20話目
崩れた高速道路の下で、金属音が連続して響く。
ハヤテの双剣と、人型マガツキの白い腕が激突するたび火花が散った。
「ッ!」
浅いが、当たっている。
人型の肩を斬り裂き、その反撃を紙一重で避ける。直後、背後から飛び込んできたサルガミの喉を振り向きざまに掻き切った。
止まらない。人型だけ見ていれば殺される。周囲だけ見ていれば押し切られる。だから全部見る。
「ハヤテ、右!」
「見えてる!」
アヤメのワイヤー弾が飛ぶ。瓦礫の陰から迫っていたイヌガミの動きを逸らし、その隙にハヤテが首を落とす。
そのまま地面を滑るように移動。次の瞬間、人型の蹴りがコンクリートを砕いた。
「うおっ、危なっ!」
跳ね上がった瓦礫を蹴って空中へ逃げる。だがそこへ、さらに白い腕が伸びる。
「ッ!」
咄嗟に左の細剣を盾代わりに差し込む。踏ん張りの効かない態勢で体が吹き飛ぶ。
「ハヤテ!」
「平気!」
瓦礫へ叩きつけられながら即座に起き上がる。痛みはある。それでも動くことはできる。
むしろ、武器と人型と戦闘の感覚は噛み合い始めていた。
「……慣れてきた」
人型の動きは速い。だが無茶苦茶ではない。
狙いがある。崩し方がある。
なら読める。読み合いなら、獣より人間の方がやりやすい。その瞬間。人型の動きが止まった。
「……?」
いや、違う。視線だ。目は無いが白線だけの顔が、ハヤテではなく後方へ向いていた。
搬送中の負傷者。それを援護しているアヤメ。第2部隊。そこを見ている。
「おい」
嫌な予感。次の瞬間、人型が地面を蹴った。
「ッ、待て!」
一直線。ハヤテではなく、後方へ。
『高速接近!』
ミヤの叫びが響く。
『進路、第2部隊です!』
「チッ!」
ハヤテが追う。だが同時に、周囲の瓦礫からマガツキが飛び出した。
「ガァァッ!!」
「邪魔!」
双剣が閃く。
一体。二体。三体。
最速でイヌガミの首が飛ぶ。それでも数が多い。明らかに足止めだ。
「こいつ……!」
人型が振り返る。一瞬だけ。まるで、“理解した”ように。ハヤテを止めるには、自分が前に出る必要はないと。
「クソがッ!!」
双剣が暴れる。サルガミの腕を断ち、蹴り飛ばしたイヌガミを壁へ叩きつける。
止まれない。止めなければ。その頃。
「アヤメ!!」
第2部隊の隊員が叫ぶ。白い影が突っ込んできた。速い。負傷者を抱えた状態では避け切れない。アヤメがワイヤー銃を構える。
「ッ!」
だが間に合わない。人型の腕が振り下ろされ――
「どけ」
低い声。直後、長刀が割り込んだ。
轟音共に衝撃が横へ流れる。人型の腕が逸らされた。
「……ッ!」
人型が初めて大きく距離を取る。その前に立っていたのは、カグラだった。
「副長! 下がらせろ!」
「了解!」
第2部隊が即座に動く。
負傷者を中心に隊列を組み替え、後退ルートを確保する。
速い。無駄がない。
カグラは前へ出ない。
半歩だけ引く。
人型が踏み込む。
そこへ銃声。
左右から第2部隊の射撃が突き刺さった。
「ガッ――!」
人型が強引に躱す。その回避先へ、カグラの斬撃が滑り込む。白い腕が裂けた。
「……なるほどな」
カグラが低く呟く。
「一対一が強ぇ訳じゃねぇのか」
長刀を構える。そしてちらっとハヤテを見る。
「変化する“状況全部”に即対応してるのかよ、あいつは」
遠く。マガツキを斬り裂きながら、ハヤテがこちらへ向かってくる。
止まらない。止められない。
崩落した足場を蹴り、飛びかかるイヌガミを踏み台にし、サルガミの腕を斬り飛ばしながら最短距離で突っ込んでくる。
単独行動特化。誤射も連携も気にしない。だから動きが異常に速い。自分も指示を出す工程を省けば、もう少し1人で大立ち回りはできるだろう。それでも。
「……理屈はわかるがあそこまでは早くねぇよ」
第2部隊の隊員が呟く。その瞬間。人型が再び動いた。カグラではなく。負傷者でもなく。一直線にアヤメへ。
「ッ!」
今度は速い。
フェイント。カグラの視線誘導する投擲。そこからの急加速。だが。
「甘ぇな」
カグラは動かなかった。いや、既に置いていた。
ワイヤー。瓦礫。退路。人型の踏み込み先。全部。
「そこだ」
長刀が振るわれる。鋭い一閃。人型が咄嗟に腕で受ける。そのまま人型の体が横へ流された。
そして。
「追いついた」
背後、鬼神の如き表情のハヤテ。
「ッ――!」
人型が初めて明確に後退する。だが遅い。双剣が走る。
一閃。二閃。三閃。
周囲へ群がってきたイヌガミごと切り裂く。血飛沫。絶叫。瓦礫の上へ、マガツキの死体が積み上がっていく。
『周辺反応、急減少!』
ミヤの声が響く。
『大型以外、ほぼ沈黙しています!』
「……はは」
アヤメが引きつった笑みを漏らす。
「皆殺しじゃない……」
ハヤテは久々に息を吐く。その視線の先。人型は、静かにこちらを見ていた。
白線だけの顔。感情は分からない。だが、ほんの僅か。
距離を測るように。観察するように。そして次の瞬間。人型は瓦礫の奥へ飛び込んだ。
「逃げるか!」
ハヤテが追おうとする。
「待て」
カグラが止めた。
「……まだ居る」
周囲、暗闇の奥、無数の唸り声。新たなマガツキ反応。
『反応増加! 増加しています!』
ミヤの焦った声。
ハヤテは舌打ちする。追える。
今、追えば。誰かが死ぬ。
「……チッ」
双剣を下ろす。
その様子を見て、カグラが小さく息を吐いた。
「ちゃんと止まれんのか」
「なんだと思ってたんだよ」
「止まらねぇタイプかと」
「否定できねぇのが嫌だな……」




