番外編その5:真夏のビーチと、ちっとも優雅じゃない生徒会バカンス
>>生徒会の夏休み<<
三章と四章の間あたりが季節的にいいですが、一章以降ならいつ読んでもいいです。
ただただ遊ばせたかった、それだけの話です。
肩の力を抜いて読んでください。
ホモも百合もない!!
公爵家の南国のプライベートビーチ。
別荘のテラスから、眩しい日差しが降り注ぐ白砂のビーチへ私は勢いよく飛び出す。
赤を基調にした元気で動きやすいスポーティなビキニ姿。麦わら帽子を押さえながら、両手を広げて深呼吸。
「見てよこれーっ! どこまでも青い海! どこまでも白い砂浜! 今日は生徒会の書類も始末書も、怪しいエナドリも全部ナシ! 遊び倒すわよーーっ!」
「……会長、到着早々叫ばないでください。いくら公爵家の貸切エリアとはいえ品格に欠けます」
日傘を差して優雅に歩いてくるリサ。
群青色の上品なワンピース水着に、ガードの固い透け感パレオだ。
セリアはお姉様感漂う純白のホルターネック水着に広いつばの女優帽。
そこへ、ド派手なネオンピンクの露出度高めなビキニを着たセナが、サングラスを頭に乗せて走ってくる。
セナがアイラの背後から思い切り抱きつき、その柔らかさとスタイルの良さに絡みつく。
「うっひょ〜〜! マジで最高のロケーションじゃん! ていうかアイラちゃんその水着ちょー似合ってんじゃん! スタイル良すぎ〜!」
「わっ、ちょっとセナ近いって! 引っ付かないで、日焼け止め塗ったばっかりなんだから!」
それを上品に微笑み眺めながらセリアは言う。
「ふふ、とても賑やかでよろしくてよ。わたくしも肌を焼かないよう、特製の『紫外線完全反射ポーション』を塗っておきましたわ」
リサは冷静にツッコミを入れる。
「セリア先輩、それは日焼け止めではなくもはや対光学防御結界です」
パラソルの下、ビーチチェアでサングラスをかけ、腕を組んで遠い目をしているサーフパンツ姿のタクト。
その横で、長袖のUVカットパーカーを着込み、サンシェードの完全な日陰から一歩も出ずに魔導端末をカタカタ叩いているノア。
「……ノア、お前海に来てまでカタカタやってんの?」
「紫外線は生体組織の天敵です。僕はここで帝都の魔力観測ログの監視と、ゲームのデイリーミッションをこなすので構わないでください」
「……ていうかさ、女子陣の水着の圧が強すぎて、男一人(※ノアはカウント外)の俺は目のやり場に困るんすけど。誰か俺の居心地の悪さに配慮してくれませんかね……」
アイラが砂浜から手招きし、クーラーボックスから巨大な縞模様のスイカを取り出す。
砂浜の真ん中にスイカをドンと置き、木刀(なぜか持参)を構える。
「ほら男子組も日陰でグダグダしてないで! 海といえばこれでしょ、スイカ割り! 誰が一番綺麗に割れるか勝負よ!」
それを聞いてセナはノリノリだ。
「いいね〜! アタシが目隠ししてアイラちゃんを誘導してあげる!」
リサは冷静に眼鏡を押し上げ言う。
「……嫌な予感しかしませんね。魔法使いに目隠しと鈍器を持たせると碌なことになりません」
「いい?絶対魔法は使わないこと!」
_________と、約束されたはずだった。
アイラが赤いタオルでしっかりと目隠しをし、持参した木刀を両手で構える。
砂浜でぐるぐるとその場で三回転させられ、少しふらつきながら構え直す。
「いい? みんな絶対に魔法はナシだからね! 純粋に『右!』とか『左!』って声だけで誘導してよ!」
「りょ〜かい! アタシに任せてよアイラちゃん! ちょー分かりやすく声かけてあげるし!」
「……嫌な予感しかしないっすけど、まあ見守りますか」
アイラがおそるおそる一歩を踏み出すが、周囲から飛んでくる指示が常人のそれではない。
ノアが日陰からメガホン代わりに簡易拡声術式を使って淡々と数値を読み上げ始める。
「アイラ会長、現在地から目標スイカまで直線距離で四・二メートル。海風による風速二・三メートル、右へ三度補正して二歩進んでください」
セリアが真剣な表情で薬品小瓶を取り出し
「お待ちになって。わたくしがスイカの皮に極小の『糖度倍増ポーション』を塗布しておきましたわ。中心核の果糖密度が最も高いポイントを狙うのがベストですわ」
と言う。
そしてリサが冷静に氷結術式の弾道を指先で測り始める。
「中途半端な打撃は果汁の飛散を招き、砂で汚れて衛生面で問題が生じます。外皮のみを瞬間凍結させて破砕、内部果肉を完全無傷で残す角度で振り下ろしなさい」
もおおおおみんなってばあ!!!!!
「だから普通に『右!』とか『前!』って言えぇぇぇぇ!! 物理演算とか糖度とかいいから!!」
専門的な指示にパニックを起こしたアイラが、木刀を振り回しながら適当に進み始める。
セナが面白がってめちゃくちゃな方向を指示する。
「あはは! アイラちゃんそのまま真っ直ぐ! あ、やっぱ右! 違う左! そのままフルスイングいっちゃえー!」
「ちょっ、セナ先輩!? そっちスイカじゃなくて俺のビーチチェアっすよ!?」
「ええい、もうヤケクソよ! ここね――ッ!!」
アイラが目隠しをしたまま大上段から木刀をフルスイング。
そこに無意識に『瞬間凝固』の魔力が木刀に乗ってしまい、大気を圧縮した強烈な衝撃波が発生する。
慌ててタクトが『偏向障壁』を割り込ませて自分への直撃を防ぐが、衝撃の余波で砂浜がドォン!と爆発する。
スイカは粉砕を通り越して砂まみれの果汁ミストとなって消し飛び、周囲全員が砂だらけになる。
砂を払ってタクトが叫ぶ。
「ぶはっ!? 障壁張ってなかったら俺が真っ二つでしたよ!?」
「……だから言ったのです。魔法使いに目隠しと鈍器を持たせるなと」
「ギャハハハ! アイラちゃん砂浜ごとスイカ消滅させてんじゃん! スイカ割りじゃなくてクレーター作りだよ!」
アイラは目隠しを取って呆然とする。
「……あ。私のスイカが……」
パラソルの下、ビーチチェアでくつろぐ一同。
セナが両手で抱えた特大の「限定完熟マンゴーパフェ」をスプーンですくい、至福の表情を浮かべる。
突然、波打ち際が大きく泡立ち、ズドドド……と重い地響きが発生する。
砂浜を突き破って、軽自動車サイズのトゲだらけのハサミがぬっと出現。セナの頭上からパフェだけを器用にひったくっていく。
「ん〜〜っ! この濃厚マンゴーとバニラアイス、マジで神〜! 頑張ってパシリやってた甲斐があったって――ふぇ?」
パフェが一瞬で強奪された。
「ぎゃああああああっ!? アタシの!! 一日限定三個のプレミアム完熟マンゴーパフェがぁぁぁ!!」
タクトがそれに気づいてこちらを振り向く。
「うわ出たっ!? 何すかあの巨大なトゲトゲヤドカリ!?」
砂煙の中から、高さ3メートルを超える巨大なヤドカリ型魔獣が姿を現し、セナのパフェを器ごとバリボリと咀嚼する。
セリアが優雅に日傘を差したまま、指先で簡易鑑定陣を展開。
「あらあら……『オオトゲオオヤドカリ』、危険度B級の海魔ですわね。殻に魔力を溜め込む性質がありますが……肉質は極上のタラバガニに匹敵する美味と記録されていますわ」
アイラが水着のまま拳をポキリと鳴らし、額に青筋を浮かべて立ち上がる。
「アイラちゃん!! あいつアタシのパフェ食った! 絶対許さない! ミンチにして!! 殻ごとカチ割って今夜のBBQの具にしてぇぇぇ!!」
「言われなくても! 私のバカンスとセナのパフェを邪魔するやつは……生徒会長として、水着だろうが容赦しないわよ!」
怒り狂ったヤドカリが巨大な両ハサミを振り上げ、砂煙を上げながらアイラへ向けて突進してくる。
タクトが水着のまま前に割り込み、両手を前方に突き出す。
巨大なハサミの振り下ろしを、タクトの偏向障壁がガキンッ!と甲高い火花とともに斜め上方へ弾き返す。
「よっと! 重いけど大味っすね! 『三重偏向障壁』!」
姿勢を崩したヤドカリの足元へ、リサが水着のパレオをひるがえして足を踏み込み、海水を巻き上げる。
「動きを止めました。――会長、砂を撒き散らさぬよう、急所を一撃で仕留めなさい」
巻き上がった海水が一瞬で絶対零度の氷柱へと変貌し、ヤドカリの脚部六本を砂浜ごとガチガチに完全凍結・拘束する。
「(日陰のPCから拡声)殻の右側第三関節、魔力伝導率が一番低い構造的弱点です」
アイラが砂浜を強く蹴り、水着姿のまま高く宙へと跳躍。
右拳に『瞬間凝固』の魔力を限界まで超圧縮し、真紅の光を纏わせる。
空中で身体を綺麗に捻り、ノアが指示した殻の弱点へ向けて急降下ダイブ。
「ビーチ特別指導――ッ!」の叫びとともに拳を叩き込むと、ドゴォォォンッ!という轟音とともにヤドカリの強固な外殻が粉々に破砕され、海魔は白目を剥いて完全に沈黙・ノックアウトされる。
「――せいっ!!」
「うっひょ〜〜! アイラちゃんナイスワンパン! マジ最強〜!」
「ふふ、見事な締め方ですわ。身も傷ついておらず、素晴らしい鮮度ですこと」
討伐完了の歓声が上がる中、セリアが「では、さっそく捌いて夕暮れのBBQの準備をいたしましょう」と微笑む。
テラス前の特設グリルで、巨大なハサミや殻付きの極上蟹肉(海魔)が豪快に炭火で焼かれている。
セリア特製の「香草ガーリックバター醤油」が塗られ、ジュワッと立ち上る香ばしい煙。
焼き上がった熱々の殻付き肉を、セナとアイラがハフハフと頬張る。
「んほぉ〜〜っ! なにこれマジでウマすぎ!! パフェ奪われた時は殺意湧いたけど、こんな極上タラバガニ味になるなら許しちゃう〜!」
「俺も殻割り手伝いましたけど、身がぎっしり詰まってて最高っすね。……ビール飲みたくなりますけど未成年なんで炭酸水で我慢っす」
と、タクトも冗談混じりに言う。
「ふふ、海魔特有の臭みは『脱臭・風味増幅ハーブ』で完全に消しておきましたわ。皆様、たくさん召し上がってね」
モグモグしながら端末操作するノア「……タンパク質と魔力濃度のバランスが完璧です。今日の消費カロリーが一瞬で補填されました」
茜色に染まる水平線と穏やかな波音。
アイラが冷たいトロピカルジュースのグラスを片手に、海風に髪をなびかせながら防波堤に腰掛ける。
リサが隣に歩み寄り、静かに夕日を見つめる。
「ふぅ……。スイカは消滅するし、巨大ヤドカリは襲ってくるし、ちっとも『優雅なバカンス』にはならなかったけどさ」
「ええ。公爵家の令嬢と名門校の生徒会が過ごす休日とは、到底思えない騒がしさでしたね」
「でもさ、すっごく楽しかった。みんなで笑って、美味いもの食べて……こういう普通の夏休み、ずっと憧れてたんだよね」
「……そうですね。会長が無茶をしてくれるおかげで、退屈だけは絶対にしませんから」
良い雰囲気で締めくくられそうになった瞬間、リサが水着のパレオのポケットからスッと「クリップボード」と「黒革の見積書バインダー」を取り出す。
ガチャリとボールペンをノックする金属音が静寂を破る。
「では、本日の総括に入ります」
アイラの笑顔が引きつり、背筋が凍りつく。
「……えっ? なんでリサ、水着なのにバインダー持ってるの……?」
「公爵家所有地とはいえ、魔力暴走による『砂浜損壊修繕申請書』、および『未承認海魔討伐に伴う環境査定報告書』、さらにスイカの『特別経費精算伝票』です」
「全十二枚。本日中に会長印の捺印と直筆サインをお願いします。夏休みの宿題と同じで、溜めると後が大変ですよ?」
「海に来てまで書類仕事ぉぉぉぉ!? しかもスイカの自腹精算まで入ってんじゃん!!」
アイラが悲鳴を上げて砂浜をダッシュで逃走。
「サインしない! 今日は絶対にサインしないんだからぁぁぁ!!」
リサが氷のスケート靴を足元に瞬間生成し、優雅かつ圧倒的な滑走スピードでアイラを追い詰める。
「逃げても無駄です! 氷結拘束術式で足首を固めてでも書かせます!」
セナが大爆笑しながらスマホで動画を撮影し、タクトとノアが呆れ顔でパフェと蟹をつつく。
「あははは! アイラちゃん逃げて〜! リサ副会長マジで容赦ねぇ〜!」
「……結局、いつもの生徒会室とやってること全く同じっすね」
「ふふ、青春ですわねぇ」
夕暮れのビーチにアイラの絶叫とみんなの笑い声が響き渡っていた。
これ書いてる時第三十七話のプロットを練ったんですけど
「極寒の話してるけど夏休みが書きてえ……!!!!!!!!」
ってなって書きました。
水着って…いいよね…
百合もホモもないって書いたけど、これ書いたらなんか浮かんできたのでそのうち書きます。




