第21話 糸と昼食と足
ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁああああぁあぁああ
※心の中の叫びです
先程、竜人達を諭してその場を治めるために熱弁をふるったのだが、冷静になったとたんに自分が言い放った言葉を思い返して、こっ恥ずかしくなった。
しかも最後の方は、無意識に心を籠めて語ってしまったせいか、なんか神語で話していたらしく、周囲に居た者達全員が片膝をつき頭を垂れて俺を囲むなんて状況にまでなってしまった。
今現在俺は慈愛の表情を浮かべ、皆が作った物を順々に見せてもらいながら、心の中では羞恥心から悶え叫んでいる真っ最中である。
我ながら器用な事をしているなと思う。
暫くして俺の心の中も平静になり、皆の色々な力作を見終わると、次にエルフィー達の作業を見物する事にした。
先ずは、あの採って来た蔓を糸にする為に加工するらしい。
最初の方の工程は竜人のレイディアとバハディアが得意とするらしく、彼らは自前の爪を使い、蔓の茎の皮を綺麗に長く途切れない様に剥いでいく。
その剥いだ皮も、干して縒り合わせれば丈夫な紐になるらしく、捨てずに取っておくらしい。
次に皮を剥いだ中身の白い部分を、これまた爪を器用にピンセットの様に使い、長く、細く、切れない様に慎重に裂いていく。
その細く裂かれた繊維をリーティアとシルティアが受け取り、木の枝で作った物干し竿に並べながら掛けていく。
そして、そのまま何日か干すのだそうだ。
「頃合いになりましたら、私達3人が繊維を縒って糸にします。
その後、布状にする作業を開始します。
とりあえずは……今日出来るのは干す作業までですね。
数も少ないので昼前には終わるかと」
とのエルフィーの説明を聞きながら、俺は彼らの作業に感心して頷くのだった。
しかし、布や糸の知識を持っていたとはいえ、良く2年程度でここまで形に出来た物だ……もしかしてエルフィー達って、かなり優秀?
エルフィーの言う通り昼前には作業が終り、俺はそのまま作業広場で皆と一緒に昼食を食べる事となった。
俺自身は空腹を感じない体なので、近くに生っていた小粒の葡萄をちまちま食べながら皆の会話に耳を傾ける。
「それで午後はどうしようか?
皆で素材集めに行く?」
と、リーティアはオレンジを皮ごとモシャモシャ食べながら、皆に午後の予定をどうするかの提案を始めた。
「そうねぇ。もうちょっと、森の奥の方まで探しに行きましょうかぁ」
シルティアはリーティアの案に賛成なようだ。
ちなみにシルティアは梨をシャクシャクと上品に食べて……
いや、なんか芯まで食べてるな。
「だが、森の奥の方はまだ行った事が無い。
我々だと迷うかもしれないぞ」
レイディアは慎重派みたいだな。
その割にはメロンを皮と種も一緒に食べているが。
「それは大丈夫だろう。
少しでも空が見えるなら大樹様……世界樹も見えるはずだ。
迷ったなら世界樹の方へ向かって帰ればいい」
バハディアはそう言いながら、大きい粒の葡萄を房ごと口に放り込み食べていた。
なんか君達は食べ方が豪快だね。
「せっかく主様もいらっしゃるのですし、何か御意見を伺うのが良いのでは?」
と、蜜柑を食べていたエルフィーの提案で俺に話が振られた。
彼女はちゃんと皮を剥き一房ごとに食べてるみたいだな。
「そうだね! 主様、何かやりたい事とか欲しい物はないの?」
エルフィーの意見にリーティアが賛同し俺にそう尋ねて来たのだが、今の所はこれと言ってやりたい事や欲しい物はない……いや、一つあったな。
靴が欲しい。
さすがに現代の様な靴は無理でも、草履や草鞋の様な物なら皆の技術でも作れると思う。
この体になり、色々と動ける様になったのは良いのだが、歩き回る時は足元に注意していないと、不意に小枝や石などを踏んだ時に痛いのだ。
ここに来るまでの間は、痛いの痛いの飛んでけー程度の声に出さない無詠唱の魔法で痛みは直ぐに消していた。
たぶん出来るだろうと思っていた無詠唱魔法の実演と練習を、こんな事でやろうとは思ってなかった。
それに今後、周囲を探索して川や海、結界の外や火山付近も調べねばとも考えていたし、様々な所を歩く事を考えると足の保護は最優先な気がする。
探索には時間も掛かるだろうし、鼻緒だけしかない草履よりも、縄で足首まで縛り固定する草鞋の方がいいかな?
「そうだな……『靴』か『草鞋』の様な、足を保護する物が欲しいな」
彼らに靴と草鞋の部分だけを神語で伝える。
この体は持っているMPの量が少ないので節約のためだ。
「草履? なんで足を守るの?」
と、俺の要望に、今一ピンと来なかったらしいリーティアは聞き返してきた。
「先程、レイディアが森の奥地まで行くと迷うかもしれないと言ったが。
その迷った際に、バハディアが言っていた目印になる物が分かっているだけでは不十分な状況がある」
「足を保護という事は……足の怪我などで動けない状態になる事ですね?」
俺の話を聞いたエルフィーは、想定する事態を理解しているようだ。
「そうだ。
帰るにしても、何処か安全な場所に行くにしても、不自由なく動ける状態が一番に重要になる。
足元に何が有るか分かりにくい場所を行動する際は、足の裏が一番危険で、そこを怪我すると動きを取れなくなるか、制限される事になるからな」
「あ! わたしも石を踏んづけて、痛くて歩きにくかった事が有る!」
「そういえばぁ……私も素材を探しに行った時にありましたねぇ。
あの時はレイに世界樹の葉を取って来てもらって治しましたぁ」
と、リーティアとシルティアの二人は覚えが有るようだった。
「私は足の裏を怪我した事はありませんね」
「俺もない」
だが、レイディアとバハディアは経験した事が無かったらしい。
「それは二人が種族と性別的に、体が頑丈に出来ているからだな。
たぶん獣人の男達も経験が少ない事のはずだが、他の者達は多かれ少なかれ経験しているだろう。
私のこの体もウアの……人間の体を模しているのでな、そこまで丈夫には出来ていないのだ」
生まれた時から裸足で生活している皆より、俺が一番足の裏の防御が低いんじゃなかろうか?
などと考えながら話していると
「はッ!? もしや、今まで主様の御足にその様な事を強いていたのでは!?」
と、いきなりエルフィーが慌てた様子で聞いてきて
「い、いや、大丈夫だ。
ここに来るまでの間はそんな事は無かった」
俺は慌てて大丈夫だと言う羽目になった。
実際には有ったのだが、黙っておこう。
また皆の謝罪合戦みたいになっては困る。
「そうですか……良かった……。
それでは、午後は靴を……は、今は難しそうですね。
草鞋の方を作れるか試してみましょう」
と、エルフィーはほっと安心した表情になると、午後の予定を決めて締め括るのだった。
昼食後、草鞋を作る為に他の技術の高い者達も集める事になった。
俺は座って見ているだけだったのだが、足の構造を調べたり草履の取り付け方を試行錯誤するのに、昼寝をしていたらしいウアも急遽叩き起こされ、連行されてきた。
別に俺の足を使ってくれてもいいのになぁ。
もしかして、俺の服などを作る時にもこんな事になっていたのだろうか?
草鞋の構造自体は、太い紐を足の裏に合わせた分厚い布地状に編み、それを紐で足に固定するというシンプルな物だが、素材による履き心地や耐久性を考慮して色々と試作しているみたいだ。
日が傾き夕方近くになると、エルフィーが一足の草鞋に似た履物を俺の元に持ってきた。
「まだ改良の余地があると思いますが、今日はこちらをお履きください」
そう言い、彼女は俺の足にその草鞋を履かせ紐で固定してくれたのだった。
作り上げた皆に礼を言い、履き心地を確かめてみると、なかなか良い出来だ。
分厚く編まれた底地がしっかりと足に固定され、多少の物なら踏んでも痛くなさそうである。
固定する為に足首に紐を巻いてるのと、足の親指と人差し指の間に紐があるので、少し違和感はあるが、まぁ、これはその内に慣れるだろう。
その日は、試作で余った草鞋を皆で履き、世界樹の元まで帰る事になった。
草履はサンダルとかスリッパみたいな物で
草鞋は、専門用語は省きますが紐で足に固定するタイプの履物です。




