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レーニスを追いかけようと翼を広げるコルロルを引き止めるのは大変だったが、「飛んでいけば恰好の的になる。慎重に歩いて登ろう」と提案すると、なんとか納得してくれた。すぐに行かれては困るんだよ、こっちの都合でね。
あの時、コルロルがレーニスを助けに現れたとき……つまり、俺があの大男に捕まって、崖から落とされそうになっているとき、コルロルは現れた。コルロルを見たガルパスは、興奮した面持ちで、俺にこう持ちかけた。
『あの怪物には国から高額の懸賞金がかけられている。仕留めるのに協力すれば、それなりの取り分をやろう。金に困っているんだろう?』
『仕留める? あの怪物を? どうやって?』
『お前はあちら側に行き、行動を共にしろ。そして夜明けと同時に頂上へ来るように誘導するんだ。こう暗いと、撃ち殺すこともできん。いや、銃くらいでは難しいだろうな』
よくまあ、悪知恵が回るじいさんだ。しかし一歩先は深い崖だし、金に困っているのは事実だ。
『爆薬があるんだ。あいつを殺すにはそれしかないだろう。しかし一回しか使えん。そのチャンスをつくる協力をしろ』
『でもじいさん、あっち側に行くって言っても……どうやって?』、俺は肩をすくめる。
『お前がここから突き落とされそうになっているのを見れば、見捨てはせんだろう。レーニスは優しい子なんだよ』
『……俺にはそう見えなかったけど』
でもどっちにしろ、このままこうしていても、こいつらに落とされるだけだ。あの怪物と、優しいらしいレーニスにかけるしかない。結果論だけど、レーニスは俺を見捨てなかった。素通りされたときは、肝が冷えたけどね。
レーニスは、ガルパスを追って行ったが、彼女に勝算はない。あんな華奢な少女が、あの大男にかなうはずがない。武器を持ったところでだ。
「ここ、狭くて歩きづらい」
前を行くコルロルの翼は、横の壁で擦れ続けている。でかい怪物だ。この細い道幅では、やつが歩くだけでいっぱいいっぱいだ。どこかに、爆弾が仕掛けられているかもしれない。俺は辺りに警戒しながら、コルロルの後ろを歩いた。
「レーニス、大丈夫かな。あの人間に捕まったりしていないかな」
「そうだったら、どうする気だ? やつらを殺して助けるのか?」
「レーニスに会ってから、決めたんだ。人は殺さないって。僕は『大事に想う』って感情を知った。それで、考えたんだ。今まで僕が殺した人間たちも、誰かを想う誰かだったかもしれない。誰かに想われる、誰かだったかもしれないって」
なんとなく視線が落ちて、腕に抱えている不気味なぬいぐるみを見た。ぬいぐるみは下手な歌を口ずさんでいる。
「そのことに気づいてから、ずいぶん臆病になった気がするよ」
「だから死ぬのが怖いのか」
「それは元々だよ。元々臆病なんだ」
目の前のでかい怪物と、臆病という言葉のミスマッチさに、少し可笑しくなる。
「君は、ずっとこのアルスト山で過ごしていたのか? 十年間も」
「いや、ここに来たのはなんとなくなんだ。なんとなく飛んでいて、灯りが見えたから来てみたんだ。一目で分かったよ、レーニスだって」
「へえ。ロマンチックな再会だ」
「こういうのを、運命っていうのかもしれない」
たしかに、この広い世界で、よく再会できたもんだ。でも残念だったな、コルロル。レーニスと再会を果たしたのが運命なら、ここで死ぬのも運命だ。俺を恨まないでくれよ。
「来たな怪物」
声が、頭上に降ってくる。泥の雨より汚い声だと思った。見上げるとガルパスがでかい腹を突き出して頂上に立っていた。その後ろで、縄で縛ったレーニスを、大男が取り押さえている。彼女は布を噛まされていた。
その姿を見て、沸き立つようにコルロルの翼が広がった。




