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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遠征編
45/45

45話目

すみません。後回しにしがちでした。やっと書けるタイミングだったので、投稿です。

 暗かった。

 何も見えない。音も無い。

 ただ、どこか懐かしい感覚だけがあった。

 昔から知っている。

 何度も見てきた。何度も繰り返した。そういう景色だった。

 最初は両親だった。顔すらおぼろげになってしまったが、笑って俺を庇ったのは覚えている。次は孤児院で育ててくれた人達。彼らもまた子供を守るために自らを犠牲とした。

 助けを求めれば誰かが助けてくれる。だが、居なくなる。

 別に珍しいことじゃない。ハンターになってからは特にそうだ。生きて帰る方が難しい仕事なのだから。

 だから、きっと慣れたのだと思う。

 助けを求めることに。期待することに。最初から線を引くようになった。

 助けてくれる人は居る。

 それは知っている。全てから見捨てられたことなんて、一度も無かった。

 アオバ教官も。

 博士も。

 シドウも。

 アヤメも。

 みんな助けてくれた。

 何度も何度も。それでも助けてくれた人ほど先に居なくなる。

 そんなことが多かった。理由なんて分からない。偶然かもしれない。

 思い込みかもしれない。

 それでもそういうものだと身体が覚えてしまった。

 だから前に出る。だから先に危険を引き受ける。だから無理をする。

 自分ならいい。

 そう思っている訳じゃない。死にたい訳でもない。

 むしろ逆だ。生きたい。

 面倒事は嫌いだし。痛いのも嫌いだし。死ぬのはもっと嫌だ。

 それでも誰かに任せるより自分でやった方が早い。誰かに背負わせるくらいなら自分で背負う。

 そうやって生きてきた。それしか知らなかった。間違っていることくらい分かっている。

 一人で抱えるな。

 仲間を頼れ。前に出過ぎるな。何度言われたか分からない。

 全部正しい。全部理解している。

 それでも。まだ失敗していない。

 自分が前に出た結果。守れなかったことはあっても。前に出なければ守れたという経験は無かった。

 だから、結局同じ結論になる。

 死ぬ気でやれ。死なせないために。

 それだけだった。


◇


 ガンッ。

 火花が散る。

 整備棟に金属音が響いた。

「殺す」

 整備士長ユイの第一声だった。

「誰をです?」

 若い整備士が聞く。

「持ち主」

 即答だった。周囲の整備士達が苦笑する。

 作業台の上には双剣が置かれていた。いや、正確には双剣だったものだ。

 刃は歪み、内部フレームは捻じれ。マガツ化回路は焼き切れ。安全装置は半壊。

 原型を保っているのが不思議な状態だった。

「よく爆発しませんでしたね」

「したら本人が死んでる」

「運がいいんですね」

「運じゃない」

 ユイが工具を握り直す。

「これで5回目、多分本人はわかってやってる」

「武器の限界って事ですか?だとしたら天才ですね」

「馬鹿なだけよ」

 全員が納得した。説明として完璧だった。

「出力ログ見たか?」

「見ました」

 別の整備士が端末を操作する。

「規定値の二倍超えてます」

「三倍だ」

「え?」

「途中から三倍」

 沈黙。

「死ぬ気だったんですかね」

「なわけないでしょ。アイツは誰より命の重さを大切にしてる」

 ユイが吐き捨てる。

「どうせ死ぬ気で生きようとした結果でしょ」

 それが一番質が悪い。

 全員そう思った。

 死ぬ覚悟で無茶をする人間はまだ分かる。

 あの男は違う。生きるつもりで限界を踏み越える。

 だから始末が悪い。ユイは歪んだ刃へ手を当てた。傷だらけだった。

 あちこち欠けている。

 それでも最後まで折れなかった。

「直せます?」

 誰かが聞く。

 ユイは少しだけ考えた。

 そして。

「直す」

 即答だった。

「直るんですか?」

「直す」

「いやだから」

「直すったら直す」

 有無を言わせない声音だった。

 整備士達が肩を竦める。こうなったユイは止まらない。

「起きた時に武器が無い方が面倒」

 それだけ言って工具を振るう。

 キィンッ。

 再び火花が散った。

 周囲の整備士達も作業へ戻る。

 基地は動いている。

 誰かが訓練し。

 誰かが警備し。

 誰かが準備を進めている。

 次の戦いのために。


◇


 静かな病室だった。

 機械音だけが響いている。

 夕日が差し込む。

 ベッドの上。包帯だらけの男が眠っていた。

 動かない。呼吸だけが規則的に続いている。

 その横で腕組みをした男が居座っていた。何も話すことはない。ただ時間だけが過ぎる。

 その時だった。指先が僅かに動く。

「やっとか」

 ほんの小さな反応。続いて眉が動いた。重い瞼がゆっくり持ち上がる。

 ぼやけた視界。白い天井。見慣れた医務室。数秒、状況を整理する。

 そして、横にいる男と目が合った。暇じゃないだろうに。その言葉を飲み込んで、シドウと目を合わせる。

「……今は?」

 掠れた声が病室に響いた。

「遠征から5日だ」

「なんだ、思ったより早起きだな俺」

「バカ言うな、寝坊だ」

また期間把握かもしれませんが、続けてくのでよろしくです

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