4-27 「終戦」
遅くなりました。
かなり長目です。
ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城 大会議室
「そうか...準備は整ったか...。」
ヘンペルの発言を受け、ヘーゲルがゆっくりと何度も頷く。
「では連れて来い。」
さっき迄の真摯な態度の老人はどこかへ消え失せ、自信に満ち溢れた野心溢れた眼光の皇帝がそこに居た。
ヘンペルが部屋の外に合図を送ると、アルバートと部下の兵士達が椅子を担ぎながらぞろぞろと大部屋に入って来る。
その椅子には紐で括り付けられたクリス姉ちゃんとヤスが意識を失い座っており、黒い全身衣を身を纏った暗殺者の様な男がシミターを首元に押し当てていた。
「おっと...!動くなよ。少しでも妙な動きをすればこの姉ちゃんの可愛い顔に傷がつくぜ...!」
シミターをクリス姉ちゃんの首に押し当てている黒服が吐き気のするセリフを言い放つ。
「くっくっくっ...。そう言う訳で黒騎士よ...。”交渉”は決裂だ。これから行われるのは一方的で不自由な”選択”だ。
クリスティーナは元特A級の冒険者。人質に取られる様な事は無いと踏んだのだろうが...詰めが甘かったな。
確かにクリスティーナは強い。魔法に対しての耐性も持っているだろう。
だが、所詮はただの人間だ。薬に対しての耐性は持ってはおらん。」
ヘーゲルが口髭を撫で付ける様に弄りながら愉快そうに話す。
「盛ったのか...?」
だがそれはおかしい...。部屋から出る際もクリス姉ちゃんにはそれは忠告した筈だ。
「くっくっ...。流石にそんな手が上手くいくとは思っておらんよ。
帝国は魔法薬学の研究も行っていてな。魔力と反応し空気中に霧散する無色透明の睡眠薬の開発に成功したのだ。
そしてクリスティーナ達が部屋に入った後、ゆっくりとその睡眠薬を部屋中に散布したのだ。
しかし、流石はクリスティーナと言ったところか?途中で気付いた様で扉を破壊しようと暴れておったわ。
だがそこも抜かりは無い。その部屋の壁と扉は分厚いブラックハルコンで覆っていてな...脱出する事はまず不可能。」
なるほどね...トリックは分かった。確かにそれではクリス姉ちゃんは打つ手が無い。
「取引をしようではないか?アルバートの首輪を外せ。さもないと二人を殺す。
言っておくが魔法を唱えようとした瞬間どちらかは殺す。なに...二人居るのだ。一人殺してしまってももう一人居るからな...。
そうだな...この女の方から殺すか...。」
ヘーゲルは口の端を釣り上げて勝利を確信した様にこちらに笑みを浮かべながら言う。
ヘンペルがこの部屋に入って来た時、私は嫌な焦燥感を感じていた。
それはクリス姉ちゃんとヤスの身に何かあったんじゃないか...では無い。
私は二人を選出している時点であらゆる局面で対応し切れると確信していた。
クリス姉ちゃんは多少の不意を打たれた位ではハンデにもならず相手を打ち負かす”武”を持っている。
そしてヤスは戦力こそ当てにならないが、その透明化能力でクリス姉ちゃんですらどうしようもならない様な状況でも回避する事が出来るだろうと。
だから私はそこに関しては心配していない。
では、どんな焦燥感か...?
────それは今から起こる惨劇とそれが与える影響への畏怖だ。
こいつらはまだ何も分かっていない。
自分達が置かれている状況が...!
「黒騎士よ...。もう一度言う。さっさとアルバートの首輪を外せ。」
またもヘーゲルは傲慢な態度で私に命令する。
「お前達は3つの勘違いをしている。」
私はできる限り低い声を出して感情の起伏を抑えながらゆっくりと言う。
「この後に及んで何を...!」
ヘンペルがチャチャを入れるが無視し、話を続ける。
「1つ目は我は”交渉”をしに来た訳では無い。我の手には古代兵器と大量のオリハルコン。そしてアルバートと言う帝国の切り札も封じた。
帝国に出来る事は”直ちに戦争を止める”ただその採択だけだ。
2つ目はお前達はクリスしか見ていないが、ヤスはある意味で我をも上回る力を持っていると言う事。
3つ目は我が使うこの剣は...魔法では無いと言う事だ。
クリス、ヤス動くなっ...!!」
私は起きている二人に言い放つと同時に武具錬成を起動する。
形状”大きく漆黒の刀身に血管の様な赤い模様の入った禍々しいしい”、
材質”ブラックハルコン”の
重量”普通”
特性”高い人体切断能力”を持った
武具”フランベルジュ”を
出現方法”対象の真下の地面から垂直に時速200kmで出現”
属性”インスタント”
絨毯から生える様に高速に突き出た”黒の大剣”が黒服達に突き刺さり、体が左右に真っ二つに割れる。
黒服達の身体が絨毯に転がると遅れて血が吹き出し、真紅の絨毯を鮮血で更に赤く染め上げる。
黒服達が立っていた場所は2等分された死体と墓標の様に”血に塗れた黒い大剣”が聳え立つ。
広い大部屋は余りに一瞬の事で静寂が支配し、黒服達の血管から吹き出る血飛沫の音だけが響いていた。
「なっ...!何だこれは...!?」
静寂を打ち破ったのはヘーゲルだった。
先程の迄の勝利を確信した余裕の笑みはどこにも無く、脂汗を垂らしながら得体の知れない者を見た様な恐怖に支配された表情を浮かべていた。
「ま、まだ奴らは眠っている!クリスだけでも殺せっ!」
そこでヘンペルが声をあげると2人の兵士がクリス姉ちゃんの方に槍を構えて突撃を始める。
その瞬間クリス姉ちゃんが目を開き、兵士2人を無手で槍を掴み、テコを利用し兵士同士をぶつけていなす。
それを確認し、私は無言で黒の大剣を放つ。
すると3本の黒の大剣がヘンペルと兵士2人に突き刺さり、それぞれを2等分する。
アルバートとの決闘の最中に気付いたのだが、私の武具錬成は更なる進化を遂げており、同時に3本の剣が出せる様になっていた。
更に追加でとある能力を得ていたのだが、それは今は使うまでも無いだろう。
「そろそろ理解出来たか?お前達は既に我の射程に入っている。
確か...『動くなよ。少しでも妙な動きをすればこの爺さんの憎たらしい顔に傷がつくぜ...!』だったか?」
むせ返る様な鉄の匂いが漂う部屋で、私は地底から響く様な禍々しい声でヘーゲルに言い放つ。
余りの出来事に動揺したのかヘーゲルは金魚の様に口をパクパクしながら、ヘンペルの死体と私を交互に見詰める。
この世界には”魔法”と言う”答え”が用意されている。それは私達の世界で”科学”と言う”答え”が用意されている様に。
しかし、”科学で説明出来ないモノ”は”お化け”などに形容される様に人々に恐怖を与える。
この世界では”魔法で説明出来ないモノ”がそれだ...。
この世界の”魔法”は1人もしくは範囲しか対象を取れず、更には詠唱が必要で、省略出来たとしても魔法名を唱えなければ発動しない為、どうしても発動までのタイムラグが生じる。
それに対して私の武具錬成は詠唱は必要としない為タイムラグは無く、更には3人を対象に発動したのだ。
人間がが一撃で真っ二つにになると言う威力もさる事ながら、もはやそれ自体が恐怖の対象となるだろう。
「まだ理解出来ないと言うならば、次の皇帝が理解出来る事を祈ってお前には消えて貰うか...。」
私は抑揚を付けず、出来るだけ冷酷にヘーゲルに言い、腕をヘーゲルに向ける。
「ま、待ってくれ...!いや、待って下さいっ!で、出来ますっ!理解出来るますっ!こ、殺さないでっ...!」
ヘーゲルが椅子から転げ落ちながら絨毯に手を付いて平伏する。
焦り過ぎて言葉使いが所々変で、もはや皇帝の威厳などそこには微塵も見られなかった。
「だったらまずは態度で示せ。」
「あっ...!ぜ、全軍撤退だ!周辺諸国に駐屯している帝国軍を全て引き上げろっ!これ以上の戦争行為は一切許さないっ!これは皇帝命令だ!」
ヘーゲルは部屋の隅で震えながら棒立ちしている兵士に向かって大声で怒鳴りつける様に命令する。
これでやっと...戦争が終わった...。
〈補足〉
次の話に記載予定ですが、キャラクター紹介等で2週間後になり、それまでに質問が出そうなのでクリスとヤスの別室での行動の補足です。
二人は閉じ込められ、クリスが何やら薬が散布されている事を検知し扉を破壊しようとしますが無理で、ヤスがその透明化能力で2人で部屋を抜け出し外で待機した後、再び部屋に戻り寝たフリをしてわざと捕まりました。
今回で『マルブランシュ王国編』も終了です。
次回はキャラクター紹介を挟んだ後、『鬼姫編』がスタートしますのでご期待下さい。
ここまでの話で感想、評価等お時間ありましたら、是非よろしくお願いします。




