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対魔王人類同盟  作者: 茅ヶ崎栄太郎


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第7話 帰還

調査を終えて聖都に帰還した私を待っていたのは

法王国上層部からの詰問だった。


法王宮の一室。

磨き上げられた大理石の床が朝日を反射している。

枢機卿たちが並ぶ円卓に向かって

私は一人で立たされていた。


「報告書は読ませてもらった」


枢機卿たちから冷気を含んだ声が飛ぶ。


「王国と共和国が両国とも壊滅。

 魔王軍に対抗する戦力は法王国のみとなってしまった。

 一体どうなっておるのだ」


別の枢機卿が言葉を継ぐ。


「王国と共和国の関係改善も

 貴官の責務であったはずだ」


2年前に私が赴任した時点では、両国の関係は最悪だった。

お互いに蛇蝎のごとく嫌いあっており、魔王国に対抗する為に

彼らを同じテーブルにつかせるのは一苦労だった。


三国同盟が成ったときに書記官が

「奇跡って本当にあるんだ」と呟いたのを覚えている。

実際にはそんな良いものじゃない。

関係者に飲ませて食わせて抱かせて無理やり引き出した譲歩だ。


一方で、そこまで関係が悪化した原因も我が法王国だ。

かつては大陸最大の国家であった我が神聖なる法王国であるが

精強な騎士団により周辺国を併合して勢力を拡大してきた王国と

経済力を背景に徐々に国力を拡大する共和国に追い抜かれ

徐々にプレゼンスを弱めつつあった。


大陸の最大国家としての権勢を思うがままにしてきた

法王国の枢機卿どもはそれでは満足できなかった。

だから両国に潰し合わせて逆転しようとしたわけだ。

30年かけて工作した結果、どちらの国民も相手国に悪感情をもつような

捏造された歴史を信じこまされている。

この工作においては違法薬物を流したり

非合法組織を支援したりまでしていて

実際に相手を嫌う理由も作ってきた。


そこに魔王国が登場してそれどころではなくなった。

法王国の国教では魔族の存在を認めていない。

邪悪で卑しい魔族どもは神の民たる資格がないのだそうだ。

法王国としては最優先で魔族の国なんてものは滅ぼさねばならない。

そこで、王国と共和国と同盟して魔王国を打倒しようというわけだ。


そういう出鱈目を指示してきたのがこの部屋にいる枢機卿たちだ。

忘れたふりが恐ろしく上手いのか、面の皮が極厚なのか。

私にはどちらなのか確かめる術がない。


「すべて順調だと報告していたのは君だろう。

 一体何を根拠にそう報告していたのだ。」


感情の伺えない声で枢機卿が続ける。


いい気なものだ。

魔王国を滅ぼした後、王国と共和国を戦わせる為に

関係修復をさせなかったのはお前たちじゃないか。

王国の奴らがあんな妄想に取りつかれたのも

お前らがバラまいた薬物が原因じゃないのか。


「黙っていないで何とか言ったらどうなんだ」

「平民のお前にチャンスを与えた我らへの感謝を忘れたか?」


私は深呼吸する。

ここで黙り込んでいては状況は悪化するばかりだ。


「報告書にも記載しましたが」


私は口を開く。


「王国兵の全員が、共和国が魔物に占拠されたと信じ込んでいました。

 階級も部隊も異なる兵士たちが、口を揃えて同じことを証言しています」


「それが何だ」


「魔王の未確認の能力ではないかと考えます。

 何らかの方法で王国全体を洗脳状態に置いた可能性があります」


枢機卿たちの視線が私に集中する。


「根拠は?」


「国王も含め、全員が本気で信じ込んでいました。

 現場の下級兵士まで揃って同じ証言をしており

 嘘をついている気配はありませんでした。

 これほど大規模かつ完璧な口裏合わせは不可能です」


「推測に過ぎないではないか」


別の枢機卿が冷たく言う。


「仮に魔王の仕業だったとして、それがどうした。

 王国と共和国が壊滅した事実は変わらない」


「これからどうやって魔王国を打倒するつもりだ?」


さらに別の枢機卿が畳みかける。


「法王国単独では魔王国に対抗できない。

 貴官も報告書でそう書いていたはずだが」


それはそうだ。

彼は何が起こったか知りたくて私を吊るし上げているわけではない。

私らしくもなく、プレッシャーに焦って素直に答えを返そうとしてしまったが、今回の条約推進派である枢機卿は、当初の「魔王国打倒後に王国と共和国を除いて大陸支配を完成させる」という計画が狂ったことを、他の枢機卿から糾弾されて地位を失いかねないとおそれているだけだ。

私に求められているのは事実を述べることではなく、失敗の責任を追及されないで済むような落としどころを出せと言われているだけだ。

だが、彼らが望むような解決方法は存在しない。

帰りの馬車で寝ずに考えたが法王国が大国として生き残る方法は1つしかない。

彼らは絶対に採用しないだろうがこのまま沈黙するよりマシかと口を開く。


「今後の方針について、提案があります」


私は意を決して言った。


「魔王国と国交を樹立してはいかがでしょうか」


室内の空気が凍りついた。


「交易を行い、経済的な結びつきを強める。

 その過程で我が国教を布教し、

 魔王国を内部から変えていく。

 武力ではなく、信仰による支配です」


間接的な支配。

それならば法王国の国力を損なうことなく

大陸全土に影響力を及ぼせる。


「貴様…。

 卑しい魔族どもに我が聖教を布教せよと言うのか…?」


枢機卿の一人が立ち上がった。


「魔族どもに神聖なる国教を布教するなど

 神への冒涜も甚だしい!」


「ですが、他に…」


「魔族は人ではない。獣だ。

 あのような者どもに神の教えを説くなど

 考えただけでも吐き気がする」


他の枢機卿たちも同意するように頷いている。


私は口を閉じた。

分かっていたがやはり即座に拒絶されてしまった。

こいつらだって我が国が覇権国である為には

それしかないと分かっているだろうに。


いや、もしかしたら本当に分からないのか?


魔王国と直接国境を接していない彼らは

魔王国の脅威を低く見積もりすぎている。

赴任中に出会った魔王国の交易商から聞いた発展ぶりと組織力。

あの国は人間の三カ国とは根本的に何かが違う。


だが枢機卿たちの頭の中にあるのは

王国を支配下に置く計画と

計画変更の責任を追及されることへの恐怖だけだ。

表向きは魔王の脅威を口にしながら

実際は権力闘争にしか興味がない。


「下がりたまえ」


枢機卿が手を振る。


「今後の対応は我々で協議する。

 王国への戦後支援と再建計画も進めねばならん。

 貴官は待機していろ」


戦後支援。

聞こえは良いが要するに王国を法王国の支配下に置くということだ。

裁判で王を処刑し、復興支援の名目で介入し

やがては属国に変える。


私は一礼して部屋を出た。


---


廊下で書記官が待っていた。


「お疲れ様です」


彼は私に歩み寄る。


「どうでした」


「散々だった」


私は肩を落とす。


「どうにもならん

 魔王国との国交樹立も即時却下された」


「そうですか…」


書記官が小さくため息をつく。


二人並んで廊下を歩く。

窓の外には聖都の街並みが広がっていた。


整然と区画整備された街路。

白い石造りの建物が立ち並び

中央の大聖堂が空に向かって聳え立つ。


美しい街だ。

秩序と規律に満ちている。


だが、その秩序は

他者を見下し、排除することで保たれている。


「調査官殿」


書記官が小声で言った。


「いっそ魔王国に亡命しますか?」


「は?」


私は足を止めた。


「あちらの方が我々を評価してくれるかもしれませんし

 少なくとも、こんな理不尽な叱責は受けないでしょう」


書記官が笑顔を向ける。

気をつかってくれているのだろうか。


私は無言で彼を見つめた。


「冗談ですよ」


呆れて黙り込んだように思ったのかもしれないが

私は真剣に考え始めていた。


魔王国への亡命。


これまでの人生で一度も考えたことのない選択肢だ。

あり得ない選択肢。いや、本当にあり得ないか?

あらゆる亜人を受け入れて急激に成長する魔王国では

新参の部族から閣僚になった者までいるという。

同族である人類まで身分で区別するこの国にいるよりも良いかもしれない。

経済発展著しいあの国なら、規模の拡大に伴いポストも増え続けている。

国力が縮む中で増えないポストを老人たちが奪い合っているこの国とは違う。


「調査官殿?」


黙りこんだ私に何かを察した書記官が、まさかという顔を向ける。


「なあ、書記官どの

 少し話さないか」


私は歩き出した。


窓の外に広がる聖都の街並みを

いつもとは違う目で眺めながら。

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