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「こ、こんな時に何言ってるの!?」
これじゃあ、あたしがライアンを騙して殺したようなものじゃないの。
「僕って、これでもオスみたいだからさ」
「メスだったらびっくりよ!」
「生殖機能はないから、気持ちの話なんだけどね」
「いいから彼を助けて!」
「なに? あいつが好きなの?」
「あんたよりはね!」
本当は〝好き〟なんて前向きな気持ち、あたしには無いんだけど、勢いで言ってしまった。コルロルはぷい、と顔を横に向ける。「じゃあ死ねばいい」
「はやくしてくれ~~~!」、ドップラー効果でライアンの声が遠ざかる。
あたしはコルロルの首元にナイフを突き出した。
「な、なにするんだレーニス」
「はやく! 助けて! 今すぐ!」
こんな脅しが効くか不安だったけど、コルロルは「ちぇ」と舌打ちみたいな声を出して、急降下し始めた。
「わっ」、その勢いに、思わずコルロルにしがみつく。
あっという間にライアンとの距離は埋まっていく。暗い崖の底すれすれ……コルロルはその大きな三本指でライアンの腕を掴むと、勢い止めやらぬまま水平に進み、それから緩やかに上昇を始めた。
「ふう~~~……死ぬかと思った」、ライアンはコルロルの腕の先で、その体を振り子のように揺らしながら、長く安堵の息を吐き出した。魂が抜け落ちてしまいそうな、深い深い息だった。
「ホントにいたんだな、コルロルって。伝説上の生き物だとばかり思ってたよ。本当に助かった、恩にきる」
こちらを見上げて笑いかける。それから言いづらそうに付け加えた。
「それと、助けてもらっといて注文が多くて悪いんだけど、この爪引っ込めてくれるとありがたいよ。食い込んでてすごく痛い」
「それは僕の爪の仕様だから、どうにもできない」
「あたしは痛くないよ」
「レーニスには食い込まない。それも仕様だから」
「あはは、レーニス、ずいぶん好かれてるじゃないか」
苦笑するライアンにそう言われ、さっきから感じていたコルロルへの違和感の正体に気がついた。好かれてる……。そうかもしれない。父が書いてくれたマニュアルには、人への対応だけではなく、人の感情についての解説も記されている。
マニュアル解説編、『恋慕』の項目。
「す、好きとか、なに言ってるんだよお前、ほんと、なに言ってるんだ」
ある特定の異性を好きなのかと指摘され、図星だった場合、照れから否定してしまうことがある。この場合は言動に顕著な動揺が見られる。
コルロルを見上げる。やつの大きな三角の耳はぴくぴくと小刻みに動いている。様相が人間とは異なっているから、判断しづらいところではあるけど、さっきから見ている限り、あの耳の動きには、感情が反映されているように思う。
その他にもコルロルの態度をマニュアル本と照合してみたが、むき出しの好意が見えてくるようだった。
「あたしを、好きなの?」、訝しんで見上げる。
がくっと、大きく体制が傾いた。
「おい~~~~!」、ライアンの声が急降下していく。コルロルは離してしまったライアンをすぐに追いかけ、今度は足を掴んだ。
「急に、なんてことを言うんだ……」、また上昇を始めると、コルロルは前を向いたまま目を細めた。
「そういえばさっきも言ってたわ、僕を愛してくれって」
また体勢が揺れる。「そ、それはつい、会えたから、感激して」
「ちょ、ちょっと待て」、逆さまのライアンが叫ぶ。「何度も落とされたらかなわない、その話は危険だから、どこか落ち着いた場所で座って話そう。ほら、あそこなんかいいんじゃないか?」
彼が指した広く平らな道で、コルロルは翼を畳んだ。
「えーっと……それで」、ライアンは腕組みし、あたし達を交互に見る。「君たちは、その、知り合いなの?」




