第8話 アメリゴ・バベル関税 上
バベル・エデンのドックは、ここ数週間でかつてない活気に包まれていた。
コロンブス共和国や各地の商人たちが続々と入港し、民間船舶の販売契約が次々と成立していく。
大型の輸送船や高速艇、特注仕様のコロニーシャトルまで、さまざまな船体がドックの外にずらりと並んでいた。
工場区画は昼夜を問わず稼働している。
天井に張り巡らされた照明と搬送レールの下、自動化されたラインがリズミカルに動き、巨大な3Dプリンターのような成形装置が船体合金や宇宙セラミックを寸分の狂いもなく積層していく。
そこに多脚ローダーが唸りを上げてエンジンブロックを運び込み、自動溶接アームが火花を散らして船体を一体化する。
だが、完全な無人化ではない。
人間種の技師が制御パネルを睨み、獣人種の整備士が巨大なアームの動きを細かくチェックする。
竜人種の作業監督が、力強い声で次の工程を指示する。
「次、エネルギーセル搬入、シールド出力の検査が終わり次第ラインBへ!」
「了解、動作確認完了、次工程に回します!」
インカム越しに飛び交う指示。
作業服姿の技術者たちは、忙しくもどこか誇らしげにモニターを確認し、時折仲間同士で小さな笑い声を交わしている。
完成したばかりの民間船舶が、ドックの外に整然と並ぶ。
それぞれの船体には、バベル・エデンの新しいロゴが輝いていた。
「船体はモノコック構造。外殻装甲と骨組みを一体化する事で、強度を維持したまま内部空間を広く確保できます」
若い技術者が、見学に来たコロンブス共和国の商人に誇らしげに説明していた。
「モジュール工法では無いのかね?」
恰幅の良い中年の男が尋ねた。その背後には、彼の部下らしい若い商人たちが、興味津々でドックの様子を見回している。
「ご安心ください内部構造はモジュール化しているため、区画化や二重船殻構造など安全対策は従来と同じ物になっております、強度も含めて考えれば従来船舶の上位互換と言っても過言ではないでしょう」
若い技術者は、少し得意げに胸を張る。
「なるほど……だが、損傷時の修理は?」
商人の問いに、今度は整備士の獣人種が口を挟んだ。
「ご安心ください。主要な補機や推進器、エネルギーセル、制御ユニットはアメリゴ連邦規格で設計されています、またモノコック構造のデメリットとしてよく挙げられる修理の困難さについても、バベルでの修理ならこの程度の修理費用と修理期間で済みます。」
コチラをご覧くださいと破損艦船の船体が剥がされ、再度新しい船体がプリントされる映像が流れる。
「これを見るにバベルでしか修理できないという事かね?」
「ええ、それが安さの理由でもありますから」
この時代宇宙船と言うのはモジュール工法で造られている。船体を複数のブロックやモジュールに分割し、各部を同時並行で製作するためだ。
しかし同時並行で製作する必要が無ければどうだろうか?
バベルの居た時代は宇宙戦国時代、大量の艦船が日常的に失われる時代の造船速度と素材コストの削減を目指した結果、モノコック構造の船体を成形装置で短時間で製造すると言う形に進化した。
「安くて高性能だが、修理・メンテナンスはバベルでしかできない商品」、それがバベルの民間船舶と言う商品だった。
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会議室では、アメリゴ連邦との外交交渉が続いていた。
「……といった軍事的な協力に対し改めて礼を言わせて欲しい」
いえいえと謙遜しつつも、さりげなく小惑星の採掘権などを要求してみるオーナー、日本人的な感性で相手を立てつつ要求を行う交渉を手にしつつあった。
「というわけで、アワイコロニーとの友好的な関係、またそちらが他種族国家である事も考え、バベル・エデンを独自勢力として、友好国としてアメリゴ連邦外交記録に残したいのだ。」
アメリゴ連邦の外交官が、慎重に言葉を選びながら切り出した。
「ええ、1コロニーに過ぎないバベルを国として評価していただけるのはありがたく思います。」
オーナーは穏やかに微笑んだ。
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通信が終わると同時にオーナーはその表情を険しい物に変える。
「アメリゴ連邦の視察団、目的は?」
戦略会議室の巨大ホログラムには、アメリゴ連邦首都惑星から出発するアメリゴ連邦艦隊の映像が表示されていた。
「造船能力を持つ勢力を放置できないと、首輪を付けに来ているのだと思います。」
「バベル・エデンの所属は曖昧だからな、警戒しつつもアワイコロニーとの関係性を見て動こうと決めたのだろう。」
「命令者の人員名簿から税務署の意思を強く受けているようです。」
ホログラムが拡大され、艦隊の編成図が表示される。ケルベロス級 中型艦『政府役人改装艦』4隻がアメリゴ連邦視察団と合流するのが映し出される。
「外交使節団に税務署、少しきな臭いな」
「しかしオーナー、そろそろバベル・エデンの立ち位置をハッキリさせなければならない時期でしょう、相手の思惑を探るためにも使節を受け入れると言う行為は必要な物です」




