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その想いに名前を付けるなら~お嬢様に恋した、ひとりの護衛騎士の話~【コミカライズ配信中】  作者: あさじなぎ
番外編

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22/22

番外編…お庭で【コミカライズ記念SS】

 冬の凍てつく風はヴァルフレードの金色の髪を凪ぐ。

 お屋敷の庭は、庭師たちが手入れをし、季節によって植え替えを行っているため、冬でも花が咲いていた。


「ヴァル!」


 そう声を上げて屋敷から出てきたのは、紅いワンピースをまとったエリーザだった。

 エリーザは勢いよくヴァルフレードに抱き着いてきて、そんな彼女の身体を受け止める。


「エリーザ」


「お待たせ、ヴァル」


 エリーザは顔を上げて微笑みそして、そっとヴァルフレードから離れた。


「本当はお外に行きたいんだけど、いまちょっと面倒だから」


 ぞう、エリーザは残念そうに笑う。

 彼女は王家に繋がる貴族のお嬢様。

 ここ王都では時おり貴族や王族を狙ったテロ事件が起きる。

 最近になってまた、彼らの行動が活発化しているとの情報がある為、エリーザは学校以外の外出を控えていた。

 だから、バルディ家の庭でデートだ。

 ここの庭は広い。だから、庭で一緒に歩いていたとしてもそう目にはつかない。

 そういうわけで、エリーザが一緒に庭を歩きたい、と言い出した。


「あのね、ヴァル。東屋に飲み物とデザートを用意してもらってるの。一緒に食べましょう。アルコバレーノのティラミス、買って来ていただいたのよ」


 そう言いながら、エリーザは手を合わせた。

 アルコバレーノは有名は洋菓子店だ。

 そこのティラミスは人気が高い。


「じゃあ、東屋に行こうか」


 そう声をかけ、ヴァルフレードはエリーザに手を差し出す。

 すると彼女はぽっと頬を赤らめて、その手に自分の手を重ねた。

 葉を失った木々の根元に、シクラメンや冬咲きのチューリップが彩りを添えている。


「うちのお庭は、いつ見ても華やかね」


 視線を巡らせてエリーザが呟く。

 庭の外れには温室もあり、そこではバラなどを育てていて屋敷の食卓などを飾っていた。


「不思議ね。ヴァルと一緒に過ごすのなんて普通の事なのに、こんな風に手をつないで一緒にいられるようになるなんて夢みたいだわ」


 そう告げて、エリーザはヴァルの腕にすっと頭を寄せる。その行為に、思わずヴァルフレードは顔が熱くなるのを感じた。

 誰もいない、とはいえここは屋敷の庭だ。

 いつ誰かに見られてもおかしくないため、思わずヴァルフレードは辺りを見回す。

 幸い、鳥の鳴き声と外で車が走る音しか聞こえず、人の気配は感じなかった。

 

「どうしたの、ヴァル。辺りを見回して」


 不思議そうにエリーザが問いかけてくるが、ヴァルフレードは首を横に振った。


「なんでもないよ」


 と、ぎこちなく笑う。

 なんでもないどころではない。こんなに近いとどうかなってしまいそうで怖かった。

 しばらく歩くと、東屋が見えてくる。

 屋根と壁に囲まれたその東屋の中央には、丸いテーブルと椅子がふたつ、置かれていた。

 テーブルには紅いテーブルクロスがかけられていて、メイドがお茶の用意をしていた。


「ありがとう」


 エリーザはヴァルフレードから離れ、メイドに声をかける。

 メイドはお茶と、ケーキののったお皿をテーブルに置くと、頭を下げてワゴンをおし、去っていった。

 

「ケーキおいしそうね」


 テーブルの横に立ち、エリーザが笑う。

 昔、木の上に上って降りられないと泣いていた少女は大人になり、今、ヴァルフレードの婚約者となっている。

 ずっと、エリーザは手の届かない場所にいると思っていた。

 ずっと、彼女に想いを向けてはいけないと思っていた。

 けれど今、いつでも手を伸ばせば抱きしめられる場所に、エリーザはいる。

 その時風がほのかに吹いた。

 その風に乗り、エリーザの髪がなびき風下にいるヴァルフレードを甘い香りが包み込む。

 これはエリーザがまとう匂いだ。

 その匂いに誘われるようにヴァルフレードは彼女に近づくと、後ろからそっと、その身体を抱き締めた。


「ヴァ……ヴァル……?」


 驚いたような声を上げるエリーザ。


「アルコバレーノのティラミスは、俺も好きですよ」


「え……えぇ、そう、よね」


 とまどったような声でエリーザが告げる。

 

「エリーザ」


「ヴァ……ヴァル」


 恥ずかしげに呟いたあと、エリーザはおずおずとヴァルフレードの腕に触れた。

 こうしてふたりきりになるのは、正式に婚約者になって初めてだった。

 できればもっと一緒にいたいけれど、そうもいかなかった。

 なにせ屋敷には人の目が多い。

 彼女の部屋を訪れるわけにはいかないし、ヴァルフレードの寮にエリーザが来るわけにもいかない。だからふたりの時間、というのは貴重だった。


「ケーキ、食べましょうか」


「え、えぇ。って、ねえヴァル。敬語はやめってっていってるでしょう?」


 言いながら、エリーザはむりやりこちらを振り返る。

 言われてみれば、思わず敬語を使ってしまっている自分がいて、苦笑する。

 長年の癖はなかなか抜けない。


「うん、そうだったね、エリーザ」


 そう答えると、エリーザがぽっと、頬を染めたように見えた。

 

「ヴァル……」


 切なげに呼ぶ声が心地いい。

 ヴァルフレードは、そんな彼女の頬に手を添えて、かるく唇を触れた。

 そしてすぐに唇を離すと、視線が絡まる。

 できればもっと触れたい。そんな想いがヴァルフレードの奥底でくすぶるけれど、ここは外だ。

 それは、一年以上先、エリーザが学校を卒業するまでとっておかなければ。

 ヴァルフレードはそっと彼女から離れ、椅子をひき、椅子に座るように促した。

2025年7月8月、宙出版の雑誌「コイハルvol30、31」にて、コミカライズ掲載していただきました

前後編となっています

作画は、春名ソマリ様

単話はその内でるみたいです

アマゾンやレンタなどで配信されます、お読みいただけますと幸いです

よろしくお願いいたします


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