full moon
ふと空を見上げれば、黒い夜空に白く輝くまるい月の姿があった。
『きれいだね』
そう言ってふわりと笑ったアヤの姿が頭をよぎった。
今ごろどうしているだろうか。
アヤは仕事に私情を持ち込まない人だ。仕事は仕事だからと、いつも割り切っている。アヤを補佐する役にある僕には非常にありがたい心がけだ。しかし、アヤの恋人としては別だ。もう少し、わがままを言ってほしい。
城を出た三日前だって、アヤは笑って見送ってくれた。
『いってらっしゃい』
確かに、笑顔でそう言った。けれど、僕には判っている。本当は行ってほしくないと思っていることを。
仕事だから仕方ないと、心の中にある『行かないで』という言葉を言わないアヤ。顔にも出さないように、つくられた笑顔で笑っていた。
アヤのつくり笑いは本当に判りにくい。気付く人はかなり少ないような気がする。それでも、僕には判ってしまう。その笑顔が本物なのか、偽物なのか。
三日前に見送ってくれた時に見た笑顔は、偽物だった。
本当は、淋しいくせに。僕を困らせないように笑っていた。
「アヤ……」
小さな呟きは、夜の闇の中へと消えていく。それでも構わない。
ただ、今ごろ淋しがっているアヤに僕の想いが届けばいい。
満月の夜に願うことはただ一つ。
君に逢いたい。
fin.
H24 7/17~8/10
…ひとやすみ…
「流した涙と流れ星」のタクトver「full moon」です。
時間的にはだいたい同じ時間です。二人して満月を見ているということになりますねっ!(笑)
タクトがいなくて淋しがっているアヤと、今ごろ哀しんでいるだろうと心配るるタクト。
続きは……未定です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
書き下ろし