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第15話 英雄の由来はゲーム

会見室の扉が静かに開き、俺はゆっくりと壇上へ歩み出た。

眩いライトの下、集まった記者たちが一斉にカメラを構える。


壇上のマイクに手を添え、静かに深呼吸する。

平道公安総監が隣で控えめに頷き、会場の空気が一瞬静まった。


「本日はお集まりいただきありがとうございます、平道公安総監殿との会談は有意義な物でした、バベル・エデンの存在が今後この時代にどのような影響を及ぼすのかは未知数です。」


会場の記者たちが情報収集機を起動し、一斉にメモを走らせる。

俺はゆっくりと視線を巡らせ、言葉を選ぶ。


「だからこそ情報の扱いには慎重にならざるをえません、そう言う意味では平道公安総監殿の働きに俺は満足しています。」


俺から平道公安総監に握手を求める。


「ありがとうございます、今後もこの職務に相応しい働きを約束します。」


平道公安総監が頭を下げ俺の手を握る。


ある程度そのポーズを維持した後に俺は記者の方に向き直った。


「今後しばらくは市民の方にご迷惑をおかけするかもしれません、しかしここバベル・エデンに引きこもり、このバベルをただの要塞や巨大な工場で終わらせる事を俺は望んではいません。」


壇上から見下ろす会場は、静まり返ったまま、誰もがこちらの一言一句を逃すまいと息をひそめていた。



「我々はどの様に生きるべきか、かつての世界は失われ、未来に戻れたとしても変わった後の世界かもしれない、しかし我々にはチャンスがある。未来の技術と歴史の知識、ポーカーで例えるならエース2枚、何処で切るかでこの時代は大きく変わる。」


無音ドローンがアングルを調整しようと動き回り、いい画を撮ろうとフラッシュがたかれる。


「この時代に来てしまったことを悲観する声もあるでしょう。けれど、俺を信じて今を変える事に協力してください。」


マイクから手を離し、深く一礼する。

拍手が、静かに、しかし確かに会場を包み始めた。


壇上を降りるとき、平道公安総監が小さく囁いた。


「良い演説でした。これで、皆の心も少しは落ち着くでしょう。」


俺は小さく頷き、会見室を後にした。


夜、バベル・エデンの執務室。

窓の外には静かな星の海が広がり、人工重力のかすかな振動だけが現実を感じさせる。

オーナーは一人、デスクに肘をつき、ふと遠い昔の記憶に意識を沈めていた。


俺の――バベル・エデンの原点は、スペースシミュレーション&サンドボックスゲーム『ゲートウェイウォー』にある。


『ゲートウェイウォー』の宇宙は背景ではなく、無数のNPCや勢力が活動し、経済や政治、戦争が絶えず動いている「生きたシミュレーション空間」


自分の選択一つで、銀河の歴史が変わる。そんな世界、そんなゲーム。


最初は、ただの無力な漂流者、プレイヤーは種族と所属国家を選択、小型戦闘機のパイロットとして宇宙に投げ出される所から始まる。


そこからは何もかもが自由だった。


傭兵、商人、密輸業者、採掘者、果ては大企業のオーナーや艦隊司令官まで、プレイヤーの行動次第でどんな役割にもなれる――そんな“なんでもできる”ゲームだった。


「戦場の残骸漁りは良い金策だった」


ゲームなのを良い事に戦場に飛び込んで艦船の残骸を集め、直せそうな船は直し、脱出したNPCを拾えば他国との友好度は簡単に上昇した。


「友好度があれば事業を始められる。」


意外と簡単に金は集まったからNPCを雇い始めた、採掘に運送、傭兵と最初は自転車操業だったが船を拾えばNPCを雇うだけで事業を拡大出来る。


「戦場で船を拾った時が一番興奮した」


ほっとけば戦場の流れ弾で破壊されたり、時間経過で消滅するからこそ、状態の良い船をさがそうと目を光らせた物だ。


ゲーム内での俺の名は「オーナー・Y・メッセンジャー」


プレイヤーとしての俺は、コロニーの発展や艦隊戦の指揮だけでなく、経済圏の構築や外交交渉、時には他プレイヤーとの同盟や裏切り、NPCとの感情値イベント(プライベートアクション)まで、あらゆる選択を重ねてきた。


「ゲームだから出来た事だ」


資源を採掘し、交易し、技術を集め、仲間を増やし、やがては小型の工場ステーション「バベル」を建造、勢力や取引先を増やしていく中で改修を繰り替えし、今の移動要塞「バベル」を中心としたバベル・エデンを作り上げた。


俺は「ゲートウェイウォー」の舞台となる宇宙、「バクズ戦役」後の「セクター分断事件」によりスペース戦国時代となった――「黄昏の大航海時代」と呼ばれる混沌の時代を生き抜き、エンドコンテンツとしての勝利条件、「銀河評議会の設立」と「共通通貨の作成」と言う外交勝利と経済勝利の二つを達成した。


「現実の人間がこれを行ったのなら、英雄扱いすらされるだろう。」


キュいと心臓が軋む。今の俺はこれ(偉業)を求められているのだから――

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