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「自分の汚さを受け入れたくないのは、きっと本能なんだろうな」
コルロルは膝に顎を乗せて、ふてくされた横顔を見せる。俺は続けた。
「世の中には他人を蹴落としてでものし上がろうって奴や、殺して金品を奪う強盗がごまんといる。そんな奴らですら思っているだろうさ。自分は本当は、こんなことをするやつじゃない、本当はいいやつなんだ、魔が差しただけだ、ってな。じゃないと生きてくのが辛くなるから、律儀に自分に言い訳して、自分の行動をどうにかして正当化しようとする。みんな分かってるのさ、自分を否定して生きてくのがなによりきついってことを。その点コルロル、君はちょっと、真正面から自分の汚さと向かい合い過ぎている気がするよ」
考えるように、コルロルの目が上を向く。
「いい具合に自分に言い訳して、許してやれ。それで、あとは前を向くんだよ」
コルロルはこちらを見た。「君も、そうしてるの?」
「さあ。どうだったかな」、肩をすくめる。「今言ったのは一般論だよ。みんなそうしてるっていうね」
「一般論じゃダメなんだ」、少し、声が強まる。「僕は怪物だ、それだけで恐れられる。せめて心は、誰より綺麗じゃないと、誰も僕を愛してくれるはずがない」
「そんなことまで考えてるのか」
「君も怪物になれば分かるよ。生まれついての嫌われ者の気持ちが」
俺は燃えてスカスカの翼を見ていた。風化して骨組みだけが残る廃墟みたいだ。骨組みにしがみついていた燃えかけの羽が、風に揺られて地面に落ちた。
「怪物にはなれないが、嫌われ者の気持ちは分かるかもしれない。俺は生まれついての盗人だ。ライアンっていうのも、本当の名じゃない」
「え?」、コルロルは驚いてこっちを見る。「困るよ、今さら。君のことをなんて呼べばいいんだ。もうライアンで馴染んでしまっているっていうのに」
「まあ何とでも。一応言っとくと、本名はオプレタ。かつて捨てた名だが、親が唯一くれたものだ」
「オプレタだって?」、コルロルは歪められるだけ顔を歪めた。「さっぱりだ、違和感しかない」
「ライアンでいいよ。好きなヒーローの名前なんだろう? とにかく、俺には可愛い姪っ子どころか、親も兄弟も親戚もいない。天涯孤独の身の上さ。母親は男と出て行って、それからは一人きりさ。食えそうなもんはなんでも食った。虫の這う路上を家にして寝た。俺が盗人になったのは、自然な流れだったよ。そんな俺でも、幼い頃は信じてた。汚いやつで溢れる世の中でも、自分だけは違う。自分はかっこいい大人になろうって思ったもんさ。そうまさに、ヒーローみたいなね。戦争は悪い国と良い国が戦っていると思っていたし、世の中には善と悪があって、悪は罰せられると信じていた。でも実際はそうじゃない。あるのは合理的な都合だけだ。みんな自分の都合を押し付けあっているだけなんだ。都合が悪いから、親は俺を捨てたんだろうさ。そういうことが理解できるようになってきて、いつの間にか、自分が汚い大人になったことも知っちまったんだ」
コルロルはなにも言わなかった。俺もそこでぷつんと糸が切れたみたいに黙ったから、沈黙がすみやかにその場を横断した。俺たちの間を歩いていく沈黙を見送るみたいに、コルロルの瞳が右から左へスライドしていき、そこでようやっと、やつは口を開いた。
「自分を否定して生きるのは、辛いんじゃなかったの?」
「受け入れてるよ。俺は薄汚い盗人だ。でも、そんな俺を受け入れてくれる誰かはいないってだけだ」
こんなふうに自分のことを打ち明けるのは初めてだった。誰かに自分を知らせるというのは、居心地が悪いのにどこかすっきりする気もして、俺は曖昧に笑うことしかできなかった。




