お貴族様、の家臣、のお抱え園芸師の子供に生まれ変わったようで
「北のシュルテ山近くの領土を貰った!? 聖地認定されてるから周辺開発出来なくて終わってる土地貰ったって何の罰ゲームですか!!」
「待て待て、言葉を慎め。王家からの賜り物だからな、いくらシュルテ山の近くとは言え!」
王家からってもっとダメじゃん。なんだぁ、ケンカか。
◆
俺はコルド、気付けば6歳。転生してきたのは、お貴族様、の家臣、のお抱え園芸師。
産まれてからこの方ずっと土と水と風と木の匂いに包まれて生きてきた。
最高じゃね?
前世はコンクリートジャングルの中で20年は仕事しながら生きてきた。
疲れて平日の寝る前や休日もゲームなど家の中でお籠り需要を満たしていたが、たまの連休には登山したり魚釣りしたりキャンプしたりと、なんだかんだ自然と触れ合って生きてきた。
というか、ゲームしたりよりもそっちのほうが気が安らいだし、仕事なんてやめて自然の中で生きていけたらとは思っていた。が、そこで行う仕事が想像出来ず、どうしたもんかなとか考えていたある日、この世界に転生していた。
最初は視界も曖昧だし手足も思うように動かせないしで退屈ー! とか感情が高まるとよく泣いていた。泣いては自分の鳴き声や涙にビックリして更に泣いていた。
その度に近づいてくる音や温かさを感じながら、少しずつ現状を把握していく。
その結果、ワォッ! 自分は赤子になってるんじゃねーか! という事に気づいた。
どんな力が働いたの? とか考えても、分かることはなんも無い。
前世と同じ。生き方の説明書なんて無かったし、神様からの説明なんかも無かった。
その後も、新しいことに気づいていく毎日。
母親と思われる人物は、どう見ても海外映画の中の俳優だったし、父親もそうだったし、近所の年上お姉さんもそうだった。
どうも、自分は極東生まれという事ではなさそうだな。
父親からは良く土の匂いがした。よく俺の部屋に来ては抱っこしてくれたもんだが、その時、父親は土の香りを身にまとっていた。その後、母親になにか言われてはベッドに俺を戻し、部屋から出ていく。次に合う時は、綺麗さっぱりという感じだったのか匂いは薄くなっていた。
どうやら、外で土いじりしているのが仕事らしい。
父親の仕事着は土に汚れていたが、母親や近くの子供は皆、身なりが良かった。
服を複数持ってるし、たまに見かけた門をくぐって来る馬車の中には、それこそ映画の中でしか見たことのないような一張羅を着ている人たち。
どうやら、良い生活していそうである。
自分から動けなかった身ではあるが、やがて立って歩けるようになり、言葉を少しずつ覚え発音し、物を握ってご飯を食べ、外を見て回った。
楽しい! 前世では観光客に溢れていそうな豪華な前庭。その庭は、父親の管理する所だった。
仕事量がそれなりの日は、父親に肩車されて前庭を探検した。
季節ごとの花が咲き、巡る水路が設計され、門をくぐり奥の屋敷へ向かう間に馬車から見て最高の景色になるように計画建てて仕事をこなしていく。その事を誇らしく語ってくる父親に、憧れや尊敬の念を抱いた。
3歳ぐらいにはスコップ片手に花を植える手伝いをしたり、新しく木を植え替える作業を、遠くから見ていたりした。
多分、その時が始めてだったと思う。魔法を見たのだ。
大人が10人居ても運べなさそうな大きな木が、屋敷と外を隔てている塀の上を通ってやってきたのだ。宙に浮いて。
一度、塀を越えた場所に木が置かれると、門から人が数人入ってくる。
その中の3人が木に向かって手を向けたと思えば、3人の足元から光が立ち上がって、やがて木が浮き始めた。
危ないからと遠くから見物してろと言われていた俺は、思わず大きな歓声を上げていた。
転生して、魔法もあるのか! なんか良い要素がめっちゃ揃ってるじゃん!
最高だぜ、見たかよあの魔法って力を! と夕飯時になり父と母に話す。どれだけ感動的だったかと訴えて、どうやってあんな力を使えるの? と聞いてみた所、「何か物が必要らしいんだが、まぁ、ありゃ”張る”って話しだ」との返事。
どゆこと? と思ったが、どうやら「お値段が張る」ってことらしく、つまりはお高いのだ。
それも、ちょっとどころじゃないっぽい。お貴族様の庭管理なんて普通の仕事よりはよほど高求職みたいなんだけどね、それでも太刀打ちできない様子。
なにか魔法を使う裏技ないかな~と考えたり空に向かって詠唱してみたり(今思うと恥ずかしいな。広いお庭が全てを包み隠してくれてたから良かった)。そんな事してもなーんにも起きないので、取り敢えず一旦魔法は諦めた。一旦ね、一旦。
そうやって、色々と見聞を広めながら、6歳になって少し経った頃。
◆
「噴水を作る、んですか。父が」
「そう。伯爵様の気分転換でね。あの人、仕事に詰まったりすると庭の風景を変えたがるんだよ」
専門業者でも来るのかと思っていた。父の通常業務といえば木々や花の管理がメインだったので、こういう大きな作業が回ってくるのかと驚いたものである。
前庭で手を動かせるのは父を含めて4人で、父は作業者も監督役もやる。
作成する場所は伯爵様からご依頼済み。邸宅前の馬車止めに作ることとなっている。邸宅の中央入口の真ん前だ。
邸宅の中央3階が伯爵様の仕事部屋だから、晴れた日に庭を見れば、その視界に噴水も見えることだろう。
3階からの見栄えも、門から馬車で入ってきて、屋敷に行くまでの間の見栄えも良いものを。
そして、邸宅の玄関からの見栄も。
水盤をどの様な形にするのか。水盤は浮かせたり工夫するのか。吐水口の位置や装飾は。水の高さはどの程度にするか。落ちる水の音はどの程度の音量にするか。途中に段を作って水を敢えて跳ねさせたり、滑らかに流れるように曲線を持たせた吐水口を作るのか。そういったものは父にお任せのようだ。
その事にやる気を出している父が居るが、すごい仕事だなぁと思う。お貴族様の庭、メインモニュメントになるだろう噴水だよ? ある程度はセオリーがあるとして、細かい所は父の感性でいいって事?
「いやいや、もちろん実際に作る前に絵図か模型でお伺いを立てるんだよ」
そりゃそうか。
夕飯後の会話で色々と父から仕事についてを教えてもらっているが、噴水はどうするのかと聞けば、父は家の裏から1本薪を持ってきた。
「絵図にして、とは言っても紙はそれ自体もインクも伯爵様のしごと道具だ、たくさん使えるわけじゃない。だからまずはこの薪を使って模型を作っていくんだ」
言って、小さなナイフで形を切り出していく。薪の中央はそのままに、上下を細くしていく。ある程度のところで中央の加工へ。中央は樹皮だけ剥ぎ、片方に受けを作る。どうやら中空の水盤にするようだ。
水盤の外見は六角形。頂点には伯爵様の好きな飾りを入れてもらっても良いなと、手を止めずにアイデアを口にする父。
水盤の水を受ける側、伸びていた木を少し考えてスパッと短く切ってしまった。低めの吐水口にするようだ。
「薪、というか木だと精密な飾りを作るのは大変だからね。水盤や吐水口を隠す装飾は、別の職人と決めていく事になるだろうな」
その飾りがどこにどの程度の大きさで何個必要なのか、を割り出すためにも模型が有効なんだ。そう言って手渡された模型は、簡素だけどと謙遜する必要がなさそうなほど具体的な形をしていた。
「こういうのを、あと10個程度は作る」
「10個も!?」
ササッと作っていたが、10個も作るのか。それぞれにアイデアを凝らして作るとなると、最後の方とか似たようなの作っちゃいそうだ。
「まぁ、経験を詰めば作れるようになるさ」
そういってこちらの頭を撫でてくれる。
こっちは完全の興味で話を聞いているので楽しめているが、父からしたらこれは仕事の一貫だ。
楽しいだけじゃないんだろうけど、子供が家業に興味をもって聞いてくれてるのが嬉しいんだろうか。なんだか誇らしげな顔をしていて、こっちも嬉しくなってくる。
うーん、こういう穏やかな生活も良いよね。
◆
とはいえ、魔法も使いたい。でも道具の値段は高いらしい(詳細を聞いてみたら、どうやら一生かかって貯金しても払えなさそうという答えだった)ので、大きく稼ぐ必要もある。それも、継続的に。
とにかく今は出来ることから。見たこと無い分野にも取り組んでみて知見を広げ、いつか大金へと繋げるのだ!
というわけで、俺の知識を使って噴水の模型作りでも「ナイフはまだ危ないからダメ」はい、すみません。
父が持っていると小型のナイフって感じだったが、6歳児が持つと大型ナイフって感じ。
そりゃ持たせてくれないか。スッと父に没収されてしまった。
どうしたら良いのかなぁ。
コルド:極東から転生してきた人の今世での名前。園芸師として生まれてきて、前世で良いなーとか考えていた自然の中で働く事になったので、ちょっと嬉しい。魔法も見れてちょっと嬉しいけど、使えるようになるためにはお金が必要。どうやって稼ごう? が最近の目標。父親の様な凄腕園芸師にもなりたいなぁとも。
魔法:なにか道具が必要らしいが、大人10人でも持てそうもない木を3人程度で移動させたり、結構便利そう。
でも、行使するための道具は高いらしい。どんな物なんだろうね。
シュルテ山:国教の聖地に認定されている山。昔、建国の父がこの山に住まうドラゴンより賜った剣で、大地を全て統べたという伝説がある。建国の父とドラゴンが会合した地であるシュルテ山、そこから流れ出てくるシュルテ川、巡礼の道は聖なる場所として人がみだりに立ち入ったり、何か建てたりしてはいけないと定められている。
ので、そこを領地としてもらっても、まぁ扱いづらいよねと。これが報奨なのはどうなのよというお話。




