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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第38話 一瞬の長考

 昼下がりの午後、俺が木の枝を使い地面に図面を描きつつ考え事をしていると


「バハ! 頑張って!

 もっと気合入れて!」


 と、リーティアの元気な声が聞こえてきた。


 声の方向を見てみると、近くの池の上でバハディアがリーティアを背中に乗せて、池の水面より少し上に浮いており、それを近くでレイディアとシルティアの二人が見守っている様子が見て取れる。


 バハディアが浮遊魔法の練習をしていている所なのだが、上に乗っているリーティアはその彼の頭をベシベシ叩きながら、バハディアの応援?をしているらしい。


 まぁ、応援だと思う……

 応援なんじゃないかな?

 応援なんだろう。


 リーティアは、海の帰りにした遊覧飛行をえらく気に入ったらしく、本人が闇魔法を使えない為か、バハディアの飛行魔法に多大な期待を寄せているらしい。

 だが、現状のバハディアの魔力量では少し飛行したら力尽きてしまうので、ああして特訓しているのだ。


 練習中の事故、というか墜落の対策も編み出されたので、今は安心して放置していられる。


 何故そんな方法が出来たのかというと、今朝方……――



 ――……俺がガウに彫像のモデルになってくれと頼みに来て、彼から快諾の返事をもらった時だった。


「……わかりました。

 私も、喜んでお手伝いさせていただきましょう」


「おぉ、そう――」


 と、俺が声を出した時、ドッチボールのコートから


「バハッ!?」


 と、リーティアの叫び声と、何かが風を切る様な音が聞こえた。


 俺はバハディアが獣人の誰かの剛速球でも食らってアウトにでもなったのかと思ってチラッと見たのだが、どうも様子がおかしい。


 コートの内野と外野に居る者達も、それを周囲から見ていた者達も、全員が動きを止めて固まっている。

 その全員の顔には困惑か驚きの表情が張り付いており、声を上げたリーティアの方を見ていた。

 それに、彼女が叫んで呼んだバハディアの姿も見たらない。


 何だ……? 何が起きた……?

 バハディアは何処だ?


 叫んだリーティア自身も周りをきょろきょろと探している様子だし、俺もさっぱり状況がつかめないので困惑していると


「主様! バハが消えた!」


 と、リーティアが俺に向かって叫だ。


「何!?」


 バハディアが消えただと!?


 瞬間的に頭に浮かんだのは、バハディアが闇魔法で何かをやらかしたのでは?という考えだった。


 もしや、ブラックホール的な物でも生み出して飲み込まれたとか、異次元にでもワープしたのか?


 やばい、助ける方法や対処法がわからん。


 いや、落ち着け、その時の状況を見ていたリーティアに話を詳しく聞けば、何かヒントでも……と、俺が意識を脳内加速して考えていると、隣に居たガウが、ふと上を見上げて


「ん……?

 主様ッ! 空からバハディアが!」


 と、そう叫んだ。


 何故あの有名台詞を?と思ったが、かなり真剣な剣幕だったので、彼の見ている方を俺も急ぎ見てみると、上空150m程の所に下に向かって落ちて来るバハディアの姿が見えた。


 落下している彼の様子は、手足に力が無く意識を失っている様だ。


 バハディアを見つけて少しだけ安心したが、危機的状況には変わりがない。

 このままではバハディアは地面と激突して死んでしまう。


 俺は急ぎ飛行魔法で飛び、バハディアの所へと向かった。


 地面まで100m程度の所で彼をキャッチ出来そうだと考えたのだが、俺はバハディアに向かって上昇しており、バハディアは下に向かって落下しているので、相対速度的にヤバいと感じた。

 これではキャッチではなくクラッシュになってしまう。


 そこで俺は地上80m付近で急停止し、落ちて来るバハディアと相対速度を合わせる為に、彼に近づきながら彼との落下速度を調整し、地上から60m程の所で、ようやくバハディアの尻尾を掴む事が出来た。


 彼を手元まで手繰り寄せて抱きかかえ、無事確保できてほっとしたのも束の間、今度は落下速度を緩めなければならなかったので、再度、闇魔法で速度を調整しようとした時、まずい事に気が付いた。


 二人分の落下速度をどうにかする分の魔力が足りなさそうなのだ。


 しまった……


 昨日の夜、皆を休眠させる建物を作る候補地を選ぶ為に近辺を飛び回ってたのだが、それを終わらせた後に魔力を回復させておくべきだった……

 なんで俺は朝食に世界樹の葉を食べておかなかったんだ。


 今すぐ世界樹に乗り移って……ってのもダメそうだな。

 地面に激突するまで数秒しかなさそうだし。

 そんな瞬時に入れ替われるか不安だ。


 だが、まぁ、まだ手詰まりと言う訳ではない。


 いざとなったらGPで何とかしよう。

 今は24くらい有るし、この程度の状況ならなんとでも出来そうだ。

 そう考えたら、心に少し余裕が出来た。


 意識を加速している状態なら、そこそこのんびり考えていられるし、焦った気持ちも意識すれば抑える事が出来る。


 それに地面への急降下なら慣れたもんだ……うん、ごめん、嘘ついた。

 まだ、あんまり慣れて無い。怖い物は怖いよね。


 この生身の状態で死ぬようなダメージを負った場合、俺がどうなるのかも不明だが……今はそれよりバハディアだ。

 一応、なんともならなかった時に備え俺の身体をクッションとするため、バハディアの頭部を守る様に抱え込み、残りの魔力を減速にまわしておく。


 地面まで、あと50mくらいか?


 よく、ヒーローとかがスパッと落ちていく人を救出してたりするけど、流石はヒーローだ。

 こんなに大変な事だとは思わなかったよ。


 しかし、何でこんな状況になったんだか……


 おそらく、バハディアが全魔力を使い闇魔法で飛び上がってしまったのだろう。

 それに加え、これはエルフィーの強化魔法か?

 それで身体能力が強化され、消えた様に見える程の速度でジャンプしたのか。


 ガウが逸早く気が付いてくれてなかったら、何も出来なかったところだった。

 よく気が付いたな、ガウのやつは。


 あの時、彼は俺と話していて、ドッチボールの様子やバハディアからは目を逸らしていたはずだ。

 俺も話しながら彼の方を見ていたので、バハディアが飛び上がる姿なんか見ていないし、周囲に居た他の者達もバハディアが上空に居るとは気が付いて無かった。

 ともかく、ガウの鋭い何かしらの感覚でバハディアを見つけてくれたわけだ。


 リーティアが「消えた」と言っていた事からも、バハディアはよっぽどな速度で飛んだのだろう。

 そんな上空に向けて撃った弾丸の様な状態じゃ、下手すれば遠くに向かって放物線を描き、俺たちの気が付かない所へと落下していたかもしれんな。


 いや、普通はそうなってるはずだ……

 なんでこんなに垂直に落ちて来てるんだ?


 そう思い、俺はバハディアが落ちて来た方を見ると、その視線の先には、空を覆う様に広く生い茂る世界樹の枝葉が見えた。


 なるほど、あの辺の枝にぶつかって跳ね返されてきたわけだな。

 ガウはバハディアの飛翔時の風切り音か、あそこへぶつかった音で気が付いたのかね?


 バハディアを跳ね返したらしい枝の辺りは、別段なんとも無い様だが……

 世界樹の枝とかって結構しなやかで頑丈なのかね?

 今度、調べてみよう。


 まぁ、運がいいのか悪いのか分からんが、そのおかげで俺達の近くへ真っ逆さまに落ちて来たから間に合ったのだが……

 いや、まだ助かったわけでは無いので、間に合ったとも言い切れないか。


 落下地点にも、世界樹の枝葉の様なクッションがあれば良いんだが、あいにくと固い地面とエルフィー達しかおらんな……ふむ?


 そうか、クッションを用意すればいいのか。


 地面まで、あと30m。


 間に合うか?


 間に合わなかったら、素直にGPを使おう。


 そう心に決めて、俺は下に居るエルフィーとシルティアに向かって


「エルフィー! 風魔法で俺達の落下速度を緩めてくれ!

 シルティア! 落下地点に大量の水を!」


 と大声で叫んだ。


 下に居る者達の中でクッションに使えそうな魔法は、エルフィーの風の魔法とシルティアの水魔法しか思い浮かばなかったので、彼女等に託すことにした。


 俺の声が聞こえたらしい二人は即座に行動に移り、先ず、エルフィーが俺達に向けて風を吹き付けて、落下速度をかなり弱めてくれた。

 だが、そこでエルフィーは魔力枯渇からか、気を失ってふらりと倒れてしまう。


 次にシルティアが、俺達の落下地点に巨大な水球を作り出し、バハディアを抱えた俺は、その水球に向かって真っ逆さまに突入した。


 エルフィーが落下速度を弱めてくれたとはいえ、それでもかなりの速度のまま水球にぶつかったので、それなりの衝撃や痛みがあると思っていたのだが、シルティアは水球内の水流も操っていたらしく、俺とバハディアは湾曲した坂を滑る様に水球の中を流されて、地面付近から横方向へと飛び出た。


 そして、俺はバハディアを抱えたまま、しばらく地面を転がった後、ようやく停止したのだった。


 シルティアは、その俺達の様子を見届けてから、珍しくしていた真剣な表情から何時ものふにゃっとした表情へと戻り、エルフィーと同様に魔力枯渇で気を失い倒れる。


 俺は、腕の中でぐったりとしているバハディアの呼吸と心拍を確認し


 「ふぅ……」


 と一息ついた後、体を起こそうとしたのだが、そこへリーティアが


 「バハー! 主様ーッ!」


 と、叫びながら駆けてきて、激突する様に俺達に抱き着いてきたのだった……――



 ――……という、事件が有り、バハディアというか浮遊や飛行魔法の練習法が編み出されたわけだ。


 練習は近くに水のある所で行い、事故というか墜落の際には、近くで練習を見守っている者が風魔法や水魔法を使い、落下の衝撃を和らげるというという方法である。


 今は、リーティアを乗せたバハディアの近くにシルティアが居り、俺の隣に居るエルフィーもそれに備えて練習の様子と見守っているので、俺は安心して放置しておける。と、思う。


 まぁ、まだ少し心配なので、こうして近くに居るわけだが。


「このまま池を3週!

 ほら急いで!」


 リーティアは、デパートの屋上などにある100円で乗れる乗り物の遊具よろしく、バハディアの背に乗り、彼の頭部から生えている角を掴みながら指示を出し、ご満悦の様子だ。


 もしかしたら、彼女が彼の背中に乗っている理由は、バハディアが魔法を失敗して飛び上がらない様にするための、重りの代わりなのかもしれないな。


 あの時は焦ったが、今になって考えてみると、なにも俺まで飛んでバハディアを助ける必要はなかったなぁ……


 それに、空から落ちてきて地面を転がった時より、最後にリーティアが抱き着いて来た時の方が衝撃と痛みは大きかったし。


 絵面的には格好良かったかかもしれんが、エルフィー達と一緒に下で魔法を使い受け止めた方が安全で良かったかもしれん。


 そっちの方が俺の性分には合ってる気がする。


「まぁ、咄嗟だったしな……」


 と、俺が胸中の言い訳を思わず呟くと、隣に居たエルフィーに聞かれてしまい


「とっさ?ですか?」


 そう聞き返されてしまった。


「いや、バハディアを助けた時の事をな。

 もっと賢い方法があったのではないかと思っただけだ」


「ふふ、あの時の主様は格好良かったですよ?」


 エルフィーは嬉しそうな表情でそんな事を言った。


「そうか?」


「ええ、それに今日は色々な主様の姿が見れました。

 朝食の時はミカンを一口で頬張られたり……

 何時もはご自身の事を私と称されるのに、落ちて来る時に凛々しい御顔で俺と仰られたり……

 他にも――」


 と、今度は楽しそうに、彼女は俺の様子を語りだした。


 エルフィーは、色々と俺の事を注意深く見ているらしい。


 あまり格好悪い所を見せない様に気を付けねば……

現GP:25

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