第14話 緩むコロニー青空の下
「本日は平道公安総監様との会談です。」
リアム副官の声に頷き、モノレールから降り立った。
扉が開くと、そこに広がる光景に思わず足を止める。
頭上には柔らかな青空が広がり、人工の雲がゆっくりと流れる。足元には緑の芝生と整備された公園、そしてその先には活気ある街並みが続いている。
「閉塞感もなく、生活する分には地上よりすごしやすそうだ。」
「コロニーセクションの環境制御システムです。人工重力と光源、大気循環を組み合わせ、各種族に合わせた最適な生活環境を提供しています」
公共施設の集まる区画には多様な種族の住民たちが行き交い、カフェのテラスでは賑やかな会話が弾んでいた。新鮮な果実を使った料理が好まれているようだ。
「アワイコロニーとの取引が始まってから、食料や生活物資の流通が安定しました。住民の不安も大きく減っています」
リアムの説明通り、街には活気が戻り、子供たちの笑い声が響いていた。
公園を歩いていると、何人かの子供がこちらに駆け寄ってくる。
「子供だけだ」
護衛が警戒するが、俺は手で制してそのまま子供たちを迎えた。
「あ!オーナーだ!」
「動画によく出てる人だ」
後ろからは小さな竜人種の子供が翼をばたつかせ、魚尾種の少女が魚尾種の少女が水の入ったボウルを抱えて転がるように近寄ってきた。
「違うよコメディアンの人だよ」
「でも兄ちゃんはヒーローって言ってたよ」
俺は膝を折り、子供たちの目線の高さに合わせる。
「ははは初めまして、オーナーだよ。みんな、元気いっぱいだね」
竜人種の子供は、翼をぱたぱたさせながら恥ずかしそうに笑った。
「本物のオーナー?やっぱ動画に出てる人だ」
「そうだよ、君たちは何をして遊んでたの?」
見て見てとオモチャのハンドアックスを見せてくる。
「海兵隊!!海賊を皆で倒すの」
獣人種の子供が誇らしげに胸を張る。
「父さんが買ってくれたんだ」
子供ながらに様になった構えに思わず手を叩く。
「立派な海兵隊員だ、ん?これは何かなカッコイイゴーグルだね」
「オレパイロット」
「ぼくはね、ぼくはね、農場を作るんだ!」
気が付けば子供らに囲まれていた。
「はいはい何か見せてくれるの?」
ころころと興味が移り変わる子供たちの相手は大変だったが、その笑顔には元気をもらえた。
「オーナー、そろそろ時間です」
リアム副官の声に、俺は子供たちに別れを告げる。
「また遊ぼうね。みんな、元気でな!」
「また来てね!」
「次はもっとカッコいいの見せるからね!」
子供たちは名残惜しそうに手を振り、やがて公園の奥へと駆け去っていった。立ち上がると、リアムが微笑んでいた。
「子供たちに人気ですね」
「構ってくれる大人が珍しかっただけだろう」
「確かにそうかもしれません、それに安全だから子供だけで遊ばせてると言うのもあるでしょうが、親などの大人が忙しいと言うのもあると思います。」
構ってくれる大人が少ないのか。
「そうなのか……」
バベルの公安委員会の受付にはあらかじめ案内の人が配置され、スムーズに会議室に案内される。
「お待ちしておりました、オーナー」
獣人種の中年男性、泰山・平道捕吏が立ち上がって深々と頭を下げる。
狼のような凛とした風貌、眼差しは鋭く知性に満ちている。
まあバベルの役職持ちの人員はたいてい瞳に鋭い知性を感じるのだが、彼もその事例に漏れずというようだ。
「こちらこそ時間を作っていただきありがとうございます。平道公安総監」
獣人種は自身の名前の後に役職を付ける風習がある。平道捕吏の捕吏というのも犯罪者をとらえる役人と言う意味があったはずだ、プライベートでは平道捕吏と呼んでいる。
「今日はバベル内の治安状況について聞かせてほしい」
平道は端末を操作し、データを表示した。
「全体として良好です。犯罪発生率は転移前より20%減少。特に種族間トラブルが激減しています」
「理由は予想できるか?」
「巡回などの治安維持活動を活発化させているというのもあるのでしょうが、過去への転移という事実が共有されてから、『バベルの一員』という意識が強まったというのは大きいでしょう。」
平道公安総監はそこまで説明したところで、職員を呼び根拠となる資料を持って来させる。
「しかし、懸念材料もあります。」
平道公安総監の表情が僅かに曇る。
「アワイコロニーとの取引開始で生活必需品の供給が安定し、不安要素が減ったことで気の緩みの様な物が起きる事、また情報統制や厳しい治安維持活動に反発する動きが発生しようとしています。」
「今回俺を会談に呼んだ理由かな?」
何かを頼みたそうな表情をしていたので促してみる。
「ええ、オーナーが公安委員会の活動を肯定していると市民に示す必要があります。メディアの人間は会見室に集めています。」