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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第22話 アイテムボックス

 この世界には月が2つある。


 一つは地球と同じく、夜の間、太陽の代わりのように現れる普通の月。

 もう一つは昼夜問わず、常に空に浮かぶ謎の月だ。


 その二つの月が放つ月光を浴び、俺は自身の体を作る際に余った雪花石膏の片割れの台座の上に座り、周囲の皆の寝顔を眺めていた。


 時折、虫の音の代わりに皆の寝息が聞こえる。

 寝ている時、人は皆、無垢な表情と姿になる物だとしみじみと思った。

 この皆が寝静まってる時間は、俺が一番寂しさを感じる時だった。


 この世界で意識が覚醒してから、今まで俺は睡眠をした事が無い。

 いや、GPが枯渇した時にあったか……だが、あれは睡眠と言うより気絶といった感じだな。


 最初の内はこの眠らない体も、便利な物だな程度に楽観的に考えていたが、普通に生きている皆を見て一緒に生活していると、こんなふとした時に自分の有り様の違和感を大きく感じる。


 自分は何者なのか?


 記憶もあやふやでどこの誰かも分からず、何をやってきたのかも判然としないが、神様の様な力と立場を手に入れ、事の成り行きで彼らと関わってきた……

 まぁ、自身の正体に関しての疑問は俺の中ではそれほど大きくはない。

 知った所でどうなるという物でもない気がするし、現状に大きな不満があるわけでも無いからな……

 

 それよりも気がかりなのは、俺は皆と正しく接する事が出来ているのだろうか?という事だった。


 皆に色々と教えたりはしてきたが、なるべく皆に伝えるのは物事の種の部分だけに留めている。

 それに文化や技術を発展させて、それらを享受し暮らしていくのは他ならない彼らであり、俺のもつ知識や常識などがこの世界や、そこで暮らす皆に合わない事も有るかもしれない。

 一部、過剰な知識を与えてしまった気もするが、あれは不可抗力だ……今後は気を付けよう。


 次に俺が皆にすべき事は何だろう?


 俺の目的の一つだった自由に動ける体は、皆のおかげでこうして手に入った。

 今度は、俺が皆に恩返しをせねばならない番だろう。


 とはいえ、皆も、今の所は何不自由なく暮らし、順調に子供を産み育んでいる……いや、今は良くても今後はそうも行かないかもしれない。


 このまま順調に人口が増え続ければ、楽園の様な場所とはいえ許容量にも限度という物があるだろう。


 いずれは溢れて世界樹の周辺、しいては島からも出て行かなければならない時が来る。


 となると――



 ――俺がロダンの考える人の像よろしく考え事を続けていると、何時の間にか、東の空から太陽の光が差してきた。


 寝ていた皆の顔にも朝日が当たり初め、寝起きの良い者達が目を覚まし始める。


 俺の近くで手製の枕に頭を乗せ眠っていた、エルフィーとレイディアも朝日の光を感じて起きた様だ。

 エルフィーは寝ぼけ眼を擦りつつ起き上がり、レイディアは大きく伸びをしてから起きて、二人とも一緒に俺に朝の挨拶をしてきた。


「あるふぃさま、おはようございまふ」


「主様。おはようございます」


 エルフィーはまだ寝ぼけ気味だが、レイディアの方は寝起きでもしっかりとしているな。


「おはよう、二人とも」


 さて、今日は何をするか――




 俺は起きて来た皆と一緒に朝食を食べ、その後は昨日と同じく工作を行っている広場へと向かった。


 皆が昨日に引き続き、草鞋の改良を行っているのを広場の片隅で眺めながら、俺は今後に向けて必要になりそうな事を試す事にした。


 先ずは、パソコンの方で使える機能を、この体でも再現できるのかの実験だ。


 この3年間で色々と分かったのだが、あの謎パソコンで出来る事は、地上へ降臨していても大抵の事は出来るのだ。

 だが、行える事の規模や調整の仕方が違う。

 パソコン操作では大規模で大雑把な結果や事象を起こし、地上への降臨状態では局所的で細かな事まで出来るといった感じか。


 今後の行動で使えそうな機能といえば、供物を収納してあるアイテムボックス……インベントリか?

 まぁ、呼び名はどちらでもいいが、あれが使えれば物の持ち運びや生活がぐっと楽になるだろう。

 だめだったらエルフィー達と一緒に鞄でも作れば良いか。


 とりあえず、あの保管アイテムの一覧が頭の中に浮かぶか――


 ――うぉッ! ダメだこれッ!閉じろ閉じろッ!


 ……びっくりした……


 あのアイテムボックスに入れてある数百個の果物や物の情報が、頭の中を一気に埋め尽くした……


 一つ一つのアイテムの詳細情報まで全てが一度に浮かび、驚きと混乱で頭を抱え蹲っていると、俺の様子が変だと感じたらしいエルフィーが駆け寄って来た。


「主様! どうなさったのですか!?」


「い、いや、なんでもない。……あぁそうだ。

 エルフィー、私は少し、天界でやる事が出来たのでちょっと行ってくる。

 直ぐに戻る」


 と、駆けつけた彼女に天界の方に戻る事を伝え、俺は近くの木の根元に座り、幹に体を預けてリラックスした体勢を取り天界に戻った。

 この体を抜け出て天界に戻るのは初めての事だったが、世界樹の時と同様にすんなりと戻る事が出来た。


 しかし、世界樹に宿っている時にアイテムボックスの中身を見た時は、あんな混乱するような事態にならなかったのだが、あの体だと頭が情報で埋まり圧迫される事になろうとは思わなかった。

 これは、体の性能による物だろうか?


 まぁ、それはさておき。

 たしか、アイテムボックスの中身はフォルダ分けなどの整理が出来たはずだ。


 俺はその事を思い出し、大急ぎで食べ物や鉱物などに分類したフォルダを作り、それに無造作に放置していたアイテムを放り込んでいく。

 これで、地上で一覧を思い浮かべても大変な事にならないと願いたい。


 しかし暇な時間は大量にあったのだし、前もって整理整頓をしておくんだった。

 頭の中に情報が浮かぶ感覚は少しは慣れたが、大量に浮かぶとこんな事になろうとは。


 俺が整頓作業を終え地上に戻ると、何故か皆が俺を囲んでおり、近くに居た何人かが目を押さえて蹲っていた。


「ん? なんだ?

 何か有ったのか?」


 何事かと思い尋ねてみると


「め……目がぁ……

 あ?主様?おかえりなさい……

 なんか……主様が座ったまま石になってたから、皆で見てたの……」


 と、リーティアが目を擦りながら答えた。


 あぁ、なるほど。

 近くで見ていたら俺が急に戻って来て、神体が発光したせいで目が眩んだか。

 俺の体が石像に戻ったのが皆には珍しかったのだろう。


「すまん。急に戻ってきたせいで驚かせてしまった様だな。

 皆、目は大丈夫か?」


「は、はい。もう大丈夫です」


 そうか? 


 なんかエルフィーとバハディアなんかは目を抑えながらゴロゴロ転がってた気がするが……一応、無詠唱の回復魔法を軽く振りかけておくか。


 しばらくすると、皆は目の眩みが直ったらしく作業に戻っていった。

 さてと、俺もアイテムボックスの機能テストを再開するか。


 少し緊張しながら再度一覧を思い浮かべると、今度はちゃんとすっきりとした情報が頭の中に映し出された。

 思い通りに事が運んで一安心し、次の確認作業へと移る。


 次はアイテムの出し入れだ。


 近くに落ちていた小石を拾い収納するように念じると、手の中の石はすっと消えて、頭の中に浮かぶリストに玄武岩と追加された。

 次に取り出そうとすると、手の平に消えた時と同様にすっと現れた。


 ふむ……

 手品に使えそうだが、魔法が有るこの世界では、さして意味はなさそうだ。

 それと供物を受け取る時の消え方とは違って、淡い光を発したりもしないな。


 まぁ、まだ収納できる量や大きさや種類など色々と不明な点は多いが、これで物の持ち運びの問題はある程度解消したな。


 俺はその後、アイテムボックスへの出し入れの練習がてら、昼まで工作広場の近くで色々と採取する事にした。


 収納しておけば色々と情報が見れるので便利だし、後々必要になる物も有るかもしれないと思っての事だ。

 決して面白いからではない。


 おっと、イチゴがあるじゃないか。

 1つ1つが小粒な果物は供物に持って来てくれることが少ないんだよな。

 これも確保しとこう。



 やがて太陽が真上まで登りお昼時となったので、皆と合流し昼休憩にした。


「作りは良くなったけど、やっぱり素材を変えた方がいいかもね。

 今のままだと紐の部分はいいけど、底の部分は直ぐにダメになっちゃうよ」


「それじゃぁ……紐と底の素材はぁ別の物で作ってみる?」


「そうですね、いくつか試作してウアさんに履いてもらって試してみましょう。

 紐の部分は柔らかい物で、底の部分は……――」


 俺がエルフィー達の会話を聞きながら、午後は何をしようかと考えつつ、さっそく取って来た物をアイテムボックスから取出して食べていると


「でも干し終わって……主様?それ何!? どうやってるの!?」


 と、隣に居たリーティアが突然大声で俺に訊いてきて、おかげで周囲の皆の注目を浴びる事となった。


「これは……天界の『倉庫』から取り寄せて出しているだけだ」


 そう説明してミカンを手の平に出してみると、皆は「おぉー」と感嘆の声を上げまじまじとそのミカンを見るのだった。

 手品みたいに使えるなとは思っていたが、皆の反応が街中で大道芸を見物する子供みたいで面白いな。

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