表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/130

意識を持つ影

 爆音と火花が、いつもは静かな綱島の夜を切り裂いていた。


 目の前で繰り広げられているのは、訓練場でのシミュレーションとは比較にならないほど冷たく、鋭い死闘だ。透斗の双剣が青白い軌跡を描き、ワットの懐に滑り込む。麻奈の大剣が重低音を響かせ、敵のガードごとアスファルトを粉砕する。


(……速い。追えない……っ)


 私は、ただノーマル・ギアのグリップを握りしめて立ち尽くしていた。


 二人の動きには、一分の無駄もない。そこへ、ビルの屋上から実羽の狙撃が「ここしかない」というタイミングで突き刺さる。


 幼なじみ三人の間に流れる、言葉を超えた連携。それは、昨日今日で作り上げられたものではない、今までに積み重ねられた「時間」そのものだった。


「……あ、れ」


 ふと、異変に気づいた。

 麻奈に吹き飛ばされたはずの最後の一体。そいつは、これまでの個体のようにすぐに霧となって消えることはなかった。

 

 ゆらり、と。

 折れたはずの膝を戻し、そのワットは立ち上がった。黒いスーツのような皮膚が波打ち、顔に相当する滑らかな平面に、不気味な「歪み」が生じる。


『……ミツケタ。……適性ランク、S……』


 それは、ノイズを無理やりかき集めたような、卑屈で冷たい声だった。

 

「しゃべった……!?」

 

 透斗の驚愕の声が響く。ストロントの資料にさえ稀にしかといっていいほど記されない「意志を持つ個体」。


 そのワットは、目の前にいるハイパーの二人には目もくれず、真っ直ぐに私を――最後尾で震えている私だけを見つめていた。


「渚、逃げて!!」


 麻奈が叫ぶ。けれど、ワットの動きはそれよりも速かった。

 影が伸びるようなものすごい速度で、ワットの腕が鋭い黒刃へと変貌し、私の喉元へと迫る。


(――死ぬ)


 本能がそう告げた瞬間、私の視界からすべての色が消えた。

 周囲の音がスローモーションになり、私の胸の奥で眠っていた『黄金の歯車』が、怒り狂ったように逆回転を始める。


(……逃がさない。……絶対に置いていかせない!!)


 私は、如月先輩に教わった『ブレーキ』を、意識の底で完全に粉砕した。


 抑えるな。逃がすな。


 剣の振り方なんて知らない。私はただ、この暴走する全エネルギーを、大切な親友を害する目の前の不気味な「影」にぶつけることだけを考えた。


「……あああああああああああ!!」


 ドォォォォォォォォォォン!!


 私の手元から、視界を焼き切るような真っ白な閃光が爆発した。

 それはもはや剣の一撃ではない。ただの、純粋で暴力的な「熱」と「衝撃」の塊。

 

 白銀の光は扇状に広がり、迫っていたワットを、そして背後の廃ビルの一部ごと、跡形もなく飲み込んだ。


 適性Sという規格外の出力が、ボロボロの訓練用ギアを媒介にして、世界を白く染め上げる。


「……っ、は、はぁ……っ!!」


 光が収まったとき、そこには焦げた地面と、熱で歪んだ大気しか残っていなかった。

 意志を持っていたはずの影は、断末魔さえ残さず消滅していた。


 カチ、カチ、カチ……。

 虚しく空回りする歯車の音。

 

 一気に体温が奪われ、膝から崩れ落ちそうになる。

 けれど、倒れる寸前。


 ビルの屋上でスコープを覗いていたはずの実羽が、信じられないものを見るような瞳で私を凝視しているのが、通信越しに伝わってきた。


「……今の、何よ。……ありえないわ、あんな出力パワー


 呆然とする三人の中で、私はただ、熱でドロドロに溶けたギアの残骸を見つめていた。

 成功したのかはわからない。ただ、私は初めて、自分の力で「あちら側」の存在を退けたのだ。


 私は少し誇らしい気分になっていた、その時は。いや、その時までは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ