特別編 「異空のサムライ」の航空機 レムリア編 その2
ゼーベ‐ギルス
ゼーベ‐ラナの実用化とともに、専用エンジンがラナ製造部門に重点的に回された結果、ゼーベ‐ギガの製造/補修ラインには発動機未装着の「首なしギガ」が大量に出現することとなった。
(……というより、ラナの配備と既に就役していたギガのエンジン交換時期が期せずして重なり、ラナへのエンジン割り当てが優先された)
同時に耐用年数に達したギガの退役と戦闘による喪失も続き、ギガの持ち味を知る一部熟練空戦士の間でギガの価値が高騰したため、これらの需給ギャップを解決するべく、新型液冷発動機を既存のギガの胴体に装着した改造型が本機である。
改造母体となったギガとの大きな相違として、ジャグル‐ミトラ専用に開発されたのと同系統の液冷発動機を本機は搭載しているが、既存のギガへの換装と機体との調整を容易ならしめるべくエンジンは性能、構造面で一部妥協が図られており、エンジン単体の性能はむしろミトラ搭載型よりも性能面で制限されたものとなっている。ただし加速力、上昇力は既存のギガを凌駕し、同時に機体構造の強化により降下時の制限速度もまた緩和された。
前述の通り、小規模な改造でエンジン換装と機体の適応化改修が可能なことが本機の「売り」となっている。いわゆる「特装機」カテゴリーでありながらも本機はある程度の生産性を考慮しており、かつ整備性も良好であった。事実、レムリア軍空戦士軍団の上層部では、ギガの「ギルス化」により、ギガを操る熟練空戦士の損耗を防ごうという意図、維持整備に手間を要する特装機運用の合理化を図ろうとする思惑もあったようである。その反面、加速力の向上に対して従来からの持ち味である旋回性能が低下したため、それを嫌って「ギルス化」を択ばない「ギガ乗り」もまた多かった。燃料消費の多い高出力エンジンへの換装により、むしろ稼働時間が低下したことも、空戦士のみならず運用部隊からも本機に対する否定的な評価が存在する原因のひとつになっている。
ゼーベ・マトラ 軽量戦闘機
巡航艦、駆逐艦といった中小型艦艇に搭載するために開発された小型戦闘機である。航空母艦、戦艦に攻撃隊の作戦機を集中搭載し、それ以下の級の艦に搭載する「艦隊護衛専用機」として計画されたのが本機であった。
開発の際、第一線機用の発動機を使用しないこと、構造が大量生産、小型艦への搭載に適していること、速度、上昇力においてゼーベ‐ラナと同等の水準を確保すること、という条件を付けられている。正統な作戦機というより、「戦時急造型戦闘機」という意味合いが強い。
軽量小型の機体に、高速を発揮させるという要求、さらには大量生産に適した簡易な機体構造といった要求を満たさんとした結果、本機は双胴双発という特異な形状を採用することとなった。生産が容易な低出力エンジンで、第一線機並の速度性能を発揮させるため、中等練習機用の低出力発動機 (650~750hp)を機体中心軸上に前後に配置することで、第一線機と遜色の無い高速と上昇力の発揮を企図している。
主翼は折畳み式、尾部は分解取外し式で、折畳み機構の採用により母艦の収容能力の向上に繋がっている。胴体部には徹底的な軽量化が施され、整備性の向上を図って胴体部に燃料タンクを集中装備した結果、操縦席が狭小となり、照準装置を機外に配置しなければならなくなったほどである。軽量化の徹底を図った結果、降着装置の省略すら、計画段階では考慮されていた(結局撤回)
本機の配備により、その搭載母機として計画された巡航艦、駆逐艦においては搭載機定数が従来のゼーベ‐ラナ、ギガの1.5倍~2倍にまで拡大し、レムリア軍当局の計画値を満たすこととなった。搭載定数の拡大はそれだけ重厚な艦隊防空システムの確立に繋がっている。速度性能は平凡であったが上昇力は要求値を越え、旋回性能は優秀であった。小型の機体は、敵手たるラジアネス軍からすれば「小型過ぎて距離感が狂い、照準が付け辛い」という副次的な効果をも生んだ。一方で本機の構造上、緊急脱出時に操縦者が後部プロペラに巻き込まれて死傷する懸念が試験運用の段階で生じ、その対策として風防緊急切り離しレバーに連動した後部プロペラ切り離し機構が実装されている。後に、エンジン出力向上策として胴体及び翼内に水メタノール噴射装置を内蔵した性能強化型も作られた。
※高出力エンジンが第一線機用に重点的に回されたため、練習機用のエンジンを使うこととなった。
※尾部も前方折畳み式にする筈が、工数増大を嫌ってボツになったという裏話もあり。
※旧型発動機(350~450hp)を搭載した練習戦闘機型も少数生産されている。前後の発動機配置により、重心確保が容易であったという。
ニーレ‐ガダル
ダルファロス級以上の大型艦で運用するべく開発されたレムリア軍艦上攻撃機。
計画時、重量の嵩む空雷の他、様々な兵装を搭載するべく双発の機体が要求され、同時に収容能力の維持を図り機体の小型化も要求された。その結果として、本機は極めて高性能の機体に仕上がっている。
本来の対艦攻撃任務の他、長大な航続距離と充実した通信装備を生かし本機は偵察、編隊誘導、母艦と地上基地間の人員輸送など、様々な任務に使用された。通信装備をさらに強化した指揮官仕様機、偵察専用型、現地改修された人員/軽貨物輸送機型も存在する。
特徴としては、空力性能を重視した流線型、小型の機体に、強力な発動機を二機搭載、さらには機体下部に半埋め込み式に空雷を搭載する構造が採用された点が挙げられる。
操縦性も良好で、操縦士の評判も上々であった一方で、発動機出力の不足が戦争中期から指摘され始める。これを受け、発動機を換装し、主翼等に改設計を加えた「ゲー」型が開発され、中期以降の主力機となった。
本機は防御兵装として機首と座席最後部に単装機銃架を有する。それでも防御力が過少として、対舟艇攻撃力の向上も兼ねて機体に固定機銃を装備した現地改修例が散見される。
ニーレ‐ダロム
ニーレ‐ガダルの計画時、当機の雷撃を支援するための「対艦掃討機」として計画され、開発された機体である。ガダルの攻撃対象たる敵主力艦を護衛する補助艦艇(巡航艦、駆逐艦など)を排除する専用機、友軍艦隊を襲撃する空雷艇を掃討する対舟艇迎撃機として計画された。
機体形状に関し、ごく「常識的な」ガダルに対し、本機は前翼形式という特異な方式を採用している。主武装として47mm口径相当の機関砲を本機は胴体下に固定装備し、給弾装置として150発入りのドラム式弾倉を胴体内に搭載している。主武装たる47mm機関砲は、駆逐艦クラスの装甲板を容易に貫通し、巡航艦クラスであっても命中箇所によっては貫通し得たため、その攻撃力はラジアネス艦隊にとって大きな脅威となった。事実、本機の攻撃により反応炉や推進機を直撃された駆逐艦、哨戒艦が、航行不能になったところをロケット弾及び空雷攻撃により止めを刺された戦例が続出している。爆装した本機二機で一組を成し、一機が機関砲で敵艦の行き足を止め、もう一機が焼夷ロケット弾で艦構造物を炎上させ大破、撃沈に追い込むという戦術が多用された。
ガダルに比してあまりに機体形状が特異であり、操縦性も異質であったことから、むしろ操縦士には敬遠される傾向が強かった。重い機体重量も相まって、操縦にはある程度の慣れが必要であったという。前輪部分の脚が長いことに起因する着艦時の折損事故が続出したことも、本機に対する低評価の一因になった。
獰猛さを感じさせる外見も相まって、ラジアネス軍将兵は本機を「スズメバチ」と呼び恐れた。本機は機関砲の他、機首に固定機銃二丁、尾部に遠隔操作式の機銃一丁を装備する。電気操作式の後者は頻繁に故障したため、機によっては操縦士の判断で取り外した例もある。
ゼーベ‐ガルネ 司令部戦闘機
ゼーベ‐ラナとゼーベ‐ギガといったレムリア戦闘機軍団の主力を為す二機種の上位に位置する、いわば最上級機種。
速力、加速、上昇力、そして武装及び艤装、それらいずれの面でも他二機種を圧倒的に引き離しており、複数の飛行中隊を統括する集団指揮官、それもレムリア社会の最上位を形成する頂上階級及びそれに準ずる階層出身者にしか搭乗が許されない機体である。本機の破格の高性能はこれを操縦する高級指揮官の生存性を極限まで高めるためのものであり、一機々々が完全なオーダーメイドに近い生産体系を取っている。自然、生産数は極端なまでに抑制される運びとなっている。破格の高性能を実現した一方で機体性能の維持には豊富な整備経験と細心の注意が必要となり、艦上における本機の運用は設備の充実した戦艦以上の大型艦艇に限られることとなった。
機体に対しエンジン出力があまりに過剰で、通常の手順ではエンジン始動は不可能なため、エンジン始動には外部電源の他、火薬充填式の起動カードリッジが必須となっている。操縦系統には操縦者に幾下編隊の指揮統制に専念させることを企図しアウトゲレーヴ方式が採用されているが、かといって出力過剰なエンジン制御を完全になし得るまでに至っていない。それ故に実際の本機は生半可な操縦経験で習熟し得る機体ではなく、本機の操縦者は事実上操縦技量優秀な空戦指揮官であることを証明する形となっている。
本機には射撃、通信、軽度の機体制御等に関わる操作スイッチを操縦桿とスロットルレバーに集中させることで、これらのレバーから手を離すことなく直感的な操作を実現、操縦席前方を占める広角度照準鏡上に速度、高度、針路、発進地点の方位といった飛行に必要な情報を数値化して表示するという、後のHOTAS、HUDの始祖的な機構すら本機には組み込まれていた。後に敵機の翼幅から自動的に射点を修正する機構も実装される。
本機の初陣は「アレディカ戦役」であり、「凶仮面」ことグロフリー‐ド‐ナ‐キャラトレン中佐(当時)は当時一機のみ試験配備されていたゼーベ‐ガルネ初号機を駆り、二度の出撃で二隻のラジアネス軍戦艦、一隻の艦隊型空母、二隻の巡航艦を撃沈、一二機のラジアネス軍機を撃墜し勇名を馳せると同時にラジアネス軍を戦慄させた。彼以外にも本機の操縦者としては「雌虎」ことセルベラ‐ティルト‐ブルガスカ少佐(開戦時)が有名。敵手たるラジアネス軍は本機を評して「戦闘機のシルバー‐エンジェル(ラジアネスの最高級乗用車の名)」と呼び、ラジアネスの操縦士はその高性能を恐れると同時に、蒼空の高みにあってレムリア軍の大編隊を統率する本機の姿に畏敬の念をも抱いたという。




