4-26 「皇帝ヘーゲル」
遅くなり申し訳ありません!
次の章のプロットを大幅に見直しており、その影響で今回と次回の話も練り直していました。
前回のあらすじ)
アルバートの魔法を完封し、留めの一撃を放つ黒騎士。
果たしてその一撃とは...!?
ちょっと長目です。
ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城近郊 平原
私は空中に展開した不可視の盾の上からアルバートに向かって新しい武具錬成を起動した。
形状”トゲトゲのスタッズが付いた”、
材質”ブラックハルコン”の
重量”普通”
特性”声を出せない”を持った
武具”首輪”を
出現方法”アルバートの首に装着した状態で”
属性”パーマネント”
アルバートの首にはパンキッシュなバンドやブルドッグが付けてそうなトゲトゲとしたスタッズが付いた首輪が嵌っていた。
「...!」
アルバートは自分の首に嵌った首輪を掴み、声にならない声を発する。
「...!......!?」
今度はこっちを睨み付け、”何をしたんだ!?”とばかりに慌てる。
「声を封じた。お前はもう魔法はおろか、喋る事も出来ない。」
私がアルバートに首輪の効果を言い渡すとアルバートは両手を地面について悔しそうに倒れる。
────勝敗は決した。
マルクスを呼び、アルバートを引き摺りながらハイデガーとヘンペルの元へとやって来る。
「アルバートは我が軍門に降った。皇帝と話がしたい。席を設けよ。」
「そ、そんなアルバート殿が負ける筈が...!?アルバート殿!黒騎士などアルバート殿の魔法で...!」
ハイデガーが狼狽しつつアルバートに近寄り声を掛ける。
「無駄だ。その首輪がある限り、アルバートはもう魔法を唱えられないただの変態だ。」
「......!」
アルバートが声にならない声をあげて抗議する。
「因みにその首輪は”ブラックハルコン”製だ。その硬さは帝国が良く知っているだろう...。」
絶望に染まった顔をしたアルバートの表情を確認し、ハイデガーとヘンペルが押し黙る。
「ハイデガー...我々の負けだ...。黒騎士殿をマスグレイブ城にて迎える準備をしろ。」
ハイデガーは全てを悟った様な表情でハイデガーに命令する。
それに対しハイデガーは奥歯を噛み締め、納得がいかないといった表情で私の方を睨むが、直ぐに馬車に向き直り、手綱を握る御者に指示を出す。
ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城 大会議室
ヘンペル達と平原で別れた後、私達はマルクスの転移で一度拠点に戻り、”黒の大剣”の皆にアルバートとの決闘の顛末を話し、クリス姉ちゃんとヤスと共にマスグレイブ城へと来ていた。
前回とは違い話が通されている様で、数十人の兵が正門の前で立ち並び、敬礼と共に迎え入れられ奥へと通された。
兵士に連れられ通されたのは金糸で装飾された真紅のカーペットで彩られた豪華絢爛な大部屋だった。
「おぉ!これはこれは黒騎士殿!」
大部屋に入りまず飛び込んで来た声はヘンペルの声で、その様子は今にも揉み手をしそうな媚びの色が色濃く出ていた。
そして中央の奥の一際豪華な椅子にはヘーゲル皇帝が難しそうな顔をして座っていた。
ヘンペルに誘導されヘーゲルの向かいの椅子に座るとヘーゲルが重い口を開く。
「ヘンペルから話は聞いている。黒騎士殿と2人だけで話したい。
すまないが別室に飲み物と簡単な食事を用意させているから連れの2人はそこで待機していて貰えないか?」
私がクリス姉ちゃんの方を見るとクリス姉ちゃんは軽く頷き肯定の意志を示す。
それを確認し私はクリス姉ちゃんの耳に近付き囁く。
(分かって居るとは思うが、くれぐれも出された物には口を付けるな。)
それに対してクリス姉ちゃんが深く頷く。
アルバートと古代兵器。そして更には大量のオリハルコン。これらのカードは今全て私の手の中にある。
現在の帝国は追い詰められた鼠だ。窮鼠は破れかぶれで何をしでかすか分からない。用心をしておくに越したことはないだろう。
「分かった。」
私がヘーゲルの申し出に合意すると、ヘーゲルはヘンペルに人払いをする様に指示を出し、クリス姉ちゃん達は丁重にヘンペルによって別室へと案内される。
そして帝国側と”黒の大剣”全てが大部屋を出て、この部屋に私とヘーゲルが残されて10秒ほど経った時、ヘーゲルが口を開く。
「少し昔話に付き合ってくれんか?」
私は軽く頷き、ヘーゲルの話を促す。
「...私の少年時代。それは毎日が政権争いによる恐怖と覚悟の連続だった。
私を皇帝にする為の陣営と反対陣営による数々の騙し合いに疲れ果てた私はある時”皇位なんて要らない”と周りにそう宣言した。
しかし、それは反対陣営を油断させて水面下で動く為の布石だと思われ、反対陣営の活動はより一層過激になる結果となった。
そしてより激化した政権抗争は、私の暗殺へとエスカレートしていった。
しかし、それだけならまだ良かったのだ...。その対象は私の大切な人...友人や恩師...そして恋人にまで広がっていった。
多くの大切な人を失い、私は何度も自らの命を絶とうと考えた...。この諸悪の根源である自分の命を...。
だが、私が死んでも代わりは幾らでもいる。それに私が死ねば、喜ぶのは私の大切な人々を葬り去って来た奴らだと...。それだけは許せなかった...!」
ヘーゲルは喉の奥から絞り出す様に声を出す。
「...だから私はこの手を鮮血に染めた。眼前に立ちはだかる人間を何人も何人もこの口で殺し...そして屍を積み上げた...。
山の様な屍を積み上げた頃、私は皇帝となり、”静寂”が訪れた。
これで平和が訪れたと...その時の私は勘違いをしていた。
終わっていなかったのだ...。いや、始まったと言った方が適切か?
皇帝が変わった事により、周辺諸国がその隙をつく様に外交的接触を行って来たのだ。
そしてこの時の私は既に知っていた。引くと言う事がどれだけの身内を苦しめる愚かな行為であると言う事をだ。
私を乗せた血塗られた騎馬は立ち止まらず、またも全力で死地を駆け抜けたのだ...。
だが、その騎馬も所詮は生き物だ。どんな優れた馬でも”疲労”し、いつかは立ち止まる。
私ももう”疲れた”のだ...。
黒騎士殿が仮初では無い”静寂”を齎してくれると言うのであれば...私は喜んで騎馬を降りよう...。」
するとヘーゲルが立ち上がり頭を垂れる。
なるほど...これがヘーゲルが人払いをした訳と言う訳か...。
何も自分のプライドだけと言う事では無いだろう。皇帝と言う地位を考えればそれを見た部下は、私と皇帝の上下関係が分からなくなり混乱してしまうだろう。私の立ち位置は別に皇帝になろうと言う訳では無いのだから、無駄な混乱は無い方が良い。
しかし驚いた。ヘーゲルが皇帝が...こうも簡単に頭を垂れるとは...。
いや、簡単にでは無いのだろう...。どこまで本心かは分からないが、ヘーゲルも望んで戦争をやっている訳では無いと言う事か...神輿に担がれた者が居ると言う事は神輿を担いだ奴が居るとは言う事なのだろう。
するとそこで扉がノックされる。
ヘーゲルが頭を戻し、許可を出すと扉が開きヘンペルが入って来る。
「陛下。お待たせ致しました。」
お待たせ...?
さっきはヘーゲルの指示で人払いが行われた筈だ。
しかし、これではまるでヘンペルの都合で人払いをしたみたいじゃ...。
私は激しい違和感と共に嫌な焦燥感が湧き上がって来たのだった。
今回でこの章は終わる筈でしたが、上記で記載したプロットの見直しによりもう1話だけ続きます。
次回来週の日曜更新予定です。




