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「テディー、慎重にね」
脱出の方法をよくよく言って聞かせてから、いよいよテディーは食事の受け渡し用の小さな扉に、その柔らかい体を滑り込ませた。でも、胴が受け渡し口に挟まり、足だけがジタバタと動いてしまっている。
もどかしい思いをこらえ、しばらく見守っていると、すぽんとお尻が抜けて、扉の向こう側へ消えた。
耳を澄ませながら、テディーの行動を想像してみる。立っている男の足元へ、テディーが忍び寄る。布と綿の足だから、足音はしない。男によじ登る。「なんだ?」、男の不審がる声。振り返る。テディーには気づかない。
鍵は腰についている。両手でうまく挟んで鍵を取り、男の足を滑り下りる。「な、なんだこいつ!」「やだ、怒らないで。怒らないでよ」、男の驚きの声、続けてテディーのもったり声。受け渡し口に、テディーが飛び込む。やっぱり尻がつっかえたが、その手には鍵を掴んでいた。
「テディー、投げて!」
テディーは慌てて鍵を放る。でもほとんど飛ばなかった。鍵は扉の前辺りで、高い金属音を立てて着地した。足に繋がれた鎖で行けるところまで行ったけど、届かない。地面を這って、腕を伸ばす。手を振ると、指の先が鍵をかする。じれったい。
ぽん、とワインのコルクみたいにすっぽ抜けてきたテディーが、身体で鍵を押しながらスライディングしてくる。鍵とテディー。その二つを掴みとった時、扉が開け放された。
「やあレーニス」
顔を上げる。下から見上げると、ガルパスおじさんの丸いお腹は、シャツのボタンが弾けないのが不思議なくらいふくよかだった。相変わらず、無口な大男を連れていたけど、一人だけだった。おじさんは「よいしょ」と腰を曲げ、あたしの腕の中から、鍵とテディ―を抜き取った。
頭を掴まれたテディは、「だっこがいいよ、頭はやめてよ」と手足をばたつかせる。それを見た見張りが、「な、なんだこのぬいぐるみは」と驚きの声を上げた。
「君が連れていたこのぬいぐるみのことを思い出してね。忙しくて忘れていたよ」
「テディをどうする気? そんな汚いぬいぐるみ、誰も欲しがらないわよ」
「なにを言う。喋るぬいぐるみだぞ? 見世物にすれば見物料を取れる」
おじさんは大男にテディを持たせ、踵を返した。
「レーニス、君が火にあぶられるまで、あと数時間だ。いい子で」、一瞬はこの手にあった鍵を指先で降り、おじさんは出て行った。テディは大男の腕の中から顔を出し、「ばいばーい」とのんきに手を振る。きいーと錆びた蝶番の音を立て閉じた扉は、あたしが火にあぶられる日暮れの時まで、もう開くことはなかった。
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