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「なにか言いたいことでもあるのか?」
「もちろんある!」、隊長の問いに、おじさんが答える。「あろうことか私まで殺そうとは、いったいどういう了見で」
「あんたは黙ってろ」、おじさんのセリフをぴしゃりと跳ねのけ、ライアンは隊長へ体ごと向けた。
「この状況だ。逃げられそうもない。だからあんたに頼むが、2人の少女は見逃してやってくれ」、ライアンの目があたしとリーススへ向けられ、すぐに隊長へ戻る。「まだ子供だぞ。もちろん魔女でもない。俺が保証する」
いつもの調子のいい物言いではなかった。ライアンは懸命に語り掛けている。
「勝手なことを! 私はまだまだ死ぬ気は……!」「おじさん、少し黙って。そういう状況じゃないみたいよ。あたしでも分かる」、あたしはおじさんの口をふさいだが、ライアンも隊長も、もはやおじさんの話に取り合う気はないようだった。
「そこの少女は、1人から2人へ分裂するという、あやかしの術を使った。私たちの目の前でだ。これが魔女の力でなくてなんだと言うのだ」
「もともと双子なんだ。急に現れたように見えたかもしれないが、最初から2人いたんだよ。とにかく、2人は巻き込まれただけなんだ。ここに来る前は、小さな民家で細々と暮らしていた。あの家に、帰してやりたい」
隊長は顎をあげ、軍帽の下から冷静な目でライアンを見ていた。彼の言葉を吟味するように。
「お前はいいのか? ここで殺されても」
「……なんていうのか……俺は自分が生きるために悪いことをしてきたし、大勢の人に迷惑をかけた。ここで殺されても、それが断罪だと認められる。でも彼女たちはなにもしていない。なにもしていないのに、火に焼かれ棒っきれで殴られたんだ。可哀想な被害者だ。あんたは軍の長だろう? 正義のため、武力を行使しているんだろう? それなら、無罪の少女を殺してしまおうとしている現状について、もう少し考えるべきだ」
言われたとおり、隊長は考えるような間を置いた。まだ銃は降ろされていない。ややあって、隊長は言った。
「そこの2人は、街に連れ帰ってもいい」
「街に? それは……助けるということか?」
「実を言うと、今回の件で街の連中の不満が高まり、収拾が難しそうでな。やつらの目の前で魔女を処刑すれば、少しは鬱憤も晴れるだろう」
ライアンはその顔に驚愕を浮かべ、この世のものとは思えない、魔物でも見るような目で隊長を見つめた。
「……本気か? 本気で言ってるのか? これだけ言っても、まだ自分たちのしてることが分からないのか?」
「貴様には分からんかもしれんが、私には一隊の長として果たすべき責務がある」
「責務……隊長としての責務か。しかしあんたは、隊長である前に一人の人間だ。人間としてのあんたの心は、無実の少女を殺すことに納得しているのか? そんなはずはない。地位を持つ人間は、その肩書にとらわれすぎる。与えられた肩書どおりに振舞わずにはいられなくなる。しかしあんただって、いつかは年老いて第一線から退く時がくる。その時に残るものを、想像できているか?」
ライアンの語りかけは力強かった。少なからず、隊長の決断は揺らせているように見える。天秤の両端になにが乗せられているのか、右に左に秤はうごき、けれどそう時間はかからないうちに、どちらかが沈んだらしい。
「……これ以上話す必要はない」
隊長の銃は、まっすぐにライアンを捉えたまま動かなかった。今一度、兵士たちは銃を構えなおす。隊長の一声で、いつでも発砲できるよう、しっかりと狙いを定めている。
「誰を殺す……話をしてるんだ」
唐突に、兵の群れの中で翼が広がった。翼に押された騎馬たちは、まるでドミノ倒しのように、にわかに中から崩れ「コルロル!」、まるでヒーローの登場のように、ライアンは叫んだ。
「怪物め! まだ生きていたか!」隊長も叫び、銃口がコルロルへ向く。




