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「リーススがおじさんのところへ行くって言い出して、居なくなるんだって思って、それで初めて……焦ったの。リーススが居なくなるなんて、とても考えられなかった」
「レーニスは、昔からお姉さんのことを慕っていたからね」、岩に座り直したコルロルは、昔を懐かしむように言った。
慕っていた……あの時は、確かにそうだったと思う。
「あたし、どうしよう。リーススがあんなに怒ったの初めてで、どうすればいいか分からないの」
あたしはコルロルに問いかけていた。なぜ、やつに聞いてしまったのかは、よく分からない。やつは昔のあたしを知っていて、あたし達の関係性を理解しているように思えたのかもしれない。
「レーニスがどう思っているかが、重要だよ」、こちらへ来て目の前に立ったコルロルは、壁を前にしているみたいに大きかった。でも、圧迫感はなかった。頭に置かれた、人間とは違う手が、ぬくもりを持っていたからかもしれない。「彼女を、大事に想う?」
あたしは考える。リーススを大事に想うか。それは難しい質問だった。
リーススはあたしを十年間支えてくれた。でも、そのことへ対する恩や感謝はない。感謝がどんな感情であったかも思い出せない。
あたしはきっと、欠陥した最低の人間なんだ。そういう事実は、あたしを哀しませてもくれない。
「でも、どうなんだろうな。君は感情を盗まれているから、哀しいとは感じないんだよね?」、ライアンは言いづらそうに続ける。「たとえば、リーススの身になにかあったときなんかも」
「哀しくはない。哀しいがどんなかも分からないし」、リーススが死んでしまったら。頭の中に思い浮かんだのは、がらんとして誰もいない家の中、いたはずの人が消滅した日常、リーススが去ったあとのテント。
「哀しくはないけど、リーススがいなくなった世界で、一分も生きていられる気がしない」
想像しただけで、酸素が凝固してしまった息苦しさを感じる。哀しい、じゃなくて苦しい。もがいても、もがいても、息を吸えない、八方塞がりの苦しみ。
ライアンは盛大に手を叩き、その手を広げた。
「だったら大丈夫さ! そのまま彼女に伝えるといい」
「レーニス、大丈夫だ。そのままリーススに伝えるといいよ」
「それは今、俺が言ったろ?」
「僕もまったく同じことを言おうと思ってたんだ。でも君が言ったから多少文章を変えた」
「あのね、あのね」、ぬいぐるみは興奮した様子であたし達の周りを駆ける。「私、ぜーんぜん分かんない!」
「あたし、リーススを探しにいく。朝まで待ってられそうにない」
そう言うと、ライアンはいい事を思いついたように人差し指を立てた。
「そいつは危険だ、と言いたいところだが、こんな時の強い味方がいる」、彼は腕を広げてコルロルを示した。「みなさんご存知コルロルだ。この雄大な翼で颯爽と風を切り、広い視野でリーススを見つけ出す。あの大男たちと戦うことになっても安心さ。その強さはお墨付きだ」
「……ライアンなにを」
「そのコルロルが! なんと!」、言葉を遮り、彼は力強く続ける。「今なら殺さないと誓うだけで、君の心強いパートナーになる! どうだ? 悪い話じゃないだろう」
ライアンの手の向こうで、コルロルは心なしか胸を張っている。あたしはライアンをねめつけた。
「まるで叩き売りね」
「リーススを探すのに、コルロルの力がいるのは事実だ。君はこの広大で危険なアルスト山で、彼女を見つけられるつもりか? 蟻の巣の中から、かつて名前をつけてペットにした一匹の蟻を探し出すくらい不可能だ」
「なにそれ?」
「昔やったんだ。見つからなかったよ」




