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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第42話 タイムリミット

※少し残酷表現があります

 時の箱舟の完成も、あと数日で迎えそうになった頃。


 夕方になり1日の作業を終え、俺が世界樹の元へと帰るべく、エルフィー等と一緒に帰り支度をしていた時だった。


「(主様!急患です!)」


 と、バハディアから念話が届いた。


「(わかった。直ぐに向かう)」


 俺は彼にそう返事をし一緒に居たエルフィー達へと


「怪我人が出たらしい」


 と、言い残し、使っていたドワーフの神体像から抜け出て、世界樹の方にある人間の神体像へと乗り移った。


 急ぎ飛行魔法を使い上空へと飛び立ち周囲を見回すと、南方の森の樹上に光魔法の光球が有るのが見えたので、そこへと急行する。



 ここ数年で、こういったトラブルの際に取るべき手段や手順なども、ある程度は確立された。


 怪我人が発生したか発見された場合、世界樹の葉が近くに在るのであれば周囲の者がそれで治療をする。


 それが出来ない場合や場所であった場合は、その場に素早く駆けつける事が出来る者、主にバハディアとサーリのコンビが、その場へ急行する手筈となっている。


 そして、それでもダメな場合は最終的に俺に連絡が来て、場所を知らせる為に光球を発見しやすい様に浮かべておくか、バハディアが上空で目印として待機する事になっているのだが……

 その頻度が、ここ最近増えてきている。


 少し前までは、バハディアかサーリが到着した時点で、軽傷ならサーリの回復魔法で、重傷の場合はそのどちらかが持っている世界樹の葉での治療が行われていたので問題は無かった。

 だが、現在、それが出来なくなる問題が起き始めた。


 今向かっている現場も世界樹からさほど離れていない距離なのに、俺が呼ばれた理由もそこにある。


 ついに……世界樹の葉の供給が追い付かなくなったのだ。


 少し前から、その傾向はあった。


 前に計測したのだが、1日に世界樹から落ちて来る葉の数は1日250枚前後で、人口が350人程度の頃は、一人が2~3日に1枚食べる程度の消費だったので供給が追い付いていた。

 だが、3年ほど前に人口が500人を超え、今では750人超にまでなった結果、供給と消費のバランスが逆転してしまったのである。


 皆に、消費の縮小を促そうかとも考えたのだが、それは止めた。


 どうにも、皆が世界樹の葉を食べる頻度である2~3日に1枚というのが、身体に必要な栄養バランスを保つ為の本能的な行為である事が、皆への聞き取り調査で判明したからだ。

 なので、逆に「3日に1枚は食べる様に」と厳命する事となってしまった。


 今、足りない分は、俺が前に余剰分をアイテムボックスに溜め込んでいた物を放出して凌いでいるが、それもあと数ヵ月しか持たないだろう。

 最終手段としては、世界樹から直接葉を取るという事になるだろうが、それもただの先延ばしでしか無い。


 やはり、もう時間切れという事なのだろうか……



 光球が浮いていた真下の現場に近くまで行くと、血だらけのエルフの少年がバハディアの腕の中に抱えられていた。


 その周囲を数人の者達が囲むように見ている状況で、周囲の者達の中にウアと、その腕の中に魔力枯渇で気を失っているサーリが居て、それとは別にガウとヒューガにより地面に組み伏せられている豹の獣人の若者が目に映った。


 取り敢えず、先に確認するべきは血だらけのエルフの少年が先だと判断し、地面へと降り立つと


「主様! 肩から胸部への深い裂傷!

 意識、呼吸、心拍ともにありません!」


 と、バハディアが即座に報告してくれた。


 俺は「分かった」と頷き、直ぐにエルフの少年の状態を確認する。


 サーリも来ており、その彼女が魔力枯渇で気絶をしているという事は、既に何かしらの治療は行われているという事で、バハディアの言う通り肩から胸へと深い傷があるが、傷から覗く肺などといった内臓の修復は済んでいた。


 少年のステータスを確認すると、状態の表示が瀕死となっている。


 手遅れの場合だと、この状態が死亡となりSIDの欄も空欄となっているのだが、この少年のSIDにはまだ番号がしっかりと表示されていた。


 これなら、まだ間に合う。


 俺は、バハディアから少年を受け取り、地面へと寝かせながら回復魔法で損傷部を即座に治した。


 次に、風魔法で口と鼻を通し肺へと空気を送り込み人工呼吸をしつつ、少年の上半身の血をローブで拭き取り、胴体の心臓を挟む位置に手を当て、弱い雷の魔法で電気ショックを与える。


 すると、エルフの少年は無事、息を吹き返したのだった。


「バハディア、世界樹の葉の汁を飲ませるので、彼を少し起こしてくれ」


「はい」


 バハディアが少年の上半身を起こし口を少し開ける様に持ち上げた所に、俺はアイテムボックスから取り出した世界樹の葉を持って行き、手で絞って汁を口の中へと流し込んだ。


 少年のステータスを確認すると、状態が健康へと変わり、減っていたHPも満タンになっていた。


 これならもう大丈夫だ。


「ふむ……脈も呼吸も大丈夫だな。

 バハディア、後は頼む」


「はっ!」


 俺は一息つき、バハディアへとエルフの少年の事を任せ、魔力枯渇で気絶しているサーリの所へ行き、彼女にも世界樹の葉の汁を飲ませた。

 それでだけでサーリは直ぐに目を覚ましたので、次にガウとヒューガに組み伏せられているザンジという名の豹の獣人の前へ行き事情を尋ねる事にした。


「大方の予想は付くが……ザンジ、お前がやったのか?」


 俺が彼にそう聞くと


「はい……俺です」


 と、彼は素直に答えた。


「……ガウ、ヒューガ、放してやりなさい」


 ザンジを組み伏せている二人にそう言うと


「よろしいのですか?」


「こいつ、さっきまで暴れてましたけど……」


 と、ガウとヒューガは困惑しながら聞き返してきた。


「もう落ち着いて、冷静なっているし大丈夫だろう。

 それに何かが有れば私が対処するさ」


 そう言うと、二人はザンジから手を離したが、直ぐにでも取り押さえれる様にと傍で構えた。

 解放されたザンジは、耳と尻尾をペタンとしつつ俺の前に正座した。


 その彼の手を見ると、手が真っ赤に血で染まっている。


 よく見ると、ガウとヒューガも彼の爪による怪我を負っているのが見えたので、俺は二人の治療も行ってから尋問を始めた。


「それで、何が原因だ?」


 そこがさっぱり分からなかった。


 ザンジは15歳の獣人で、獣人はその歳にもなると、体つきや能力も大人と遜色無い程にまで成長している。

 対する被害者のエルフの少年は、まだ8歳の子供だ。

 エルフなので、他の種族から比べると、殊更か細く、弱い身体をしている。


 そんな対照的な二人が、下手をすれば死ぬような怪我を負わせる程のトラブルになるのは、あまり見た事が無い。


 エルフの少年の怪我の様子も、怒りに任せた力強い一撃によるもので、ケンカの様な体のあちこちに引っかき傷や打撲の跡がある様な物でもなかった。

 なので、トラブルの原因と状況がちょっと分からなかった。


 俺から訊かれたザンジは


「……そこの木の、食べようとしていたキウイを……あい……彼に食べられ。

 怒り……で、やってしまいました」


 と、言った。


 キウイ……?


 なんでそんな事で此処までの事をしたんだ?と、俺が疑問に思っていると、ザンジの傍らに居る、ガウとヒューガが渋い顔をしている事に気が付いた。


「ガウ、そのキウイに何かあるのか?」


 と、彼に尋ねると


「それは、その……キウイは……

 一部の獣人の好物といいますか……食べると妙な感じがするのです」


 ガウは少し言い淀みながら、そう答えた。


 妙な感じ?

 するのです?


 そのガウとヒューガの両名の表情や言葉も鑑みるに、おそらく二人もキウイが好きなのだろう。


 一部の獣人という事は、全員ではないのか?


 ザンジとガウとヒューガの共通点を考え、周囲に集まっている獣人達も見てみると答えが判明した。


 彼等の共通点は、全員がネコ科の獣の因子を宿した獣人だという事だ。


「それは『酔う』という感覚か?」


 と、俺がガウに確認してみると


「そ、それです!」


 ガウは、その感覚の正体が分かり、驚いた様な表情で即答した。


 なるほど、要はキウイで彼等は酒盛りみたいな事をしてたわけか。


 キウイはマタタビと同じ科に属する植物で、同じく猫などを酔わせる成分が微妙ながら含まれている。

 近くにあった件のキウイの木を見ると、ほぼ実が食べつくされており、残っているのも数個しかなかった。


 時間も夕暮れ時で、夕食と酒盛りを兼ねて、ガウ達、ネコ科の獣人がそこのキウイの木の所で騒いでいたのだろう。

 その楽しく美味しそうに食べる様子を見たエルフの少年は興味を持ち、ザンジが食べようとしていた残り少ないキウイを食べてしまい、酔っぱらっていたザンジは自制が効かずに怒りに任せ少年を攻撃してしまったというところか……


 しかし、まだ発酵などという現象が起きもしない世界で、酔っぱらいなどの問題が出て来るとは思いもしなかったな。



 その後、ザンジの処罰は現場に居たガウとウアに任せ、俺は他のキウイの木を見て回っていた。


 そこへ、いつの間にか俺の傍へと来ていたエルフィーが


「主様、ローブをお洗いします」


 と、声を掛けて来た。


 そういえば、エルフの少年の血でローブが真っ赤になってしまっていたな。

 血って、落ちにくいんだったか?


「……すまない」


 ローブを脱ぎ彼女に手渡すと


「いいえ、お気になさらずに。

 その木が、どうかなさったのですか?」


 と、彼女は俺の眺めていたキウイの木の事を尋ねてきた。


 俺は先程の顛末を簡単に説明した。


「――という事が有ってな。

 その原因となった木々を見て回っていた」


「その木が原因なのですか?

 私にはザンジの行いや性格が原因に感じましたが?」


 説明を聞いたエルフィーは不思議そうに聞き返してきた。


「あの局所的な事に関してはそうなのだが。

 数本のキウイの木も見て回って、他の木もほぼ実が残っていない事が分かった。

 まだ近辺の木々しか見て回って無いが、他に残っていたとしても直ぐに無くなるだろうな。

 結果、取り合いになり、今日の様な事は、遅かれ早かれ起きていたという訳だ」


 それに、彼等がその木の葉や根の方が効果が強い事に気が付くのも、時間の問題な気がする。

 そうなると実がどうの以前に、木がダメになる。


 ちょっと、想定していた食糧難とは違うが、これも似た様な物か……


「……そう……なのですか。

 それで、如何なされるのですか?主様」


「一応……解決策は考えてある。

 それが上手く行けば、今回の様な事は偶発的にしか起きなくなるはずだ」


 俺は、そうエルフィーに答えた。


 いくつか懸念もあるが、それは俺自身に対しての不安だった。

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