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「感情が戻ったら、僕が君を想うように、レーニスも、僕を想ってくれるのかな」、やつは風のように囁いた。「ナイフ、持ってるよね?」
自分の太ももに目がいく。そこにはナイフの柄が突き出ている。
「実はね、僕は愛ってやつが分かるんだ。でもこれは、怪物としての感情だ。僕が人になるには、愛するだけじゃダメだ。誰かに愛してもらわないと。人間に、なってみたかった。人間になって、レーニスと過ごすことを夢見なかったわけじゃない。でも、いいよ。自分がどうすれば死ぬのか、よく分からないけど、さすがに、首を裂かれれば、生きてはいられないだろう」
ここ、腫れてない? 転んだだけで騒いでいたコルロルが、頭に浮かぶ。そのコルロルが、首を裂けばいいと言っている。あたしはナイフを握ることができなかった。代わりに、縋り付くように問いかけていた。
「……分からない。なに? 愛って、なに?」
やつは微笑んだ。「君のためなら死ねるってこと」
銃声が轟いた。次いで、鳥たちが一斉に木から飛び出していく音。あたしはただ、コルロルを見ていた。見開かれたやつの目に、なぜだか……息の根を止められた気がした。
「当たったぞ! 今だ! もっと撃て!」
見ると、二人の大男がライフルを構えて立っていた。その脇で、おじさんが飛び跳ねる。
「どんぐりと合わせて、これで私は億万長者だあ! がははは!」
高笑いをあげるおじさんの手が、ちかっと光を反射する。なにか、持っている。髪飾りだ。あたしはその髪飾りに見覚えがあった。
がくん、体が下がる感覚。
「コルロル!? 大丈夫か!?」、ライアンが声を荒げる。「レーニス、腹の辺りを撃たれたらしい、どこかに隠れないと……また撃ってくるぞ!」
言うが早いか、続けて銃声が響く。コルロルはあたしをきつく抱き寄せ、おじさんたちがいる方へ背を向けた。
「なんで……やめて、庇わないで! 自分を守りなさいよ! あんな奴ら、あなたなら、やっつけることだって……」
「くっ、あいつら……コルロル、あそこまで飛べるか!?」、ライアンは崖がえぐれて出来たスペースを指す。コルロルはそこを目指し、一気に速度をあげた。
あたしとライアンを下ろし、翼をたたむ。思ったよりもコルロルは平気そうだった。腹の辺りに出来た穴から血が流れていたが、銃弾はやつの硬い外皮一枚を貫いた程度で、深くには及んでいなかった。やつの鉤爪が、銃弾をつまんで引き抜く。
「うわっ……血だ」、コルロルは嫌そうに顔をしかめた。「どうしよう、僕、死ぬのかな。死んじゃわないかな」
「よく分からないが、死にそうではない」
「レーニスに殺されるならまだしも、あんなやつらに殺されるのは納得がいかないな」
「おじさん、リーススの髪飾りを持ってた」、俯いて呟く。自分でも意外なほど、普段通りの声が出た。「リーススが着けていたものよ。見つかったんだ、リースス……おじさんに」
足を踏み外す感覚が、体に蘇る。掴まれた手が離され、落ちていく感覚。
「リースス、きっと殺されちゃったのね」
視線が落ちる。テディーはまだあたしの腕の中で、頭を垂らして眠っていた。
「レーニス……、まだそう決め付けるのは早い。探せば、まだ」
「感情を盗られた側のその後について、考えたことはある?」、ひとり言のように尋ねる。今は人の話を聞いていられる気分じゃない。なにも受け付けない感じ。
「喜びや楽しみを失うと、そこだけぽっかりと穴が空いて、なにも感じなくなるんじゃないの。別の感情で補おうとするのよ」




