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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第二章 新宿侵攻編
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決意

 新宿の長い夜が明けて一週間。私は、久しぶりに日本学園の校門をくぐった。

 

 通学路ですれ違う生徒たちは、昨日のテレビで流れていたニュースを、どこか遠い国の出来事のように噂している。空に空いた巨大な門も、白銀の閃光も、ストロントの情報操作で「異常気象」として上書きされていた。


 教室に入ると、麻奈がいつもの席で待っていてくれた。


「おはよう、渚。顔色、良くなったね」


「うん、おかげさまで。ノート、本当に助かったよ」


 私は麻奈にノートを返しながら、自分の席に座った。


 授業中、先生が黒板に書く数学の数式を見つめながら、私は自分の右手のひらをそっと握りしめた。包帯は取れたけれど、あのバルドの圧倒的な圧力を受け止めた時の感触は、まだ皮膚の奥にこびりついている。


 休み時間。廊下で一人、自動販売機の前に立っていると、背後から低い声が響いた。


「……生きてたか、適性S」


 佐伯海斗だった。彼は不機嫌そうに缶コーヒーを握りしめ、私を鋭い目で見つめている。


「新宿のログを見たぜ。……お前、最後の一撃、あれはもうギアの性能を超えてた。あんな真似、何度もできると思うなよ」


 佐伯なりの、不器用な忠告。私はそれを受け止め、まっすぐに彼を見返してこう言った。


「……わかってる。でも、無茶しなきゃ届かない場所に、あいつ(バルド)はいるから。……佐伯くん、次の『個人ランク戦』、楽しみにしてて。次は自爆じゃなくて、適性Sとしての本当の牙を、あんたに見せつけてあげるから」


 佐伯は鼻で笑って立ち去ったが、その背中からは彼自身の「焦り」のようなものも感じられた。


 放課後。私は麻奈と透斗に誘われ、校舎の屋上へと向かった。


 夕日に染まる綱島の街は、あまりにも静かで、美しい。


「……ねえ、二人とも」


 私はフェンスに寄りかかり、遠くに見える新宿のビル群を見つめた。


「私、バルドに言われたことがずっと頭から離れないの。『牙を研いでおけ』って。あんなに怖い思いをしたのに、心のどこかで、早くあいつのところまで辿り着かなきゃって、歯車が急かしてくるんだ」


 ハイパー隊員である透斗は、双剣を扱う時とは違う、優しい手つきでフェンスを叩いた。


「渚。お前はもう、俺たちが守るだけの存在じゃない。……でも、一人で背負い込むなよ」


 同じくハイパー隊員の麻奈も隣に並び、私の肩にそっと手を置いた。


「そうだよ。まずはスーパー隊員への昇格、期待してるからね」


 二人の温かさに触れて、私は自分の胸の奥で、黄金の歯車が以前よりもずっと穏やかに、けれど力強く回っているのを感じた。


 私は、すでに高みにいる二人に向かって、最高の笑顔でこう告げた。


「……見てて。まずはスーパー隊員になって、すぐに二人のいるハイパーまで追いついてみせるから。私が適性Sなのは、二人を置いていくためじゃなくて、二人の隣で胸を張って笑うためなんだよ。だから、絶対……待っててね!」


 家に帰る途中、私は一人で鶴見川の土手に立ち寄った。


 バルド、そして「ワットの国」。


 まだ見ぬ強敵たちは、間違いなくこの空の向こう側に存在している。明日からはまた、蓮さんとの地獄のような訓練が再開するだろう。

 

 私は夕闇に消えていく街を見つめながら、独り言のように呟いた。


「バルド……。お前がくれた、この退屈で愛おしい日常を守るためなら、私は何度でも地獄へ行く。見ててよ。私の『適性S』という牙が、お前の首元に届くその日まで、私の歯車は絶対に止まらない。……次に会う時は、お前を絶望させてやるから」


 山上渚という少女の、新しい日常。


 それは、失った命を背負い、守りたい日常のために、最強の牙を研ぎ澄ます日々。夕風が、白銀の決意を乗せて、どこまでも遠くへと流れていった。

第二章 新宿侵攻編終了です。

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