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起きたとき、あたしはまだコルロルの腕の中で、やつは飛んでいた。下を見ると、ぶら下がっているライアンが見えた。器用なことに、眠っているらしい。
「ずっと、探してくれてたの?」
「おはようレーニス。今はとりあえず、ライアンの提案通り、頂上に向かっているよ」
「彼、起きてたの?」
「ついさっきまでね」
辺りはほの明かるく、まもなく夜が明けることを知らせていた。この世の開幕みたいな朝陽が、山の向こうに差して、まだ星のまたたく深い夜を、端から染めている。
「飛ぶのって、疲れないの?」
「疲れるよ。重いのがぶら下がってるから」、彼はちらりとライアンを見下ろす。「でも楽しいんだ。飛んでるだけで、景色を見ているだけで。なぜだと思う?」
「あたしから『楽しい』を盗ったからでしょう?」
「……そう言われちゃうとそうなんだけど。それだけじゃないんだ。それだけじゃなくて……レーニスに会ってから、すべてが変わったんだ」
それがいい方向への変化だと分かる、喜びを帯びた言い方。
「変わった? どういうこと?」
「ん~説明が難しいんだけど」
「難しいんだ」
「それはそうだよ。なにせ心の中のことだからね。心の中のことは、言葉に置き換えて伝えようとすると、元の形が損なわれてしまうことがあるし」
小難しいことを言う怪物だ。あたしの感情は簡潔だ。憎い、腹立たしい、つまらない。言葉にしたって何も損なわれない。
「それでも、しいて言うなら、頑張れるって感じかな」
「頑張れる?」
「そうだ、気力が湧く。活力になる。いくらでも、いくらでも頑張れそうな気がする。僕の原動力になる。ありあまるようなエネルギーになって、どんな困難だって乗り越えられる気がする」
なんだかあたしは、言葉を失ってしまった。途方もない宇宙の果てを見ているような気分だ。やつが何を言っているのか、さっぱり理解できない。
あたしにも原動力はある。憎しみだ。でもそれは、やつが持っている原動力とは、まったく逆の性質を持っているようで、やつの心の内に広がるのがどんなものなのか、遠すぎて想像も及ばない。
「あたしにも、原動力はある。毎日毎日、あなたを探し続けてきた。あなたを殺すために生きてきた。それと同じようなものでしょ? それなのに、なんで……」
なんで、あなたと同じじゃないの? なぜあたしを突き動かす力は、みすぼらしく醜いの?
今、はっきり分かった。あたしは汚いんだ。あたしは汚くて、この怪物は綺麗だ。光と闇。天国と地獄。生と死。あたし達は両極端にかけ離れていて、間を埋める術がなにもない。光で照らされて、汚い自分が浮き彫りになるばかりだ。
嫌だ。お腹の中が熱くなる。あたしは、目の前で揺れていた三角水晶を握った。
「返して」、悔しい。あたしは悔しかった。「あたしの感情よ。返してよ」
楽しい、嬉しい。誰かを、想う。ぜんぶ、あたしのものだったのに。どんな景色が見えてるの? 誰かを想うと、あたしには見えない色が見えているみたい。あたしも見てみたいの。コルロルが見ているものを。
やつの目が、寂しそうに細まる。寂しい。寂しいはきっと、哀しいの仲間だ。あたしには分からない。




