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『地上A』ボタン

今現在の日本の人口は約一億二千万人。

そして、日本人の年間平均死亡者数は約百万人である。

※9/21訂正

2011年夏、地上アナログ放送から地上デジタル放送に切り替わるので、僕はデジタル放送に切り替わる前に地デジ対応のテレビに買い換える事にした。


配達が終わって新しいテレビをリビングに設置し、電源を入れる。地デジの画面はアナログ放送と比べるともの凄く鮮明で、まるで生で芸能人達を見ているようで僕はとても感動した。

買い換えてから少し経ち、とうとう地上アナログ放送がその役目を終える時が来た。

7月24日午前11時59分、テレビの番組でアナログ放送終了のカウントダウンが始まり、そしてカウントダウンがゼロになると同時にリモコンにあるアナログ放送のボタンを押すと画面にはアナログ放送終了のテロップが映っていた。

地上デジタル放送となった今このリモコンにある地上アナログ放送のボタンは何の使い道が無くなってしまった。


それから一ヶ月。僕はいつものように片手にお酒の入ったグラスを持ち、テレビ番組を楽しんでいた。

少し酔っていたのか、僕は何気なくリモコンに付いている『地上A』(アナログ放送切り替えボタン)と書いてあるボタンが気になり押してみた。

「ザーーーーーーーーーー」

画面いっぱいに白い点がランダムにポツポツと現れている。所謂(いわゆる)スノーノイズであった。

(まぁ当然か……)

少しでも何かを期待してしまった自分に馬鹿らしく思い、地上デジタル放送に戻そうとした時画像が切り替わった。

(なんだこれ? 手術室?)

そこは病室にある手術室のような場所で、誰かが手術を受けている。画面に映っているのはアナログ放送とは思えないような相当リアルな映像であった……

(うっ気持ち悪くなってきた)

かなりグロテスクな映像であったが僕はテレビから目を放す事が出来なかった。いや、僕はその映像に魅入っていた。

20分ぐらい手術映像を見ていると、突然「ピーー」と心拍停止をしらせる機械音が鳴ったと同時に画面はまたスノーノイズに切り替わってしまった。

僕はあまりにリアルな映像から、このアナログ放送は人間の最期を映していると思った。そうこう考えているうちにまた画面が切り替わった――


それから僕はこの番組に魅入られ、時間があれば必ず見るようにしていた。病死、安楽死、事故死、殺人などさまざまな死をテレビを通して観察する事を楽しむようになっていった。


人間はこんなに簡単に死んでしまうか

人間はこんなにも大勢死んでいるのか

人間はこんなにもろく弱い存在なのか


僕の心はどんどんそのテレビに吸い込まれていく。


いつものように僕はお酒を片手に持ち、リモコンの『地上A』のボタンを押す。テレビ画面はスノーノイズの状態で、僕はドキドキしながら画面が切り替わるのを待っていた。

5分ほど経ち、画面が切り替わると……

(僕の部屋?)

画面に映っていたのは僕の部屋であった。その画面に映っていたのは僕だけではなく女性の姿も映っていた。その女性を僕は知っている。その女性はテレビで夢中になりすぎた僕が別れた彼女であった。

僕はテレビ越しに彼女の右手に光る物が見えた。

僕は画面から目を離し、後ろを振り向くと同時に彼女の持っている刃物で刺されてソファーに倒れた。

(このテレビは僕の死期を映していたんだぁ)

僕はそう思っていたのだが、テレビの画面はまだスノーノイズに切り替わらなかった。

僕の意識はだんだんと薄れていく……

それでも僕はテレビ画面を見続けていた……


そうして、テレビ画面の最後に映っていたのは自ら刃物を手首に当てている彼女の最期だった。


僕はスノーノイズになると同時に意識を失った

あなたのテレビのリモコンにアナログ放送用のボタンはありますか?

絶対に押してはいけないですよ


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