな真ん前にいたら、逆に見にくい気もするけど、サリィさんはワクワクした表情で、ジッと見ている。
暗い舞台が映った後、観客席の様子も映し出された。最前列には、見覚えのある顔が並んでいる。ここに一緒に来た人達だ。あのファン会館に行ったら、私も映ったのかな。
音楽が流れてきた。これは、『月の世界の王子様』のホーム画面で流れている曲だ。クローラさんの話は嘘じゃなかったんだ。でも、なぜ知っていたのだろう?
「オモチさん、この曲って『月の世界の王子様』だよね? 関係者がフレンドさんなの?」
「いえ、フレンドではなかったです。彼女は、始まりのカフェで、フレンドになったと言ってたけど……」
「ふぅん、なんだか変ねー。あっ! そろそろ出てくるんじゃない?」
サリィさんは、モニターに視線を戻した。
舞台が、パッと明るくなった。舞台上には8枚の大きなパネルが並んでいる。二次元の攻略対象にライトが当たると、すっごい歓声が聞こえた。
左端から順に、それぞれの絵の後ろから、人が前に出てきた。二次元と三次元では違うけど、似てるかな。まるで、配役を発表しているかのようね。
みんなイケメンだけど、私は、あまり気分が盛り上がらない。悪い噂を聞いたせいかな。
一番最後に出てきたのは、ウィルだった。へぇ、こんな感じなんだ。乙女ゲームでは、ウィルの笑顔はキラキラと輝いて見えたけど、舞台上で手を振る三次元のウィルには、爽やかさがない。まぁ、そんなものかな。
一人ずつ順に、乙女ゲームの制作秘話を話している。でも制作秘話じゃないよね。撮影をするわけじゃないもの。名場面は、どの場所だという話をされても、私は、月の王都ルナシティに行ったことがないから、全然わからない。
『今日は、来てくれてありがとう! 俺達のゲームは、アース星では最新作だそうだ。何日か前にも多くの人が来てくれたね。アース星のファンは優先するよ。誰が一番モテるか競争してるんだ。是非、直接会いに来てくれ。中継を見ている画面の向こう側のキミにも会いたいな』
ウィル……。なんだか違う。乙女ゲームのウィルは、自分のことを私って言ってたし。最後のセリフは、ゲームのものを引用したみたいだけど、だから逆に、違うって思う。
でも会場にいる人達は、大興奮ね。優先するって言われたら、嬉しい気持ちもあるけど。
「オモチさん? 静かねー。みんな、カッコよかったから、ボーッとしちゃうよねー。ウィルもカッコいいけど、私はレオンが好きかなー」
サリィさんは、そう言いつつ、ちょっとガッカリしてるみたい。『レモネードはキスの味』のラックル推しだと言ってたから、皆、タイプが違うもんね。
「イケメンだけど、なんだか違うなーって思いました。ウィルは、自分のことを俺とは言わないんですよ。まぁ、制作から時間が経ってるからでしょうけど」
「ありゃー。幻滅しちゃったかー。でもそれなら、その方がいいと思うよ。私も、誰が一番ファンが多いかを競争してるって言ってたのは、王子様らしくないって思ったもん」
あっ、ラムネさんから聞いた彼らの競争って、誰がファンが多いかを競っているのか。ウィルの前にも誰かが、会いに来てくれるファンの数がどうとか言ってたな。
「ですよね。アース星のファンを優先してくれるのは、嬉しいですけど」
「最新作だから優先するって言ってたねー。うーむ、オモチさん、その件でラムネさんから何か聞いてない?」
「えっ? あー、彼らが変な競争をしてるという噂があるって言ってました。でも、その内容はラムネさんは知ってるみたいだけど、私には教えてくれなかったです」
「ふむふむ、そっかぁ。動向調査は、どうだった?」
サリィさんは、後ろに座る人達に話しかけた。
「ギリギリ、法に触れないように話してますね。しかし、いろいろと異常ですが。サリィ様、フレンドさんに話すつもりですか?」
ん? 何?
「一応、シャルルさんからのお願いだからねー。私としても、オモチさんは返してあげたいよ」
後ろにいた人達が、私達のテーブル席に移動してきた。一体、何? シャルルさん?
「アース星から来たお嬢さん、フレンドの有効値の確認をさせてもらえますか。貴女が闇堕ちしていないかを確かめるためです」
「えっ? あの……」
「そんな言い方したら、怖いじゃないのー。魔法の使えない主人公は繊細なのよー。オモチさん、アース星から来た人が、次々と被害に遭ってるの。彼らは、この星の秩序を守ってるのよー。協力してあげてー」
「はい、携帯機を渡せばいいんですね」
「携帯機は本人じゃないと操作できないの。フレンド画面を開いてあげてー」




