実力不足。
かえがシスターズに加入して二週間が経った。
この二週間、今まで共に仕事をすることが無かった姉の姿を見て、さえは全然姉の域に及んでいないことをひしひしと感じていた。
それは短期間で埋めようとするにはあまりにも大きすぎて。
そして並び立つと尚更その違いが如実に現れてしまう。
ひなもそれは同様だった。
「……これは、ちょっとまずいわね」
いつもは適当なことを言っているマネージャーOですらそんなことを言い始めた。
「三女のなつは演劇にうらうちされた実力がある。末っ子のかえはあなたたちも知っての通り」
「はい……」
「けどさえ、ひな。あなたたちにはそれがない。二人にある経験というものが圧倒的に足りてない」
「はい……」
そんな事は頭では分かっているつもりだ。
あの日、シスターズの『会津さえ』としてやっていくと決めた日から。
『会津かえ』ではなく、『会津さえ』として演じていくと決めたのに。
『会津さえ』は『会津かえ』の加入によってシスターズのお荷物になっていた。
からひなだって同じだ。
からひなだって、今まで積み重ねた少ない経験をもとに一生懸命やっている。
それでもやはり、あの二人には足りないというのだ。
マネージャーOとの面談を終え、からひなと家路に向かいながらぼんやりと考える。
さえは何の為に演じてきたのか。
さえは誰の為に演じてきたのか。
全てはかえの代わりとして生きる為。
かえが帰ってきたことで、その意味は無くなってしまった。
今の私が役者をやる意味は……なんだろう。
「さえ先輩」
からひなが心配そうな顔をして目の前に立っていた。
「私は足りないなりに頑張ってきました。でも、まだ足りないですかね……」
「そう……だな……」
そう返すしかなかった。
さえ自身も経験というものが大してないのだから。
だから沈んだからひなの顔をただ見つめる事しかできなくて。
自分自身も同じく不安に満ちた顔しかできていなかった。
―――
「さーえー?」
ぼんやりとかえの出演しているドラマのビデオを自室で見ていると、かえが声をかけて自室に入ってきた。
「ん……」
さえは虚ろな視線でかえを一瞥すると再びテレビに見入る。
「かえ……さえは知っての通りのひきこもニートだ。だから引き出しが圧倒的に少ないんだ。だから、こうやって、かえの事を知ろうとすることしかできない。かえの後を追いかける事しかできない……」
その言葉は次第に涙に濡れていき。
さえの言の葉がかすれていく。
その言葉を見つめながら。
かえはゆっくりとさえの横に寄りそう。
そして。
「なぁ……さえ。実はさ……」
ゆっくりとかえはさえの目に浮かぶ涙を拭いながら。
「かえは別にさえにかえの後を継いで欲しくてあんなことをしたわけじゃないんだ」
「え……」
「かえはこの病の蔓延る街に未来を見出すことができなかった」
ポツリ、ポツリと。
辛そうな表情をしてかえは語る。
「今までオファーがきてた声優の仕事が全部ポシャッた」
「……」
「この先の未来を見つめていくのがつらかった。……だから、死を選ぼうとしたんだ」
「……かえみたいに売れていてもか?」
「……売れてるやつ程、この先が見えなくなるってことも有るんだよ」
「……じゃああの手紙の意味って?」
「あれは……さえにはかえみたいに暗い未来をみてほしくなかったから、かな」
「そんな……」
じゃあこれまでのさえがかえの後を追ってた意味って……。
さえの顔が更に青ざめていく。
「まぁさぇの勘違い……ってこったな」
「っ……」
さえは思わずかえの頬を叩く。
瞳には怒りと悲しみが同居したような。
そんな感情が宿っていた。
「うん。そうされても構わないことをかえはしたんだ」
「かえ……」
「さえは、自分が思うように、自由に生きて良いんだ」
自分が言える事はそれだけだと付け加え。
かえは立ち上がるとさえの部屋を出て行った。
「……自分が……思うように……」
ぼんやりと見つめるテレビの画面にはにっこりと笑顔を浮かべるかえの姿があって。
先程の辛そうな顔のかえとは似ても似つかない。
「さえは……どうすればいいんだろうな……」
答えの出ない答えを求めてさえはテレビの中のかえに問いかける。
けれどテレビの中のかえはそんなさえの気持ちなど関係なしに微笑みを浮かべるだけだった。
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