華音は剣道場に到着した。
華音が剣道場の前に近づくと、すでに剣道着を着た先輩男子が竹刀を持ち、立って待っている。
そして、声をかけてきた。
「華音、待っていた、入ってくれ」
華音は、深く一礼。
「申し訳ありません、お待ちいただいてしまったようで」
「朝のお話の続きで、まいりました」
やはり、華音の話は、端的、余計なことがない。
先輩男子は、朝のような威嚇する様子はない。
「うん、朝は忙しいのに、キツイ言い方をしてしまった」
「それは申し訳ない、おれは剣道部の主将で塚本」
名前も、今回はしっかりと言ってきた。
華音は、にっこり。
「はい、塚本主将、ありがとうございます」
そして、後ろを一旦振り返って
「あの・・・僕もよくわからないのですが、人がついてきてしまいまして」
と、困ったような笑顔。
塚本主将も、それは華音が歩いているのを待つ段階で、すでに承知。
「・・・うん・・・」
「すごいなあ・・・」
「学園長や萩原先生、保健室の三井先生まで・・・」
結局、塚本主将も、華音と同じ、困ったような笑顔。
華音と塚本主将に、吉村学園長から声がかけられた。
「まあ、どうせ、華音君を剣道部に誘いたいってことなんでしょ?」
「それと、中学日本一の腕を見たいってことだよね」
吉村学園長の言葉は、まさに塚本主将の意図そのもの。
塚本主将
「あ・・・はい・・・」
それ以外に、答えようがない。
吉村学園長は、華音の顔を見た。
「華音君、剣道部に入る入らないは、華音君に任せる」
「ただ、修行の一環として、御手合わせしたらどう?」
「それくらいなら、師匠も言わないと思うの」
華音は、いつもの冷静、沈着。
「はい、それくらいなら、全くOKです」
華音の言葉で、塚本主将は剣道場の扉を開けた。
すると、すでに30人以上の剣道着を着た部員たちが、剣道場の両サイドに正座をしている姿が見える。
学園長は、ついてきた生徒たちに声をかけた。
「あなたたちも見たかったら、見なさい」
「ただし、あまり大騒ぎしないこと」
どうやら、ついてきた生徒たちも、見学を許された様子。
全員が、ワクワクした顔になっている。
そんな状態で、華音とついてきた先生方、生徒は全員、剣道場に入ることになった。
さて、塚本主将は剣道場で、華音に声をかけた。
「華音、竹刀は貸すけれど・・・剣道着は持って来てないよね」
「それも貸すよ、まずは着替えてくれるかな」
これも、剣道部主将としては、当然の言葉、
剣道部が剣道着、面をつけて、華音がつけていないのでは、かなり危険なことになる。
しかし、華音は動こうとしない。
笑って、首を横に振る。
「いえ、竹刀だけで、十分です」
「奈良県大会と、全国大会では使いましたけれど、あれは大会規程のため」
「レンタル品なんです、そもそも自前の剣道着も竹刀もないんです」
信じられないという顔の塚本主将に、華音はただ、笑っているだけの状態である。




