44話目
会議室で四人が顔を突き合わせる。
博士。
アオバ教官。
シドウ。
そしてカグラ。
壁一面のモニターには北海道全域の地図が映し出されている。
赤い印が点在していた。
オニグマの痕跡。目撃地点。被害記録。推定移動経路。それらが複雑に重なり合っている。
「さて」
博士が資料を閉じた。
「現状確認から始めようか」
誰も返事はしない。必要が無かった。全員が内容を把握している。
「オニグマの脅威度は想定以上」
地図が切り替わる。
「加えて人型の活動も継続中」
今度は別の地点が表示された。
最近の襲撃記録や失踪者。交戦報告。それらを繋ぎ合わせてできたオニグマの被害想定。数こそ多くないが、無視できるものではない。博士は肩を竦める。
「困ったね」
「全然困ってる顔じゃねぇな」
アオバが言う。
「慣れているだけだよ」
博士は平然としていた。
「どちらにせよ戦力配分は必要だ」
その時だった。
「俺が行くか」
シドウが言った。
オニグマ討伐。誰よりも強い男が最前線へ出る。
自然な流れだった。
「却下です」
カグラが即答した。
アオバが眉を上げる。シドウも視線を向けた。博士だけがニヤニヤと笑っている。
「理由は」
「人型です」
それだけだった。
「今まで通りなら防衛は私達、第2で回します」
地図へ指を置く。
「ですが人型が動くなら話は別になります」
「戦力が足りないか」
「はい、人型を警戒して各地に予備人員を配置する余裕がありません。俺だけで動くにしても限度がある」
カグラは頷いた。
「数名回してください」
「後は?」
「私がやります」
当たり前みたいな口調だった。
博士が苦笑する。
「頼もしいね」
「現実的なだけです」
カグラは資料を閉じた。
「シドウさんは人型へ注力を。博士と何らかの動いてるでしょ?それに集中してください」
「オニグマは?」
アオバが聞く。
そこでカグラは少しだけ考えた。
そして。
「起きるでしょう」
誰のことかは言わない。
だが全員分かった。
「アイツか」
アオバが呆れたように言う。
「ええ」
カグラは頷く。
「どうせ起きたら勝手に首を突っ込みます」
博士が笑う。
否定する者はいない。
「なら」
カグラは地図を叩いた。
「道だけ作っておけばいい」
静かな声だった。
「そこから先はどうせ得意分野でしょう」
◇
映像が終わる。
会議室が静まり返った。
誰も口を開かない。
あの戦闘を最初から最後まで見せつけられたのだ。
そして結果も知っている。
全滅寸前。ハヤテは昏睡。誰も胸を張れる結果じゃなかった。アヤメが資料を閉じた。
「じゃあ反省会」
軽い口調だった。だが目は笑っていない。
「まずレイナ」
「うん」
「もっと撃ちなさい」
即答だった。
レイナは小さく目を伏せる。
「やっぱりそう見える?」
「見えるも何もそう」
アヤメは容赦がない。
「アンタ途中から完全に指揮役にしか行ってない」
「……」
「結果的にハヤテへ負担が集中した」
レイナは黙る。
反論できない。映像で見れば一目瞭然だった。
自分は仲間を守ることを優先した。それ自体は間違いじゃない。
だが、それだけでは足りなかった。
「アヤメならどうした?私はいっぱいいっぱいになってた。多分、配置とかが悪いとは思ってる」
素直な問いだった。
アヤメは少しだけ表情を緩める。
「もっと前」
「前?」
「オニグマの意識を奪う」
画面を指差す。
「アイツが危険だと判断したのはハヤテだけ」
「だから集中した」
レイナは映像を見る。
確かにそうだった。最後の方は完全にハヤテしか見ていない。
「私を見させるべきだったか」
「そう」
アヤメが頷く。
「嫌でも視界に入る位置で撃つ」
「近付く」
「あいつ相手に近づく……」
「あら、案外大丈夫よ。自分が苦しくなっても周りは負荷が減る。その分援護は増えるわよ」
即答だった。
「まあ、ハヤテの立ち回りが悪いのもあるけどね」
レイナは苦笑する。
「耳が痛いわ」
「だろうね」
「次」
視線がナツメへ向く。
ナツメは短く返した。
「ん」
「罠が軽い」
「……うん」
否定しない。
「焦った?」
「少し」
「珍しいじゃない」
「目の前で死にそうだったからな」
短い返答。会議室が少しだけ静かになる。
アヤメもそれ以上は追及しなかった。
「本来なら?」
「もっと1個1個に破壊力が無いとあいつには意味が無い」
「ん」
「仲間をもっと信頼しなさい、てのは難しい?」
「少なくともハヤテとは初めてだった。でも、もう大丈夫」
ナツメが頷く。
その顔は既に次を考えていた。
「ユウト」
「はい」
背筋が伸びる。
だが声は沈んでいる。
「言われたことしか見えてない」
「はい……」
しゅんとする。
「レイナが動く」
「ナツメが動く」
「ハヤテが動く」
「その後に自分が動く」
全部当たっていた。
「それじゃ遅い」
「はい」
小さくなる。
アヤメは少しだけ声を和らげた。
「別に無茶しろって話じゃない」
ユウトが顔を上げる。
「考えろ」
「考える?」
「ハヤテが何を見てるか」
「何を狙ってるか」
「まずはそこを追い掛ける」
ユウトは真剣に頷いた。
「はい」
その横でミヤは必死にメモを取っていた。
カリカリとペンが走る。
アヤメがそれを見て苦笑した。
「熱心ね」
「えっ」
ミヤが顔を上げる。
「だって大事なので」
「まあそうだけど」
アヤメは少し考える。
「ミヤ」
「はい」
「アンタの役割はこれらをスムーズになるよに調整してあげる事」
「調整?」
「誰が離れすぎてるとか、敵の癖とか、相違情報を落としてあげるの」
「誰が余裕あるか、誰が次に動くか、全部」
ミヤは慌ててメモを追加した。
「はい!」
その様子にレイナが少しだけ笑う。
どこか張り詰めていた空気が僅かに緩んだ。
そして、アヤメが最後の資料を閉じる。
「で」
全員が察した。
「一番怒られる人」
レイナが苦笑する。
ナツメが目を逸らす。
ユウトも何となく分かった。
「ハヤテ」
満場一致だった。
「本来アイツは隊長側、状況管理側、全員を見る側」
アヤメが机を指で叩く。
「なのに一番前に出てる」
「……ん」
ナツメが頷く。
「いつものことなのね」
レイナも苦笑した。
「だから死にかけた」
誰も反論しない。
アヤメは大きくため息を吐く。
「次は」
一拍。
「一人で何とかできると思わせない」
その言葉に今度は全員が頷いた。
◇
僅かに病室に差し込む日差し。
それに照らされる横顔。未だに




