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「あだしぎり」と出会った日  作者: ふうらいぼう


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3/3

怒り狂う歩道橋2ー遭難者ー

実際に後で自分でも出向いてみて納得したのだが、歩道橋の上は雰囲気が悪かった。説明によれば隣のビルの改修工事の結果らしいのだが、変な光の反射であったり風の具合なんかで「なんだよもう」みたいに思う場面が結構あった。


夜に出向いてみると、これはこれで様相が変わり闇の中に一本だけ道が白く見える様な様相になり、妙に焦る様な気分が搔き立てられ、影の具合なのか背後に誰かが急にぶつかってきたように感じて、ギョッとする様な事も多かった。


ついでに結構治安が悪いエリアという事もあって、「俺達最強」だったりスプレーアート的な物なんかもあって、これは面倒そうな人だったら取っ組み合いをする事でもあるんじゃないかなという印象だった。


ただ、この大きい要因は歩道橋の作りであり、街の景観だったりにあるわけで、「あだしぎり」が何かする様な余地はないのではないかとも思って聞いてみたのだが。実は改修工事自体はもう決まっており、最終的に問題が解決する事自体は確定しているのだとか。


ただ、問題は工事業者さんだ。一定期間そこに留まり仕事をするわけなのだが夜が深まれば深まるほど、歩道橋の周辺は橋上と同じような誤認要素で満ち溢れてしまい、情緒的に不安になってしまう様な作業員さんもチラホラ出ていて、厄落としの様な事をして気合を入れなおしたいという事になったのだとか。


となると神主さんとかの出番かとも思ったのだが、神主さん込みでの相談の結果、「あだしぎり」へお願いして「気配を持ち去ってもらう→厄災の類は彼女が持って行ってくれたから気合を入れなおそう」というのが無難な線なんじゃないかという事になったという。


確かに墓地で彼女が噺をしてた様子等を思い返すに、あんな様な真似を見せてもらえたら安心する為の納得というものは得られると思った。しかし……「あだしぎり」の方にも1つ気になる事があるのだという。それが遭難者の問題だ。


彼女達は気分や雰囲気の中に、深く深く埋没し周囲の人もそれに巻き込む変わった芸をする人達なわけだが、橋の上等で芸をやった場合、遭難者に遭遇する事があるのだという。遭難者とは一般の意識の向こう側に深く埋没した時に遭遇する何者かの事なのだと。


橋の上で忽然と目の前に出現する事もあれば、辺り一面が橋から異界へ姿が変わりその中でこっちを発見し接近してくる事もある。そして最大の問題は彼らが物理的に危険である事が少なくないという事だ。




会話が通じる場合は対処方法もあるのだそうだが、彷徨い続けて錯乱しており、そのまま襲い掛かってくる事もあり、中にはバット等をフルスイングしてくる事もあるそうで。今回、「あだしぎり」はそれを気にして断るかどうかで迷っていた。


それなら「あだしぎり」の御身内であったり、工事関係者でガタイの良い人等を準備して対処したら良いとも思ったのだが、彼女は「気配を現場から持ち出す芸」をしなければいけない以上、舞台の雰囲気を壊しかねない手段は避けなければいけない。結果、ガタイの良い人は無理であり御身内は高齢なので難しかった。


そこで僕が、「自分やれそうですか?」という事で手を挙げてみたところ、墓場の一件で大丈夫そうと見られたのか採用される事になった。墓場座禅の代わりに何か新しい稽古を探そうとか思っていた事もあったが、一般に説明しにくい気配の様な物を学ぶにおいて、これは良い機会なんじゃないかと少し思ったのだ。


僕がやる事は白装束にて潔斎した後、「あだしぎり」を歩道橋から協力して下さる神社まで誘導する事と、遭難者が出て危なそうな場合の彼女の保護だ。背後から他の関係者も追いかけてきてくれているので、余程の事は心配ないというのだが、そこはかとなく不穏な様子があった事を今も覚えている。




(防刃チョッキと防犯スプレー手渡された時点で、生々しい意味で「マジか」とか思った。緊張感で吐きそうになったり「これ堅気の仕事じゃなかったりして」とか思ったりした。「異界に入った場合も、現実世界の事を忘れずそれに基づき前進してほしい最悪の場合は携帯電話で連絡を試みる」との指示もあった。)


儀式当時の日は雪が少し降り始めており、工事現場の人たちや神社の人だったり、「あだしぎり」の関係者さんと開始時間の深夜0時まで軽く話をしたりして……そして工事故の簡易通行止めの様な形をとりつつ、儀式は始まった。


さっきまで笑っていたソバカスがあった「あだしぎり」は……真蛇の面を被って鬼女になった。階段を一歩上がり持った金槌で欄干を叩く。カーンと音が響く。もう一歩上がり欄干を叩く音が響く。面の中から怨嗟の声が漏れ聞こえ、周囲の闇へと溶け消える。後はそれの繰り返し。




彼女は決して速足で上がったりはしないのだが、怨嗟と金槌の音が響く度に彼女は魔物に変じていった。歩道橋で人を驚かせた何かであったり、焦らせたりする様な気配は、まるで彼女が生みの母ではなかったかの様子。彼女がそれを生んだから、生みの母の元へ皆帰る。


皆、息を呑んだ。僕はそんな彼女の前を提灯片手に歩く共歩き。「あだしぎり」の面の下から嗚咽が聞こえる。それは獣によく似ていた。激しい怒りで誰かを喰い殺したくてたまらないそんな声。やがて歩道橋の階段の下りに差し掛かる。


歩道橋の下では協力者の方が、歩道橋の下の道を確保してくれていた。一瞬「あだしぎり」は鬼の面等被って階段を落ちたりしやしないだろうかと思いかけたが、「入り込んで神がかったあの子が転ぶ事等絶対にないよ」と神主さんが言い切っていた通り、彼女は全く危なげなく階段を下りていく。


さて……問題は僕だ。率直に言って背後が漏らしそうなレベルで怖かった。なんといえばいいか、かの藤岡弘さんは、反対方向に曲がった足を自力で戻して気を失ったとかいう話を聞いたことがあるが、「あ、これ詰んだ」という様な絶望感を伴う。




「人に良くない物ってなーんだ?→これだー」でポンと渡された気分。「あだしぎり」はこの時点で、既にトランス状態に入り込んでおり、同時に冷静な意識を一掴み残してこっちを見ているとも聞いていたが、これは保護してほしいのは、彼女じゃなくて僕の方じゃあるまいか?


輩もこれに絡むとかは絶対にありえないだろう。保護とか何を思い上がっていたんだ僕はと、ただただ、呼吸にだけ意識を向けて、信号2つ先の神社を目指していたのだが……一瞬提灯に目をやり、フイっと目を上げた瞬間、僕は絶句した。


そこには町など欠片も存在していない田んぼの中の畦道だった。ただただ、ポツンポツンと古い街灯が灯り道を照らしているばかり。これが話に聞いた異界というものかと思い、同時に一番警戒していた歩道橋はもう終わったはずなのにと考えて、「あ」っと思い当たった。


神社の一歩手前に立体交差点があった。あれが橋に該当したんじゃないだろうかと。ただ、絶句したけれど儀式続行の指示はあったので、そのまま先導を続けようとしたその時だった。前方から半泣きでフラフラの顔をしたOLさんがやってきたのだ。年は20代中半くらい。ただし、スーツが20年ほど昔のものっぽいのが印象的だった。噂の遭難者だったのだと思う。




「あの!? 何を言っているのか分からないかもしれないですが……! 私、仕事終わりに地下道に入って出たら真っ暗の田舎みたいな場所にいて……! 福岡駅に戻ればどうにか出来るんですが、電話も無くて......!此処、どこですか!?」


福岡は……飛行機案件じゃないかなと。え、まさかこれ時間も場所も無視した超自然現象とかなんじゃ、あくまで気配とか雰囲気だけの話だよね後、協力してあげたいのは山々なんですが、背後に今私鬼女を連れておりまして如何ともしがたい状況なのですが。というか黙っていて良いのかこれとか、色々パニックは続いた。


彼女も彼女で、僕の衣装や背後の鬼女の異常さは気づいていたのだろうが、引くに引けない感じでパニック一歩手前の様だった。そんなとき、鬼女になっていた「あだしぎり」が恐ろしい声を上げた。


「戻りたくば河へ行け! 喰われたくば山へ行け!」




OLさんは「ヒャッ!?」と飛び上がる。僕は驚いたけれどやっぱり怖くて後が向けない。すると「あだしぎり」がまた告げた。


「喰われたいか!」


「帰りたいです!」


「では河だ! 橋を渡れ! 道を妨げる事2度は赦さぬ! 日が昇れば終いになると知れ! 行くぞ共回り!」


OLさんはいつの間にか現れていた右の畦道......おそらくは河へ通じる道を逃げるように走り去り、僕は動き始めた「あだしぎり」の気配を感じながら、足を前に進め、フッと視線を上げるとそこは目的地の神社だった。


いつの間前に回ったのか、背後から付いてきてくれていた人達がギョッとした顔で僕らを見つけて話をしかけたが、儀式が終わってないという事を察したのか脇に下がってくれて......僕は何とか彼女を神社の神楽舞等をやる舞台へ託し、そこで精魂尽き果てた。




「あだしぎり」はこの後、神がかったまま翌朝まで集まった多くの怒りと黒い何かを舞として表現し続け、朝になって電池が切れたように倒れて眠ってしまった。工事の障りは無事に消えて、僕は酷い下痢と熱で2日ほど寝込み、「あだしぎり」は翌日も布団から出られなかったのだが……ここまでやって5000円なのは、やっぱり納得出来ないものがある。今度、事情を関係者さんに聞いてみようとそんな事を思った。





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