表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物コルロルの一生  作者: 秋月みろく
■行き先とコルロル
20/74

12



「はは、生きてるらしいぞ」


「ぬいぐるみは生きないわ」


「本人が言ってるんだ、動いているし間違いない。見たところ機械仕掛けで動く代物でもなさそうだ」


 確かに、高度な機械がこの汚いぬいぐるみに仕込まれているとは思えない。


「まあコルロルみたいな怪物がいるんだ、ぬいぐるみが生きていても不思議はないさ」


「僕と一緒にしないでくれよ」


「あ、ああ……悪い」


「そのぬいぐるみは、可愛いじゃないか」


「……へえ。そうくるか」


「僕は、その……」、コルロルは自分の羽を控えめに広げ、耳をぴんと立てた。「かっこいい、だから」


 なぜかあたしを見る。『…………』、無言が通過する。すぐにライアンが駆け寄ってきた。


「おいなにやってるんだ、ここで無視はあんまりだぞ。見てられない」


「そうなの?」、あたしはマニュアル本を開き、自分をかっこいいと言っている人への対応を探した。


「なんだそれは」、ライアンは本を覗き込む。


「マニュアルよ、人への自然な対応の仕方が書いて」、本が閉じられる。「ちょっと、なにするの?」


 ライアンは取り上げた本を叩いた。


「マニュアルを見る必要はない。さっきの君たちの思い出話を聞いてなかったのか? コルロルは君の無邪気な笑顔と、心からの『かっこいい』を期待してる」


「すごい、分かるのね」


「まあね。分からないのは君くらいのもんさ」


 あたしはコルロルを見る。その人間離れした出で立ちを見ていると、こう……腹の奥が熱くなるような……。「ダメ、怒りがこみ上げてくる」、あたしは頭を抱えた。


「いや、違うコルロル。怒りって言ったんじゃない。そんなこと言うもんか」、ライアンは慌てる。「いか……イカす、そう。『イカす、リー』がこみ上げてくるってレーニスは言ったんだ」


「……何を言ってるの?」


「俺にも分からない。フォローが追いつかないんだよ、せめてもっと、聞きようによっては『かっこいい』っぽく聞こえることを言ってくれないと」


「無茶言わないで」


「君はいいかもしれない。でもやつが怒り出して真っ先に被害を受けるのは、きっと俺なんだぞ」


「いいんだレーニス」、ぜんぜん良いとは思ってなさそうな暗い声でコルロルは言った。「僕が、盗んでしまったせいだから」


 ライアンはよしきた、というふうにニッと笑う。「この場合、心を」「それはもうやめて」、上げかけのライアンの腕を下ろし、あたしはコルロルへ顔を向けた。


「それで、あなたは、あたしと会ってどうするつもりだったの? 殺されるとは考えてなかったようだけど」


「決まっているじゃないか」、三角水晶が、鋭い爪先に挟まれる。「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲……この七つを集めれば、僕は人間になる」


 あたしは目を細める。「あと、ひとつ?」、水晶の中には、六つの色が浮かんでいた。


「そうなんだ。僕の察するところ、残りのひとつは愛だ」


「……つまり?」


「僕に向けられた感情しか、この水晶は盗めない。誰かに愛してもらわないと、僕は人間になれないんだ」


 あたしは顔をしかめる。「ええっと……つまり?」


「なんだ、鈍いな。俺はもう分かったぞ」


「あたしだって分かってる。でも信じられないの」、三角水晶は、コルロルに向けられた感情のみを盗む。残るは愛、ただひとつ。「あたしが……こいつを愛するなんて」


 ちゃんちゃらおかしいと思った。百歩譲って、子供頃のあたしはこいつに恋心を抱いていたとしよう。だったとしても、今のあたしは喜びや楽しみを知らない。喜びや楽しみを差し引いて、人を愛せるのか、はなはだ疑問だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ