温かな光は
淋しいなら淋しいと、そう言えばいいのに。
《温かな光は》
ちょっとした用事で城を訪れた日のことだった。
執務室の中に入ると、元教え子で今は親友のような関係にある、この国の王様が仕事をしていた。珍しいなと思って辺りを見渡すと、いつもいるはずの人の姿がなかった。
「はるるん、どうしたの?」
「ちょっと遊びに来ただけー。ところで、タクトくんはどうしたの?」
「仕事に行ってる。あと二日は帰ってこないよ」
書類に目を落としたまま、答えを返してきた。
まったく……。
いつもより元気はないし、私の方を見ようともしない。
「アヤちゃん、淋しいなら『淋しい』って言っていいんだよ?」
そう言うと、仕事をしていた手がピタリと止まった。
「…………。だってさ……」
「迷惑だと思われると思ってる?」
「…………」
どうやら図星だったようだ。
「アヤちゃんはさ、いつも本音を言おうとしないし、言ったとしても私かタクトくんぐらいにしか言わないんだから」
「そんなことないよ」
「言っとくけど、楽しそうにしてる時の本音とこういう時の本音は、別だからね」
楽しそうに笑っている時は、完全に心を開いていない人にも本音を言っている。けれど、こういう真剣な時などでは、滅多に本心を言わない。たとえ相手が、心を開いている人であったとしても。
「アヤちゃんは、もう少し私達に甘えてもいいんだよ。わがままだって、言っていいの」
こんなことを言うのは、これで何度目になるのだろうか。
事あるごとに言ってきたから、数えようとは思わない。
「もう、成人したし……」
「そんなの、関係ないよ」
「判ってる。判ってるよ、ちゃんと」
アヤちゃんは頭が良いから、私が言いたいことも判っているだろう。
「大人も子供も関係ないってことでしょ? 成人したからって、全てを我慢する必要なんかないって、そう言いたいんでしょう?」
やっぱり。
「判ってるじゃん」
「判ってるだけだよ。それを行動に移すかは、また別の話だよ」
言おうとしたことを、先に読まれてしまった。
気が付けば、書類は一箇所にまとめられ、仕事が終わっていたことを知る。
「……そうだね」
私としては、たまに本音を言って欲しいんだけれど。こればかりは、その人自身が決めることだから、仕方ないか。
「それにね、想っている人がすぐ傍にいないのに本音なんか言っちゃったら、余計に意識しちゃうでしょう?」
目を伏せたまま口元に笑みを浮かべて言う様は、哀しそうに見えて。何か言ってあげたいのに、何も言うことができなくて、嫌になった。
「アヤちゃん……」
ようやく一言出たけれど、それは彼女の名前だけ。続きも、他の言葉も、声にはならなかった。
「大丈夫だよ、はるるん」
心配する私のことを気にかけて、「大丈夫」と言いながら笑ってくれた。先程の笑顔より明るいものだった。しかし、私には、全然大丈夫そうには見えなかった。
「全然、大丈夫そうに見えないよ」
そう言うと、部屋の右側にある二つのソファーのうち、執務用の机に近いソファーに座っていた私の方にアヤちゃんが歩いてきた。そして、私の隣に座った。
「独りとか、淋しいこととか、そんなの、ずっと前になれたはずだったんだけどね……」
小さく呟かれたその声は、はっきりと判るほど震えていた。
そういえば、数年前まではアヤちゃんの両親が行方不明だった。その時に、淋しさや孤独に慣れてしまったのかもしれない。
でも、今は両親も友達もそろっている。淋しく感じたり、一人になったりすることはほとんどない。
どこにでもある日常の、そんなありふれた温かさに一度でも触れてしまえば、今までのことは昔の事として心の奥にしまってしまうことが多い。
「慣れなくて、いいんだよ」
そんなことになれる必要はない。
私はそっと呟いた。
今、私の隣にいるのは、普段の姿からは想像し難い小さな存在の女の子だった。
私は、今にも泣き出しそうになっている少女を、優しく抱きしめた。
fin.
H24 8/10~9/29
…ひとやすみ…
ちょっと長くなってしまいました。。。
『流した涙と流れ星』→『full moon』→『暖かな光は(これ)』の順番になります。
ハルルも、やっぱりアヤを心配するんです。アヤの過去も性格もよく知っている人物のうちの一人ですから。
タイトルは、英語にしたかったのですが、次の話のタイトルが英語だったので、今回は日本語にして交互になるようにしてみました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!




