4
「まずいな」、馬で駆け初めてころなく、ライアンは手短に後ろを振り返った。「このままじゃ追いつかれる」
大量の騎馬が、木々の間に見えている。まるで森を揺らすような地響きが、近づいてきていた。
「くっそ、こっちは3人乗ってるからな。もう暗くて視界も悪いし、コルロルも来てない。賭けだったけど、やっぱりあの数相手に、逃げられる体じゃなかったんだ」
コルロルの燃える翼を思い出す。黒羽は翼から離れ、炎と共に舞っていた。
「どうするのライアン? 引き返す?」、リーススがたずねる。
「いや、今引き返せば俺たちも捕まる。君たちだけでも、安全な場所まで……でも、それまでコルロルが持つかどうか……」
苦渋の決断を迫られたように、ライアンは苦々しい声を出す。ライアンは苦しそうだったから、代わりあたしが答えを教えた。
「このまま突っ走って逃げるしかない。間近でコルロルを見てたから分かるけど、あれはもう助からない」
「レーニス! なんてことを言うんだ!」
「ライアン、ずいぶんコルロルと仲良くなったのね。あなたのコルロルへの友情が、コルロルを助けられるかもしれないという希望的観測を膨らませてる。その期待が、判断能力を鈍らせているわ。現実問題、コルロルは満身創痍で飛べる状態じゃなかったし、あたしたちは騎馬に追われている。3人も乗せた馬は、へばるのも早いはず。追いつかれるのは時間の問題だし、あたしたちは今、他のことを心配している余裕はないはずよ」
「確かにその通りだけど……君、そんなに冷静だったっけ」
「そうえばさっき、感情が減ったって言ってた……」、リーススは暗い声で呟いた。
「もう憎しみもないわ。怒りも、悔しさも」
あれだけ膨大だった憎悪すら、今は懐かしい。完全無欠で、孤独な賢者になったみたい。感情は人を惑わす悪魔だ。なくした方が、物事を俯瞰できる。冷静な判断を下せる。
それなのにリーススは、「……私のせいだ」、と、わっと泣き出して、手で顔を覆った。「私が魔女に願ったせいよ。レーニスとコルロルを会わせてあげてって。それがレーニスのためになると思ったの」
なぜリーススが泣いたのか、あたしは理解できなかった。感情なんてものにとらわれずに済んで、あたしはせいせいしているのに。
「リースス、君は悪くない。あの怪物はレーニスに会えて、すごく嬉しそうだったよ。君のおかげさ」
「リースス、よく泣くようになったのね。まるで子供の頃に戻ったみたい」
幼いリーススの泣き顔を思い出していると、ランタンの灯りと共に1頭の騎馬が追いついてきて、横に並んだ。ライアンは舌打ちをしたが、騎馬に乗っている人物を見て声を上げた。
「ガルパス!」
「おじさん!」
「やあ、君たちのせいで、街は大変な騒ぎだよ。家に火が燃え移るわ、街人が兵士に怒り狂うわで、てんてこまいさ」




