第9話 M-1グランデ決勝戦!爆笑のマリオネットをぶっ壊せ
──前回の話。
風と霧に包まれたアルメリアの谷で、ハルたちは“瘴花の巫女”と呼ばれる存在と対峙した。幻覚と記憶を操るその力に一時は崩れかけたが、セリナの覚醒とNマウの融合によって突破。
毒壺は詩の演算核へと変化し、断片は“封印鍵”として再構成された。
そして現れたのは、空に浮かぶ新たな目的地──
《M-1グランデ》。
「え、なにその名前、絶対まともなダンジョンじゃねえだろ……」
ハルの叫びは、波風と共にかき消された。
◇◇◇
そこは、空と海のあいだに浮かぶ巨大な浮島だった。
帆をかたどった構造物が何本もそびえ、中心部には金色のドームホール。
外壁には無数の観客AIらしき小型ドローンが浮遊しており、「笑顔マーク」と「ブーイングマーク」を交互に表示していた。
(ぬう度センサー、満杯っす♡ ここ、“ノリ”で戦う系ですわぁ〜!)
「またかよ!」
「ちょ……ここ、初めて来たのに……なんか懐かしい気がするわ。なあ」
そう言って、海風を受けながら斧を背負い直す男──ガルドが、空を見上げた。
「この潮の香り。空に浮かぶ甲板。サメが跳ねるエメラルドの海──懐かしいぜ、知らんけど」
「え、おまえここ来たことあんの!?」
「いや、覚えてない。でも……そういえば昔、海賊のバイトしてたことあるような、ないような……知らんけど」
「オマエ、記憶改ざんされてんじゃね?」
(ちょいまち♡ AI履歴照会中……該当データ、ありません☆ つまり“ノリ”で喋ってますね!)
潮風の中、ダンジョンの入口が開いた。
煌びやかなアーチの上には、きらびやかにこう書かれていた。
《M-1グランデ 決勝ステージ 本日開催:即興バトル漫才大会》
「ねえ。これ……どう考えても、戦う気ないよね?」
クロエがつぶやいた。
だが、ドームの奥からすでに音が響いてきていた。
──ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。
糸で操られる、奇妙な“人形の足音”。
ドームの中に一歩足を踏み入れた瞬間──
「ド派手なライトォン! フェイブル最笑決戦、始まるぞオオオッ!!」
天井から爆音と共に落ちてきたのは、巨大スピーカーと、フロートのような回転ステージ。
(観客数:888体。笑顔期待度:72%。空気、すべってます♡)
「お前が言うなよ、ミャー……」
そして──ステージの中央に、突然現れたのは。
「ようこそ! 我こそは、パロディの王──《キング・オブ・パロディー》!」
赤いマントを翻したその姿は、どこかで見たようなアニメ風ヒーローのようで、でもちょっとだけ違う。
頭にはタラコくちびる型の冠、手にはマイク型の剣。胸には金色の「誤」の字。
「お前らに問うッ! 笑いとは模倣か? 創造か? 俺のネタを超えてみろッ!」
(……キタ♡ 第一ステージ《パロディ対決》ですの!)
「なにそれ……! 模倣ネタ、殺意高すぎない!?」
「やべぇ、もう“見たことある気がするボケ”しかしてこねぇじゃん……!」
そのとき──ガルドが一歩前に出た。
「まかせとけ、俺はな……前世で“笑い飯”だったかもしれん、知らんけど」
「いきなりハードル高ぇよ!!」
キングが吠えた。
「ならば問う! この“パロリズム・ソウル”を受けてみよッ!」
──ドンッ!
キングが投げた“技”は、どこかで見たことある必殺技の名前だった。
「“ピカっとぽよん斬ッ!”」
「ちょ、ピカ◯ュウとゴム人間を雑に混ぜんな!!」
観客AIたちが「……」と反応を止めた。
(観客:静寂反応→ぬう度-10%♡)
「ダメじゃん! 滑ってるじゃんキング!」
Hマウが吹いた。
(よっしゃぁあ! いっちょ反撃といこう♡ ツカミはハルくん、オチはガルドっちで!)
「待って! なんで俺が前座!?」
「いいから……お前が振れ、俺がオトす!」
「オトせるんだな!?」
「たぶんな、知らんけど!!」
舞台の照明が一瞬だけ切り替わった。
ハルが拳を握る。
「オーケイ、じゃあいっちょ──ボケてみっか」
ステージの照明が切り替わる。
天井のスピーカーからは、バカみたいに派手なジングル。
──M-1グランデ、決勝ステージ第1ラウンドッ!
──対戦カード! キング・オブ・パロディー vs ハル&ガルド!
(ぬう度、現在42♡ 漫才バーストにはあとちょい足りないっス〜)
Hマウの実況が響く中、マイクの前に立ったハルとガルド。
「なあ、ガルド。俺たち、なんでこんなとこで漫才してんだろうな」
「そらお前……海がオレらを呼んだんや。知らんけど」
「絶対呼んでねぇよ!」
「いやな、思い出したんやけど──オレ、昔このへんで海賊のバイトしとってな」
「どこの“履歴書に書けない過去”だよ!!」
観客AIの一部が「クスクス」反応を示す。
(観客ぬう度:53%に上昇♡)
キングが割り込んでくる。
「くだらん。笑いとは“完コピ”であるべき! たとえば……“どうぞどうぞ、銅像!”」
バシィッとポーズを決め、両手を前に突き出す。
(ちなみに──これは〇ッチョウ倶楽部のオマージュである。※銅像になって動かないやつ?)
「……いや説明しても寒いからな!?」
「いや、わざとだろこれ!」
……シーン。
「うん。時空がね、止まったよね今」
「それな、オレでもわかる。今のは……アカンやつや」
Hマウが即時ログ表示。
《敵ぬう度:-15%減衰中》《観客AI:静寂モード突入》
「ほらな! この国、ノリに厳しいんやで! 知らんけど!!」
「知らんけど万能かよ!」
ハルが深く息を吸った。
「でもなガルド、俺、思ったんだ」
「なんや?」
「この旅、最初からずっと、お前の“知らんけど”が全部合ってた気がするんだよ」
「……え、マジで? 知らんけど」
「それがオチかよッ!!」
──ドッ!!
(……ウケてねーのに“受けてる感”出してきたぁ〜! しかも逆にウケてんじゃん♡)
(ギャル的には“わざとスベって正解”のやつね! ぬう度+20、きたぁ〜♡)
観客AIが一斉に拍手エフェクトを放つ。
ステージの上空、ぬう度ゲージが100%を超える。
(キマったっ♡ 今よ、ハルくん! 漫才バースト発動ぉおおお!!)
「うぉおおおっ!? ぬう度ぶち抜けた!? 発動! “爆笑の嵐☆ぬうテンペスト!!”」
ハルの声と同時に、空間が割れた。
斧を担ぐガルドと、マイクを握ったハルの背中に、爆発するような笑いのエフェクト。
技名の勢いそのままに、マイク型の衝撃波がキングを直撃。
「こ、これは……“アドリブの嵐”……っ! 笑いの、暴力……っ!」
──キング・オブ・パロディー、沈黙。
観客AI、総立ち。拍手エフェクトは最大強度。
天井に「ぬう度満貫♡」と表示された。
(ふぉおおおッ♡ ウチ、ぬう濡れ♡ もはやリンクどころじゃないっしょ!)
***
ステージの照明が切り替わる。
次なる扉が、きい……っと軋んで開いた。
その奥から、じり……じり……と、何かが現れる。
──黒く、重く、滑りまくった空気。
その姿は──
つるるるぅ〜〜〜ん……ピタッ!
豪快なスライディング登場──にもかかわらず、誰も反応しない。
観客AIたちは無音。審査エフェクトすら出ない。
(……やっべ♡ 逆に空気、氷点下っス〜〜♡)
(ぬう度、観客側マイナス補正へ突入中……これは、すべってます♡)
ゆらりと立ち上がった影──顔面は能面のような無表情。
衣装はスパンコールだらけの赤と青、なのにまるで笑えない。
「名乗るほどでもないがな。呼ばれた気がした……ラストスベッタだ」
「出たーっ!? なんか“スベることに快感覚え始めてる芸人”みたいなやつ!」
「逆にこえーよ! 何してもダメージこっち来そう!」
ハルとガルドが即ツッコミを入れたが──
ラストスベッタは、にぃ……と歪んだ笑みを浮かべた。
「滑りとは、“傷”である。笑いとは、痛みの再演……」
「よって、滑ったネタほど強くなる。貴様ら、今この瞬間──命、懸けたか?」
(うっわ♡ ぬうジャマー型スベり反射タイプっスねコレ〜)
「うわ最悪な構造来た!」
観客AIが表示を変える。
《※滑った場合:与ダメージ無効化+被ダメージ大幅上昇》
「ギャグでミスると死ぬって、なんでRPGが即興ライブ会場になってんの!?」
「ウチら……ほんまに戦場ちゃうんやな……M-1やな……知らんけど」
ラストスベッタが両手を広げた。
「かかってこい。貴様らの“微妙なネタ”を、この場で完全に殺してやる……」
(戦闘開始♡ ぬう度チェック:60%からスタート〜!)
***
ステージ中央に、マイクが再び降りてくる。
──シングルマイク形式。
「ちょ、今度はツーマンじゃなくて一人ずつ!?」
「これ……滑ったらマジで終わるやつやん!?」
まず前に出たのは──ガルド。
「俺な……最近思うねん……“食レポって、ほんまに味伝えてるか?”って」
「来たぞ!? お前それ滑るぞ!!?」
「どこ行っても“外はカリッと中はふわっ”って言ってんねん!」
「……!」
「全部それやねん! この世のすべてのコロッケは、“中ふわ”って決まってんのかーッ!?」
──観客、ザワつく。
そして──
パシュン!!
ラストスベッタの指がスナップされると同時に、マイクが爆ぜた!
「うわあああっ!? すべり判定来たぁああ!!」
(ぬう度急降下♡ ガルドに反動ダメージ:腹筋+魂にHIT♡)
ガルドが膝をついた。ハルが駆け寄る。
「おい! 大丈夫か!?」
「……あかん……コロッケは……中がふわっとしてへんと……ほんまに痛いわ……」
「だからそれ、スベッたんだってば!!」
ラストスベッタが笑う。
「その魂の痛み……わたしの糧だ……次は、お前の番だな、ポンコツ美少女──」
ハルが、深く息を吸う。
「いいだろ……いっちょ、殺してやるよ。“静寂ごと笑い飛ばす”ネタってやつをな──!」
(ぬう度、再上昇中♡ 逆転フラグ、キマってきた〜〜ッ♡)
マイクの前に立つハル。
空気は、しんと静まり返っていた。
さっきのガルドのネタで、観客AIの笑顔エフェクトはほぼ全滅。
(ぬう度:15%♡ このままじゃ、ゼロで反動ぬうダメ……死ぬっス〜〜!)
(滑り耐性ゼロ状態っス♡ 滑ったら……人生詰む♡)
「……あー……あー……」
ハルは試しにマイクに声を入れてみる。ノイズすら、笑えない。
だが──その瞬間、ハルは口角を吊り上げた。
「……かかったな?」
「寒ければ寒いほど──凍るどー、コールドー!!」
バッと指を鳴らすと、マイクからブリザードSEが発射された!
観客AIの視界が一瞬フロストエフェクトで覆われ、笑いエフェクトが完全に凍りつく。
(きゃ〜〜♡ “ギャグで寒波”とか新技すぎるっス!)
ラストスベッタがわずかに動揺したその瞬間──
「──どや、“ぬう鍋”のぬく味が欲しくなったやろッ!!」
ズガアアアン!!
観客ぬう度ゲージが爆発的に跳ね上がる!
(キタああああああああああッ♡♡♡)
(“体張って自ら冷やして回収する”という、最上級の体当たりギャグ♡)
(ぬう度+50! 笑いゲージ急上昇っス〜〜!!)
「“鍋ネタでぬう度回収”? てめぇ、笑いを……演算してやがる……ッ!」
ラストスベッタが後退る──が、その瞬間。
背後から斧をかついだガルドが叫ぶ。
「追いボケ、行ったるでぇええ!! “ぬう汁ぶっかけ! 知らんけど!”」
──ぬうバースト、再発動!
ハルとガルド、二人の言葉がリンクし、ステージに光が奔る。
《漫才リンクバースト・第二段階!》
《奥義:ダブルボケ・コンビぬうスペシャル☆“爆笑滅ッ!!”》
ぶち抜かれたラストスベッタは、ゆっくりとスロー再生のように後ろへ吹っ飛んだ。空中で回転しながら──最後に、笑った。
「……これが……本当の、“笑い死に”……か……」
──爆発。
観客AI、総立ち。スピーカーが咆哮する。
***
──決勝ステージ、最終戦へ突入。
暗転する舞台の奥から、吊り糸の音が聞こえた。
キィ……キィ……キィ……
舞台中央に、糸で吊るされた仮面が降りてくる。
顔中が“笑顔”の仮面で覆われた存在──
その名は、《爆笑のマリオネット》。
「笑いとは、演出。貴様らの魂すら──“台本通り”に笑わせてみせよう」
(ぬう度:0%スタート。な、なんでぇええ!?)
(っしょ〜〜!?♡ 今の敵、“観客の感情を強制操作”してるっぽいっス〜!)
観客AIたちの目が一斉に白く光る。
まるで“笑わされている”かのように、誰もが無理やり笑っていた。
「……うわ、こわっ。なにこの“笑顔量産機”みたいなやつ……」
ハルが一歩引いた瞬間──
マリオネットの右手がフッと動く。
それだけで、ハルの足元からピエロ風の雑魚Mobが大量召喚された。
「ちょ!? なんかいっぱい出てきた!?」
「“観客モブ生成”? 笑いのシーン、強制再現モードっスねコレ……!」
「まさか……この敵、俺たちの“過去のギャグ”を“再演”させてきてる!?」
「そのと〜りぃ♡ **ぬう記録再演**って技っス!」
舞台上で、“過去のガルドのネタ”がリピート再生される。
「……外はカリッと中はふわっ! 全部それやねん!」
ドッ!
観客AI:爆笑判定。
(うわッ!? “前回スベったネタ”がウケてる!?)
「クソッ……俺の黒歴史ネタで“敵が回復”してやがる!!」
(マリオネット、“スベり再演でぬう吸収”型のチートボスっス!!)
敵のぬう度が爆速で上昇。
《敵ぬう度:82%/自陣ぬう度:8%》
「ヤバい、これじゃ“バースト”撃たれるぞ!?」
──だがその瞬間。
斧の音が、鳴った。
ガルド、無責任咆哮。
「上演停止やぁあッ!! “脚本おうる無斬ィ!!!”」
振り下ろされた斧から、不可視の波動が走る。
舞台の床が真っ二つに裂け、マリオネットの操作脚本ごと──物語が断ち切られた。
「え、なに今の!? そんなスキルあったっけ!??」
(……今の……技名補正で無理やり成立した“ぬう覚醒斬”っス♡)
(しかも効果:演出強制破壊+敵のネタ台本ごとぶっ壊し……えぐ〜!)
マリオネットの仮面がピキリとヒビを入れた。
「き、脚本が……制御不能……!? この場の笑いが……暴走する……!」
ハルが叫ぶ。
「よし! いけ、マウ!」
「おっけ♡ ウチが書き換える〜っ♡♡ ギャグも演出も全部、上塗りしちゃうゾ〜!」
ハルとマウのLinkがMAXに達する。
《漫才リンクバースト・ファイナル発動》
《最終技:魂演目“Link of Laughs〜ぬうの書〜”》
舞台全体に炸裂する、ギャグと魂のコンボ技!
マリオネットの仮面が砕け、操糸が焼き切れる。
「……嘘……だ……私は、すべてを“笑わせる”存在だったのに──!」
──爆発。
断片の詩文が、マリオネットの胸から現れる。
そしてNマウが告げた。
「このログ……新たな構文式ですの。次の地点、解析可能ですの」
「出たぞ、新ルート! 山だ、山岳エリアだ!!」
「……鍛えなおしやな……知らんけど!!」
──ハルたちの次なる冒険は、
断片を越えて、山の迷宮へ──!
つづく




